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アジア・マンスリー 2011年11月号

【トピックス】
中国のインフレは緩和の方向

2011年11月02日 関辰一


景気がやや減速するなか、中国の消費者物価上昇率は高水準で推移しているが、今後、豚肉などの供給
増加を受けて、緩和すると見込まれる。

■高いインフレ率とその問題点
中国の消費者物価上昇率(前年同月比)は、2009年2月から10月までマイナスで推移した後、同年11月にプラスに転じた。その後、一段と上昇し、2011年8月には前年同月比6.2%に達した。
インフレは実質所得の押し下げを通じて、個人消費の押し下げ要因となる。2011年1~6月期の名目所得は前年同期比13%上昇したものの、足元のようにCPI上昇率が6%の状況では、実質所得の上昇率は7%にとどまる(2010年の名目所得は前年比11.3%増、CPI上昇率は前年比3.3%)。これにより、消費の増勢も鈍化している。2010年におおむね前年同月比15%増と高い伸びを維持していた実質小売売上高は、2011年入り後11%前後の伸びで推移している。
インフレ率の高まりにより、政府は金融引き締め政策を継続している。たとえば、リーマンショックのあった2008年9月から同年年末にかけて金利を大幅に引き下げた後、2010年10月以降は利上げに転じている。金融引き締め政策はインフレ抑制や不動産価格の安定をねらいとしたものだが、一方では資本調達コストが上昇するため企業部門には厳しいものである。とりわけ、内部留保が少なく金融引き締めの影響を受けやすい零細企業・個人事業主が投資を延期している。2011年1~7月の個人事業主の投資額は前年同期比▲18.9%と大幅減少に転じた。
実質個人消費と金融引き締め策の今後を検討するためにも、インフレの行方が注目される。

■豚肉を中心とした食料品価格の上昇が主因
中国のCPI上昇率は、先進国と同様に景気に連動する傾向がある。実質GDP成長率とCPI上昇率には正の相関関係が確認できる。そのラグはおよそ半年である。2001年1~3月期から2011年4~6月期の2変数の相関係数は0.772に達する。実質GDP成長率は2010年1~3月期をピークに低下したため、CPI上昇率は半年後の2010年7~9月期前後から低下に向かうと見込まれていた。
ところが、CPI上昇率は2010年秋口以降もいっこうに低下しなかった。なぜCPI上昇率は景気減速下で、高止まりしているのか。所得が大幅に上昇しているためとの見方もある。もしそうであれば、所得弾力性の高い財・サービスを含む非食料品価格がCPIのもっとも大きな押し上げ要因となるだろう。品目別にCPIをみると、今回のインフレは食料品の価格上昇が大半の要因であると判断できる。8月の食料品の寄与度は4.0%ポイントに達する。他方、非食料品の価格上昇の寄与度は2.2%ポイントと、その影響は限定的である。
とりわけ、豚肉価格が注目される。中国では豚肉はきわめて重要な食品である。豚肉向け支出は食料品支出の1割を占める。豚肉は牛肉に比べて単価は安く、ぜいたく品というよりむしろ生活必需品である。その価格は2010年半ばから急上昇し、8月時点で前年同月比45.5%高となった。このような豚肉価格の高騰は2004年、2007年にも発生した現象である。

■インフレは緩和の方向
足元ではインフレに緩和の兆しがみられる。8月のCPI上昇率はなお高いものの、7月に比べて0.3%ポイント低下した。金融引き締め策の効果も一部あるものの、豚肉価格が供給増加を受けて下落に転じたことが主因である。8月の豚肉価格(季節調整値)は前月比▲4.4%であり、これだけでCPIを▲0.12%ポイント押し下げた模様である。
中国では参入・撤退の容易な零細生産業者が多く、供給量が大きく振れるため、豚肉価格は需要よりも供給要因で決定される傾向がある。大規模な生産業者が中長期的な生産計画に基づき、供給量を安定的に保っている先進国と異なる。豚肉価格が高騰すると多くの庭先農家が子豚を調達して飼育を始める。ところが、出荷時期になると、供給量の増加により需給バランスが崩れ、価格は下落する。すると、多くの庭先農家が豚飼養から退出するため、やがて供給不足により価格は高騰する。こうしたメカニズムにより、豚肉価格は3年に一回高騰する周期が見られる(ピッグサイクル)。足元についてみると、2010年の豚飼養頭数は前年比で減少していたものの、2011年入り後増加に転じた。
今後を展望すると、豚肉価格は供給拡大により下落に転じる見込みである。穀物など他の食料品も供給拡大により、価格急騰に歯止めがかかる公算が大きい。食料品価格が2005年や2008年同様横ばいで推移するとの前提で試算すると、CPI上昇率は2011年7月をピークに、2011年末には4.5%まで低下する。2012年半ばには3%を下回り、実質GDP成長率の伸びに見合う水準に落ち着く見込みである。
インフレ沈静化は、実質所得の押し上げを通じて、個人消費を押し上げると同時に、金融緩和の余地が広がることで、中国景気の下支え要因となることが期待される。
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