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Business & Economic Review 2011年4月号

【特集 成長するアジアと金融】
拡大するアジア債券市場と今後の課題

2011年03月25日 清水聡


要約

  1. アジア債券市場整備の目的は、次第に変化している。世界金融危機以降、資本フローへの過度の依存には問題があり、債券市場を含めた国内金融資本市場の整備が重要であることが再認識された。同時に、アジア諸国の内需拡大が今後の世界経済の成長に大きな役割を果たすとみられるようになっている。消費や投資を促進するために、社債市場を中心とする金融システムの整備が重要な役割を果たすと考えられる。とくに、インフラ整備の資金調達における債券発行の役割が増加することが期待される。また、各国の内需拡大により、実体経済面の域内統合が一層進展することが予想されることから、金融面の域内統合を推進する重要性も高まっているとみられる。


  2. 97年の通貨危機以降、アジア債券市場において金融債を含めた社債の発行残高はおおむね国内信用残高並みに拡大し、金融深化に貢献してきた。しかし、両者を比較すると社債市場の規模は小さく、対GDP比率でみた国ごとの発展度合いも多様である。総じて、アジアの社債市場の拡大余地は依然として大きいとみられる。社債市場においては、発行体の多くが政府系企業や限られた業種の民間企業となっている。また、投資家の多様化がなかなか進まず、流通市場の流動性が改善していない。一方、域内クロスボーダー取引は、高水準とはいえないものの、緩やかに拡大する方向にある。


  3. アジア債券市場整備の課題は、①各国ごとの市場規模や発展段階の相違に対処すること、②社債市場を一層拡大すること、③流通市場の流動性を改善すること、④域内クロスボーダー取引を拡大すること、などである。市場整備のための域内金融協力は、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)を中心に行われてきた。今後は、2008年に作られた新ロードマップの課題解決に向けて地道に努力することが重要である。また、市場の拡大に弾みをつけるため、民間部門の関与が一層重要となろう。


  4. 社債市場の拡大を加速するための方策として、インフラ整備を中心とした内需拡大関連分野での利用増加が考えられる。また、新規に設立された域内の信用保証・投資ファシリティ(CGIF)や証券化の活用など、信用補完を強化することも重要である。一方、域内クロスボーダー取引を促進するには、各国市場の整備を前提としたボトム・アップ・アプローチに基づき、調和・相互承認(mutual recognition)の枠組み構築を図ることが求められる。これは息の長い課題であり、当面は、決済システムを中心とした市場インフラの調和を図りつつ、域内金融統合に関する議論を深めることが重要であろう。


  5. 日本は域内金融協力において大きな役割を果たしているが、アジアの市場間競争が激化するなかにあって、自国の債券市場を整備し、アジアの発行体や投資家の利用を促していくことも重要な課題である。域内金融協力の動きを十分に踏まえ、それに可能な限り協力しつつ、アジアの一員として日本市場の整備を図るスタンスが求められる。
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