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【ESG投資の注目点】「水」問題に企業も危機感

2012年01月01日 ESGリサーチセンター、長谷直子


「水」をめぐる問題が自社の事業活動に及ぼす影響について、危機意識を持つ企業が増えている。農業や産業の発展、人口増加によって、水質汚染や水不足などの問題が深刻化しているからだ。事業活動に利用する水源の確保に加え、気候変動などに伴う水問題も意識されつつある。10月初めにタイで洪水が発生したが、工業団地の水没でサプライチェーンが寸断され、日系企業にも大きな被害が出たことは記憶に新しい。

国連によると、2008年時点で約9億人は安全な飲料水が確保できず、約11億人は整備された給水源を利用できていないとされている。国連食糧農業機関は、2025年までに世界人口の3分の2が水不足の危機に陥る可能性を示唆している。また、気候変動を起因とする降水特性等の変化は、干ばつの増加、沿岸域における洪水や暴風雨による被害の増加をもたらすと言われる。

こうした中、機関投資家や金融機関等が、企業に対して気候変動への戦略や具体的な温室効果ガスの排出量の公表を求める「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」では、投資家からの開示要請の高まりを受けて、水の開示プロジェクトが始まった。水使用量、排水量の管理状況、水利用のリスクと機会に対する取組み等に関して、全世界の190企業から回答を得ている。

今年で2回目の調査となったが、調査票の回答率は昨年に比べて上がり、多くの回答企業が、水問題を重大なリスクとして認識していることが明らかになった。また、回答企業のうち39%が、水問題によって自社の事業活動に直接的な損害を被っていることが分かったという。特に、多量の水資源を消費する産業では、工場周辺の地域コミュニティとの摩擦を起こしやすい。コカ・コーラのインド工場では、地下水の過剰採取が水問題を引き起こしたとして、工場周辺の住民から反対運動を受けたという事例が報告されている。

国によっては、排水基準の強化や総量規制が実施されれば、排水の処理費用や工場の操業にも影響が出かねない。他の水利用者との間で利用権を巡る争いが起こされることもあり、水の問題が企業の存続に関わることもありうる。

エネルギーやカーボンの適正な管理については、既に企業に対しての要請は明確になっているが、同様に、水資源の適正な管理やリスクへの対応についても、今後さらに関心が高まることになるだろう。海外の大手飲料メーカーのなかには、水質・水不足の問題を社会的課題と捉え、パートナー会社や地域社会、納入業者、他の水利用者と共に課題に対応する体制を構築する企業も出ている。水資源の適正な管理は、企業における社会的責任の重要な側面として関心が高まっている。ESG投資においても、今後の各企業の対応が注目されるだろう。

*この原稿は2011年12月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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