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Business & Economic Review 2011年8月号

【特集 震災復興に向けて】
被災地「新興」に向けた課題
東北の特性を勘案した産業・雇用の再生

2011年07月25日 調査部 主席研究員 山田久、総合研究部門 主任研究員 矢ケ崎紀子


要約

  1. 東日本大震災は、大津波と原発事故を併発することで、かつてない「複合大災害」となった。生活・産業の両面でその被害は甚大かつ広範囲にわたり、災害発生後3カ月を経てもなお多くの被災者の生活正常化は達成されていない。とりわけ生活基盤として重要な雇用面では、広範囲にわたって産業基盤が毀損されたことで、14万~20万人の職が一気に失われたと試算される。


  2. 被災地復興のフレームを考えるにあたって、阪神・淡路大震災の経験を振り返ると、復興需要は一時的な雇用を生み出したものの、それが一巡した後は就業者数の減少に歯止めがかからなかった。この背景には、地域産業が震災前から抱えていた構造的な問題が顕在化し、労働生産性が震災前より震災復興後に低下してしまったとの事情がある。東北においては、元の状況に戻すだけの復旧を超えて、復興後の環境変化を見越した「新興」を目指すことが必要であろう。


  3. 被災地の「新興」にあたっては、人口分布や産業集積の地域特性および被災状況を十分に勘案することが必要である。そこで東北地方の産業構造をみれば、①新幹線や高速道路が通っている背骨部分にそって、電子部品や自動車部品などの産業の集積があり、人口10万人以上の都市が存在する。一方、②この背骨をはさんで左右対称に、高齢化率が30%超の市町村が多い農林水産業中心の地域が日本海と太平洋の海側に向かって点在するという、「二重構造」が特徴になっている。
    今回最も甚大な被害を被ったのは太平洋沿岸の高齢化率の高い地域に多い。それは全国でも有数の水産業の盛んな地域であり、関連した食品産業の集積もあり、農業のウエートも高い。しかし、震災前にこれらの産業が必ずしもうまくいっていたわけではなく、水産業にせよ、食品加工業にせよ、付加価値額は減少傾向にあり、全国シェアも低落傾向にあった。つまり、被災地の多くは震災前から構造的な問題を抱えていたことを踏まえておく必要がある。


  4. こうした認識のもと、東北地方の被災地域を、①人口過疎化と産業基盤の地盤沈下にある太平洋沿岸部、②機械部品を中心とした産業集積と人口集中がみられる背骨地域、③背骨地域と沿岸部をつなぐ地域、の三つのゾーンに分類し、「地域特性を活かす」「次世代につなげる」「アジアのモデル地域となる」の三つの方向性に基づいて新興を進めるべきであろう。
    【太平洋沿岸部】…水産業等の既存の産業集積やコミュニティーを活かしつつ、状況によっては再配置や再編を検討しながら、コンパクトで自立可能な産業・生活圏としての再生を目指す。新しい思想による防災のまちづくり、アジアのモデルとなる福祉のまちづくり、水産業の6次産業化、観光振興等に取り組む必要がある。
    【背骨地域】鉄道と道路の幹線が通っている背骨にそって立地している電子部品や自動車部品等については、基本的には企業同士の支援・連携を含めた民間主導の復興が見込まれる。さらに、世界レベルの技術力や省エネルギー・システムを有する産業集積を目指すべきであり、規制緩和や税制優遇、起業支援・企業立地のインセンティブ、外資系企業を含む民間資金活用を図るための施策を総合的に実施する特区を活用することが望まれる。
    【背骨地域と沿岸部の中間地域】このゾーンでは、水田を中心とした農業地域が展開しており、一部には、船舶関連産業などが立地する。農業の6次産業化、背骨地域と沿岸部地域との間にバリューチェーンを創造し、横軸を形成していく取り組みが重要である。 


  5. 雇用対策としては、被災地周辺に仮居住を確保できない場合、将来戻ってくることを前提に被災自治体の「集団移転」を行うことが有力な対応策であり、全国の自治体が「就職つき集団移転」のメニューを提示し、そこから被災自治体が選択できるようにすることを提案したい。同時に、被災地の産業基盤再生により成長が期待される、農林水産業を軸とする「6次産業」のほか、「エネルギー・環境産業」「総合ケア産業」の各産業分野について、実践的な人材育成プログラムを開発し、これら新たな産業に従事する人々の能力開発を強力に支援することも重要である。
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