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アジア・マンスリー 2011年4月号

【トピックス】
高まるアジア域内金融協力推進の意義

2011年04月01日 清水聡


世界経済におけるアジアのウェイトが増す中、域内金融協力推進の重要性が高まっている。特に、アジア債券市場整備は、インフラ整備の資金調達手段の拡大につながることが期待される。

■高まる域内金融協力推進の意義
現在、97年のアジア通貨危機以降に本格化した域内金融協力の取り組みを今後どのように進めるべきかについて、再検討が行われている。世界経済におけるアジアのウェイトが増す中、域内の金融システムを強化し、成長の支援や金融の安定を図ることは、ますます重要となっている。
アジア経済が抱える主な課題は、①高まるインフレに配慮しつつ財政金融政策の出口戦略を継続すること、②変動の激しい短期資本フローに適切に対処すること、③国内金融資本市場を整備し、域内貯蓄を域内投資に結びつける金融仲介機能を高めること、④国内需要(投資および消費)の拡大を促進し、輸出主導型成長戦略を修正して世界経済のけん引役となること、などである。これに対し、各国レベルで財政金融政策、為替レート政策、資本取引規制、金融資本市場整備などによる対応がなされる一方、グローバルなレベルではIMFやG20などを中心に世界経済の課題への取り組みが強化されている。2月のG20財務相会議では、①世界不均衡是正に向けた参考指標の設定、②国際通貨システムの機能強化(国際資本移動の監視やSDRの役割など)、③国際商品価格高騰への対処、④金融規制監督の強化、などに関し議論が行われた。域内金融協力の場においては、これらの動きを踏まえた上で地域レベルの政策を構築することが求められる。
域内金融協力の主な内容は、①緊急時の流動性支援体制の整備、②政策対話およびサーベイランスの強化、③国内金融システムの整備、である。①および②に関しては、チェンマイ・イニシアティブのマルチ化(CMIM)が合意され、これを支援するサーベイランス・ユニット(AMRO:ASEAN+3 Macroeconomic Surveillance Office)がシンガポールに設立される予定である。CMIMはIMFなどの国際的枠組みの補完という位置付けであるが、2国間協定の付加などにより枠組みの規模拡大を図るとともに、IMFプログラムとリンクせずに発動できる部分を借り入れ上限額の20%から拡大して制度の柔軟性を改善することが求められている。2月には、IMFが有する危機の予防的融資制度(Flexible and Precautionary Credit Lines)をCMIMにも付加することが提案された。一方、政策対話およびサーベイランスに関しては、為替政策を含むマクロ政策協調が目標となる。これは息の長い課題であるが、対話を継続することは不可欠である。

■重要性を増す域内クロスボーダー債券取引の拡大
アジア債券市場整備は域内金融協力の柱の一つであり、各国市場の整備と域内クロスボーダー取引の拡大が目標となっている。域内内需の拡大を背景に実体経済面の統合が強まると考えられることや、アジア地域への投資家の関心が高まっていることから、後者が重要性を増している。こうした中、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)においてABMF(ASEAN+3 Bond market Forum)が設立され、官民連携によるクロスボーダー取引促進の取り組みが開始された。
クロスボーダー取引を拡大するには、市場インフラ(取引プラットフォーム、清算・決済システム、ヘッジ手段等)や関連する規制・制度(法規制、格付け機関、会計監査基準、税制等)の調和(harmonization)や相互承認(mutual recognition)を実現することが求められる。ABMFでは、各国市場の実情を詳細に調査して調和・相互承認の枠組み導入の可能性を探るとともに、取り組むべきクロスボーダー取引促進策の候補として、新たな債券インデックスの構築、債券発行ルールの域内での共通化、域内でのファンド・パスポート制度(域内諸国で組成された投資信託商品を相互承認により域内全体で販売可能とすること)の導入、アジア社債ファンド(いわゆるAsian Bond Fund 3)の組成、域内共通格付け機関の設立、などを検討している。
調和や相互承認は相手国の法規制等を何らかの形で容認することを意味し、相当の時間を要するとともに、市場発展の水準が大きく異なる場合には実現は難しい。また、クロスボーダー取引の促進には、資本取引規制の自由化や通貨の国際化を進めることが欠かせない。これらの困難を乗り越えるためにも、上記の多様な提案を前向きに検討していくべきであろう。

■インフラ整備促進の手段としての社債市場育成
各国債券市場の整備も、依然として大きな課題である。各国市場は大幅に拡大したものの、特に社債市場については各国の発展度合いは多様であり、また、一般的に発行体は政府系企業や金融機関、エネルギー・インフラ関連企業などに集中している。債券市場は金融システムの重要な構成要素であり、クロスボーダー取引を拡大するためにも各国市場を整備して発展段階格差の縮小を図ることは欠かせない。特に、流通市場や為替リスクヘッジ手段の整備がポイントとなる。
従来の輸出主導型成長戦略の中で成長のけん引役となった外資系企業は、直接投資を含めた株式等による資金調達が多く、銀行融資や社債発行の利用は一般的に少ない。一方、金融やエネルギー・インフラ関連は内需に密接した分野であることを考えると、今後、内需拡大のための金融システム整備において社債市場の活用を重視することが必要であり、そのことが市場の拡大につながるという形で、内需の拡大と社債市場の拡大が相乗的に進展することが期待される。
そのためには、内需の拡大に重要な役割を果たす中小企業の資金調達への利用を証券化の活用などにより工夫すること、住宅ローンやカード債権の証券化など内需・サービス産業関連の債券発行を拡大すること、機関投資家の社債投資を増やすことなども検討すべきであろう。また、日本企業がアジアの内需関連ビジネスに注力する過程で現地通貨調達のニーズが高まり、現地で債券を発行するケースが増加することも予想され、これに対する支援を強化することも重要である。
このような観点からの社債市場の具体的な活用方法として最も注目されるのは、インフラ整備の資金調達への利用拡大である。アジア地域のインフラは改善の余地が大きく、今後、多額の整備資金需要が見込まれる(右図)。2月にインドネシア・タイ・シンガポールを訪問した日本経団連ミッションは、インフラ整備の推進を目的に、官民連携(PPP)スキームの整備、資金調達のための債券市場整備、2国間オフセット・メカニズムの導入などを早急に具体化することで各国首脳と一致した。インフラ整備の資金調達は大規模かつ長期的なものとなるため、インフラ・ファンドなどに加えて、プロジェクト・ボンド(インフラ整備を行う事業体が発行し、返済原資が事業から得られる収益に限定される債券)など、債券市場を利用した手段を拡充することが望まれる。
また、公共部門によるリスク軽減手段の提供が不可欠であり、アジア開発銀行によるアジア・インフラ・ファンドの設立などが提案されているが、昨年設立された域内の信用保証・投資ファシリティ(CGIF)の活用も有力な選択肢となろう。
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