■社会問題化するNEET 不足と余剰が同居する労働市場の「歪み」を象徴するのが、「蟻族」と称される高学歴ワーキングプア、あるいは「傍老族」(親によりかかる)や「啃老族」(親のすねを齧る)と呼ばれるNEET(Not in Education, Employment or Training)の存在である。中国ではNEETが正確に定義付けされていないためその実態は明らかではないが、現地メディアの情報を整理すると、問題はまず上海市などの経済発展の進んだ地域で表面化し、近年は農村へ波及しているとされる。NEETを「20歳以下の農村の非就業人口」-「農村の後期中等教育(高校)在籍者」-「中等職業教育在籍」と定義し、『第二次農業センサス』から農村におけるNEETを求めると、2006年時点で1,941万人となる。 一見すると少ないようにみえるが、これはあくまで農村のNEETであり、都市を含めるとそれは無視できない規模に膨らんでいると思われる。上図をみても、余剰率が高いのは農民工の「出し手」ではなく「受け手」である。農村の余剰労働力の多くは既に都市へ移動しており、都市の私営や自営業などのインフォーマル・セクターに吸収されているとみるべきであろう。2011年3月、人力資源社会保障部は、中国はまだ3,420万人あまりの余剰労働力を抱えており、その内訳を農村が800万人、都市が2,400万人(高卒以上の学歴者1,400万人を含む)と発表した。データの正確性はともかく、余剰労働力が「都市」>「農村」とされたことは、農村にあった余剰労働力が都市に滞留していることを示す材料の一つといえよう。 中国におけるNEETは、未熟練労働力に対する需要が大きいにもかかわらず、供給側の高学歴化が進むというミスマッチ、あるいは、戸籍、農地、一人っ子政策などの制度によってもたらされたものと言え、問題はさらに深刻化し、社会を不安定化させる要因になる可能性がある。