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アジア・マンスリー 2011年9月号

【トピックス】
経済面で深まる米中の政策協調

2011年09月01日 佐野淳也


米中は2011年5月、経済成長及び経済協力の促進に関する包括的枠組みに調印し、政策協調を進めている。人民元レートの弾力化推進等の合意は、中国経済の成長持続に向けてプラス要因となろう。

■米中関係は協調と対立の並存状態
最近の米中関係においては、南シナ海や朝鮮半島の地域安全保障問題等で主張が鋭く対立する局面がみられる。経済面でも、中国の為替政策や知的財産権保護をめぐる意見の対立は依然解消されておらず、二国間関係を悪化させかねないリスクを孕んでいる。
半面、米中には対立を緩和させ、協調関係を深めるための政府間協議枠組みが存在する。とりわけ、重要な役割を果たしているのが米中戦略・経済対話である。
米中戦略・経済対話は、2009年4月のオバマ大統領と胡錦濤国家主席の首脳会談で開催が決まった大臣級の定期会合であり、戦略対話と経済対話の2部門から構成されている。最近では5月9~10日にワシントンで3回目の戦略・経済対話が開催され、いくつかの成果をあげた。安全保障面においては、外交・国防部門高官の協議が戦略対話枠組みの下で初めて開催され、アジア太平洋地域に関する実務者協議を立ち上げることで合意した。劇的な進展は見込みにくいものの、協議(6月下旬、ハワイで開催)の積み重ねを通じて、相互の信頼醸成の強化につながろう。

■「包括的枠組み」の調印
 経済面では、「経済の力強い、持続可能でバランスの取れた成長及び経済協力の促進に関する包括的枠組み」(以下、「包括的枠組み」)の署名が最大の成果といえる。2011年5月に調印された「包括的枠組み」の内容から、米中の経済政策における協調の深化を指摘できる。
まず、原則として、「相手国経済の健全かつ持続的な成長が自身の繁栄に不可欠」との文言が明記された。2008年9月以降中国は日本を上回り、最大の米国債保有国となっている。これは、米国経済が中国経済に支えられている状況を示すと同時に、米国経済が不振に陥った場合、中国の保有資産が大きく毀損することを意味している。しかも、中国にとって、米国は単独の国・地域としては最大の輸出先である一方、米国にとっても、中国は主要な貿易相手であるのみならず、輸出拡大戦略の重点国と位置付けられている。相手国の経済成長が自国の繁栄に不可欠との文言は、将来のあるべき姿ではなく、こうした経済面での相互依存の進展を反映したものといえよう。
具体的な経済問題に関する米中の政策協調でも進展がみられた。
例えば、中国の為替政策をめぐり、米国側は人民元レートの過小評価が貿易不均衡の主因と指摘したうえで、その早期是正を強く要求し、中国側は米国の主張に激しく反論するというのがこれまでの基調であった。しかし、「包括的枠組み」では、従来と異なる対応が前面に押し出されている。中国は「人民元為替レートの弾力性を引き続き高める」ことを約束したが、これは中国側の片務的な義務ではなく、米国側による「為替相場の過度な変動に対する警戒の維持」とセットで明記された。米中が他国とともに、国際通貨環境の安定を図る方針も盛り込まれている。「包括的枠組み」は、米中が為替安定に向けての共同取り組み策を提示した点で、一歩前進と評価できる。
金融部門の監督や管理部門における二国間、多国間の協力推進に加え、「金融市場への生産資本の流入」拡大についても、米中の意見が一致したと明記されている。GDP規模で世界第1位と第2位の米中が単なる規制強化にとどまらず、成長に資する資金調達の機能を重視し、金融市場の発展維持の姿勢を示すことができた意義は大きいといえよう。また、「包括的枠組み」は、世界経済の安定や国際金融システム改革に関連して、IMFやG20の重要性を強調している。中国はG20のメンバーであるものの、G7のメンバーではない。他方、IMFは米国の発言権が大きい国際組織である。これらは、中国が国際経済面でより大きな役割を果たすこと、米国がアジア太平洋地域の安定や繁栄に関与することについて、いずれも歓迎するという基本方針を具現化したものと位置付けられる。

■合意内容の履行は、中国経済の成長持続にプラス
「包括的枠組み」調印後の中国側の対応をみると、人民元対米ドルレートにおける緩やかな元高容認など、合意内容の履行に取り組んでいる。元高は、輸出の減速を通じて、成長の押し下げ要因になりかねない半面、急ペースでなければ、企業の生産性向上の好機となり得る。しかも、中国経済は足元でインフレが続いており、物価対策として緩やかな元高が期待される状況である。したがって、人民元レートの弾力化を推進し、目下の元高傾向を容認することは、中国経済の安定、さらには成長持続にもプラス要因となろう。
また、「包括的枠組み」には、双方が「インフラ建設を含む新たな協力のチャンスを模索」すると明記されている。米中戦略・経済対話の戦略対話においては、省エネ・環境対策面での協力強化で合意している。これらの合意事項の履行は、中国経済のバランスのとれた経済発展に有益と考えられる。世論や景気動向に配慮しつつも、中国政府には着実な履行が望まれる。
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