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Business & Economic Review 2011年11月号

【特集 拡大する新興国経済と日本の対応】
インフラ輸出成長戦略の再構築-OOFとODAの課題と役割

2011年10月25日 三浦有史


要約

  1. 民主党政権の「新成長戦略」の一つに「アジア経済戦略」がある。同戦略のなかで、今後も伸張が期待されるのがパッケージ型インフラの海外展開である。インフラ輸出が成長戦略に組み込まれた背景には、先進国におけるインフラの老朽化と新興国の新規需要の拡大がある。世界経済フォーラムの約3兆ドル(世界のGDPの5%)という需要推計は過大であるが、海外に巨大なインフラ需要が存在することは間違いない。


  2. 多くの新興国ではインフラ整備が進めば経済成長率も高まるという好循環が働く余地があり、これをどのように取り込むかはいずれの国においても成長を支える重要な要素と考えられるようになっている。欧米主要国にとって中国は輸出先あるいは投資先として、また、世界最大の外貨準備を背景に自国財政を支える投資国として欠くことのできない存在となった。欧米諸国は国内世論の動向を見極めながら「人権」と「経済」を使い分け中国市場にアプローチしている。


  3. わが国においても、民主党政権の誕生に伴い国家戦略室が新設され、官民一体となったインフラ輸出の強化が謳われるようになった。しかし、「インフラ輸出の真価が問われる」とされた原発輸出は福島第一原子力発電所の事故によって環境が一変した。同事故からは、パッケージ型インフラ輸出には個々の企業が優れた技術を有しているだけでは不十分で、①高い独立性と透明性を有し、説明責任を果たしうる官僚機構、②安定した政権、③競争力を磨く骨太な政策体系の三つが不可欠という教訓が得られる。


  4. わが国におけるインフラ輸出に対する公的支援は2010年12月の「パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合決定事項」によってその大枠が示され、国際協力銀行(JBIC)の先進国向け輸出金融と投資金融機能が大幅に強化されたほか、独立行政法人日本貿易保険(NEXI)の保険対象の拡大や付保率の引き上げが図られた。しかし、大型インフラについては、①受注決定に至るまでの過程がブラック・ボックスで、受注の可否が国際政治上の怜悧な駆け引きで決まること、②新興国の台頭によって競争が熾烈を極めるようになってきたこと、③先進国間の競争も激しくなってきたことから、受注は容易ではない。


  5. インフラ需要を取り込もうとする国際競争の激化はインフラ投資に対する開発途上国政府の考え方を変えつつある。今日ではたとえ「破綻国家」あるいは「脆弱国家」であっても、新興国はためらいなく支援を始める。アフリカでは中国が先行し、インドがそれを追いかけるという展開が続いている。また、テロないし紛争の防止という観点から先進国や世界銀行も「破綻国家」や「脆弱国家」に無関心ではいられなくなった。経済成長著しいアジアの開発途上国の優位性は高く、インフラ整備によって経済成長の持続性が高まると見込める国については、投資に必要な資金を二国間の借款や国際金融機関からの融資ではなく、リスクを取る民間企業から調達することが可能になってきた。


  6. 先進国から開発途上国への公的資金の流れをみるとOOF(Other Official Flow)よりもODAが圧倒的に多い。ODAでも官民連携を進め、インフラ輸出に戦略的に用いるならば、その利用価値は高い。『2010年政府開発援助(ODA)白書』では、インフラの海外展開にODAを積極的に活用するとされ、「新成長戦略」によってわが国のODA政策は「情けは人のためならず」という従来の立ち位置を「わが国の国益」を重視した位置にシフトさせた。しかし、ODAは、①財政赤字の累増、②円借款返済の増加、③インフラ需要争奪戦の激化によるPPPプロジェクトの対象範囲の拡大によって、今後も削減を余儀なくされるであろう。


  7. インフラ輸出を経済成長の牽引力とするための課題は多い。まず、わが国は震災復興を契機にPPPを活性化させ、そこで生み出された「日本モデル」がインフラ輸出を支える最大の武器になると考える必要がある。また、「国益」重視にシフトしたODAは、①東日本大震災を契機に「国際益」に目覚めた人々を失望させる、②「国威発揚」プロジェクトへ資金を供与し、相手国に膨大な借金を負わせる、③相手国の官業肥大化を招く、といった危険性を孕む。さらに、パッケージ化したインフラを輸出するということは、開発途上国における公共財・サービスの担い手になることを意味するため、わが国企業には開発途上国の「開発」に参画しているという意識が求められる。


  8. 政府は、「PFI法の基本理念が十分に実現されているとは言いがたい」という現状を早急に変えていく必要がある。また、先送りしてきた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加や法人税の減税に早急に取り組むべきである。これらの課題を放置したたままで、インフラ輸出に対する公的支援の拡大を図るというのは、いかにも矛盾している。ODAについては、曖昧にしてきた税と社会保障の一体改革に目処をつけたうえで、ODAを含む国際協力に対するわが国の基本的な立場を示し、国民的合意が形成されるよう努める必要がある。そのためには実態に即した客観的な評価が不可欠である。また、ODAは、OOFやPF(Private Flow)を促すため、プログラム援助を通じて開発途上国の行財政改革や金融セクター改革といった上位目標への取り組みを強化すべきである。輸出信用アレンジメントについては、国家資本主義あるいは保護主義の広がりを食い止めるため、わが国は率先してOECDでヘルシンキ合意の見直しを急ぎ、これをG20でルール化することを試みるべきである。
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