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アジア・マンスリー 2011年10月号

【トピックス】
アジアへの資本フローの動向と求められる対応

2011年10月03日 清水聡


近年、アジア諸国への資本フローが急速に拡大し、不安定性が高まっている。資本取引規制は、これに対処する一つの方法となる。また、資本フローへの対処は、域内金融協力の重要な課題でもある。

■拡大したアジアへの資本フロー
 アジアに対する資本流入は2001~02年以降増加に転じ、2007年まで拡大が続いた後、世界金融危機の発生に伴い大幅に減少した。しかし、2009年半ば以降回復し、2010年には一段と増加している。中国への流入額は2004年に1,000億ドルを超え、2007年には2,412億ドルとなった。その後急減したが、2010年には4,055億ドルに増加している。香港・韓国・シンガポール・タイ・インドネシア・フィリピンへの流入額は、2007年の水準に回復していないものの、2010年に前年の約2.4倍となる3,755億ドルに達している。
各国の動きは多様であるが、先進国・地域である香港・シンガポール以外で証券投資の流入が好調である点は共通しており、アジアの途上国の株式・債券市場に対する海外投資家の関心が高まったことが明らかである。
また、最近の資本流入の増加については、香港への銀行融資やインドネシア・韓国への債券投資など、債務性のフローが拡大していることが特徴的である。債券投資に関しては、金利差等の短期的な要因に加えて、海外投資家による途上国債券保有が趨勢的に増加していることが影響している。
 債券投資が増加している要因は、第1に、市場の拡大や海外投資家に対する投資規制の緩和が進んでいることである。第2に、途上国の経済ファンダメンタルズが改善していることである。多くの先進国よりも財政状態が良好な上に、長期金利が高く、通貨の増価期待も強い。格付けも、上昇傾向にある。こうしたことから、途上国債券ファンドへの年間資金流入額は、2005年の約50億ドルから2010年には約350億ドルに増加している。海外からの資本流入の拡大は、アジア債券市場の成長に貢献していると考えられる。

■資本取引規制の活用
資本流入には、利用可能な資金の増加、投資家の多様化、国内金融資本市場の質の向上など、多くのメリットがある一方、その急激な増加は、インフレ圧力や資産価格バブルをもたらす危険性がある。IMFの分析によれば、今回のアジアへの資本流入の増加は、アジア通貨危機や世界金融危機に先立つ時期と比較して、きわめて短期間に起こっている。資産価格は、中国や香港の不動産などを除けばそれほど割高とはなっていないものの、不安定さを増す国際金融情勢を反映し、アジアへの資本フローのボラティリティは趨勢的に上昇傾向にあることから、資産価格バブルとその崩壊が起こる危険性は増している。
このような状況を受け、資本フローに対処するための伝統的な手段である為替政策、財政金融政策、金融機関に対する健全性規制などに加えて、資本取引規制の有効性が次第に評価されるようになってきた。IMFの姿勢も肯定的なものに変化しており、規制がもたらす歪みや実施のコストを考慮した上で、一時的な資本流入の急増に対しては実施してもよいとしている。ただし、必要なマクロ政策を実施することは大前提である。また、長期的・構造的な流入増加に対しては他の手段で対応するのが基本であるとしている。
アジアには比較的厳しい資本取引規制を維持し、金融政策の独立性を確保しつつ、自国通貨の増価を抑制している国が多い。また、世界金融危機以降、資本フローに対する管理を強める動きがみられる。
資本取引規制の実施に当たっては、規制の効果とコストを比較した上で、いろいろな政策の組み合わせの中で検討すべきであろう。流入規制がもたらしうる副作用としては、①国内金融資本市場の発展が遅れること、②為替レートの安定を図ることによって一層の資本流入を招くこと、③規制の実施による信認の低下が資本流出を招くこと、などが考えられる。

■域内金融協力の必要性
急激な資本流入・流出への対処は途上国にとって困難な課題であり、域内金融協力による取り組みが重要な役割を果たす。現在、域内金融協力の見直しが実施されており、ASEAN+3財務大臣会議に次回より中央銀行総裁が参加することとなった。中央銀行の関与が強まることで、今後、マクロ政策運営・協調、通貨金融危機への対処・予防、金融規制などに関する議論が活発に行われることが期待される。また、こうした観点から、域内諸国の経済情勢・政策のサーベイランスを行う機関として最近シンガポールに設立されたAMRO(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office)の今後の活動が大いに注目される。
アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)を中心に行われている各国の金融資本市場整備も、重要性を増している。債券市場は、急激な資本流出が生じた際の補完的な資金調達手段として、あるいは他の形態の資本流入に代替する手段として、機能することが期待される。資本の急激な流入・流出に耐えられる強固な市場を構築することが、債券市場の課題である。特に重要なことは、海外投資家を受け入れるとともに国内投資家を育成することによって投資家の多様化を図り、市場価格の安定や市場流動性の向上を実現することである。これにより、市場価格の一方向への急激な変動を抑制することができる。さらに、資本フローとともに外国為替取引額が増加することから、為替レートの柔軟性の向上や為替デリバティブ市場の整備なども重要となる。
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