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アジア・マンスリー 2011年8月号

【トピックス】
アジアのインフラ需要をいかに取り込むか

2011年08月01日 三浦有史


アジアのインフラ需要は大きい。わが国政府は相手国政府に政策・制度改革に対する中長期的な支援
を強化するとともに、自国でモデルとなり得るPPPを形成して、これを取り込む必要がある。

■広がるインフラ需給ギャップ
 経済成長と都市化の進行に伴い開発途上国、とりわけ新興国のインフラ需要が高まっている。世界銀行が2008年に発表した「持続可能なインフラ・アクション・プラン」によれば、開発途上国では新規インフラ建設および既存インフラの維持・管理のために毎年9千億ドルの投資が必要とされるが、IFC(国際金融公社)やMIGA(多国間投資保証機関)を含む世界銀行グループが直接ないし間接的に関与したインフラ投資は年130億ドルに過ぎない。同グループは2008~2011年度中に1,090~1,490億ドル、年当たり262~373億ドルの投資を行う予定であるが、需給ギャップは依然として大きい。
開発途上国におけるインフラ投資には、わが国の円借款のような二国間の政府開発援助(ODA)、外国直接投資、開発途上国自身の財政資金あるいは民間企業による投資といった世界銀行が関与しないプロジェクトもあり、上の数字だけで需給ギャップを測ることはできない。しかし、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)メンバーによるODAに外国直接投資などの私的資金(Private Flow: PF)や輸出信用などのその他公的資金(OOF)を合わせた純資金フローは、金融危機が発生した2008年に急速に減少し、ピーク時(2007年)の水準に回復していない。その一方、産油国を除く開発途上国は金融危機に伴う景気刺激策やその後の食糧および原油価格高騰を抑えるための補助金支出の拡大によって、自力でインフラ整備を図る余裕がない。需給ギャップは拡大する一方である。

■存在感大きい中印
需給ギャップが最も著しいのはアジアである。2010年、アジア開発銀行(ADB)は、2010~2020年のアジア(ADB加盟の開発途上国)のインフラ需要が8兆2,225億ドル、年当たり7,475億ドルに達すると推計した。世界銀行の推計に比べてかなり規模が大きいが、これは①各国の成長率を高めに設定している、②世銀が推計の対象外とした送配電、航空、港湾などのインフラを含んでいるためである。アジアにおけるインフラ需要の国別内訳を見ると、中国が4兆3,676億ドルと全体の53.1%、インドが2兆1,725億ドルと26.4%、両国で全体の8割を占める。中国は世界貿易機関(WTO)に加盟しているものの、政府調達における外国企業の参入を認める「政府調達協定(GPA)」に調印していないことに加えて、自国企業への発注を優先する傾向が強いとされることから、外国企業の参入機会は限られる。一方、インドはGPA締結国ではないものの、インフラ整備に必要な資金や事業のノウハウを外国から取り入れることに積極的で、わが国との間では総事業費900億ドルともされるデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)が進められている。

■低迷する東アジアのPPP
縮小する内需に閉塞感を強めるわが国企業にとって、アジアのインフラ市場は非常に魅力的である。政府は「パッケージ型海外インフラ展開」を新成長戦略の一つに掲げ、トップセールスをはじめODA、OOF、貿易保険を活用した支援の枠組みを整備するなど、企業を後押ししている。しかし、他の先進国企業はもちろん韓国や中国においても同様の取り組みがなされており、競争は熾烈である。インフラ市場はさながら官民一体となった「売り込み合戦」の様相を呈しつつある。「売り込み合戦」に発展したもう一つの理由は、開発途上国にインフラ整備に外国企業の資金やノウハウを積極的に導入しようという考え方が浸透しつつあることがある。世界銀行は、非競争的で外部性の高い公共財以外は、外国のODAやPFを活用した官民連携プロジェクト(Public Private Partnership: PPP)を導入するよう提唱している。
PPPはインフラの建設や運営・維持にかかわる資金およびノウハウを民間から調達し、納税者に対する公共サービスの価値を最大化しようとする仕組みである。PPPは財政赤字の削減と公共サービスの効率化を通じて貧困削減さらには経済発展を加速する効果があると期待されている。しかし、その一方で、官民間のリスクの分担のあり方や複雑な手続きがネックとなり、プロジェクトが期待通りに進まないという問題も散見される。東アジアは1997年に投資額が370億ドルに達したものの、その後は年間100~200億ドル程度の水準で推移しており、2009年はサブサハラ・アフリカとほぼ同等の水準にとどまるなど、PPPの低迷が鮮明である。
成長率の高い東アジアのインフラ需要ギャップはその他の地域に比べて大きい。折しも、インドネシア政府は2010年に473億ドル相当のPPPプロジェクトを発表し、ベトナム政府も同年にPPPに関わる法整備を図り、パイロット・プロジェクトの選定を進めている。両国が期待を寄せるのはわが国の投資である。しかし、ベトナム政府内には、PPPを「対外債務を伴わない新たな資金調達手段」とする見方があるなど、外資に一方的にリスクを負わせる安直なプロジェクトが形成されたり、PPPによって官業の肥大化を招いたりする可能性がある。
わが国では、わが国企業の視点からアジアのインフラ市場が論じられることが多い。しかし、PPPを活性化させるためには、やはり最終的な受益者や相手国経済の成長の持続性に対する視点が欠かせない。政府は投融資の保証や貿易保険を通じて企業を後押しするだけでなく、相手国政府に行財政改革や国有企業改革の一層の推進を促すなど、政策・制度改革に対する中長期的な支援を強化する必要がある。また、わが国の競争力を高めるためには、わが国自身が国内でモデルとなり得るPPPプロジェクトを形成していくことが求められる。
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