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アジア・マンスリー 2011年2月号

【トピックス】
一段の拡大が期待される中国の自動車市場

2011年02月01日 関辰一


中国の自動車市場は2010年も急拡大を続け、2年連続で販売台数世界一となった。2011年入り後、政策効果の剥落による影響が懸念されるものの、個人の購買力の高まりを背景に、堅調に拡大しよう。

■自動車市場の概況
中国汽車工業協会によると、2010年の自動車販売台数(メーカー出荷、以下同じ)は1,806万台と2009年に比べて442万台増加した (右図)。内訳をみると、乗用車の販売台数は1,376万台とトラックの385万台、バス44万台を大幅に上回った。

それでは、どのような乗用車が選好されているのだろうか。外資系ブランドのシェアは2010年1~11月において全体(除くSUV、MPV、クロスオーバー型)の69.5%に達する。外資系の中では、日系のシェアが最も高い。日系は欧米ブランドに対して、同クラスならば価格競争力を備える。加えて、燃費が良いなど中国の人々の経済・文化の現状に適した自動車を供給できている。こうした点が、日系ブランドの販売好調の要因といえよう。ブランド別のシェアをみると、日系22.7%(アコード、シャレードがトップ10入り)、ドイツ系19.6%(同ラビダ、ジェッタ、サンタナ、新型ボーラ)、米国系14.4%(同ビュイック・エクセル、シボレー)、韓国系8.9%(同エラントラ悦動)、フランス系3.9%であった。

一方、中国独自ブランドのシェアは30.5%にとどまった。また、トップ10入りしたのはBYD社のF3のみであった。中国独自ブランドのシェアは低いものの、個性の強さは高度成長期に発売された日本国産車と類似する。現在の車は見分けがつかないほど酷似しており、個性が失われてしまっている感があるものの、中国独自ブランド車は全体的に1960年代の日本の国産車同様、自由奔放な構想のもとにデザインされているといえよう。

2010年上半期において、独自ブランドは8万元以下の価格帯で80%超のシェアを獲得した。さらに、低価格帯では安定した高いシェアを得ており、中高価格帯への進出を試みている。日系は中高価格帯、高価格帯においてシェアが高い。15~20万元の価格帯における日系のシェアは5割であった。20万元超の高価格帯においても、ドイツ系や米国系を上回り、4割のシェアを持つ。ドイツ・フランス系は二極化の傾向がみられる。8~15万元の価格帯のシェアが2~3割と高い。その上の価格帯は日系に及ばないものの、35万元超の価格帯では90%を超えるシェアであった。米国系は10~15万元と20~25万元の価格帯においてそれぞれ2割、韓国系は8~15万元の価格帯において2割と比較的高いシェアを確保している。

中国の自動車市場は低価格帯に需要が集中するインドとは異なり、各価格帯で需要が旺盛なことが特徴的である。商品のラインアップが高価格帯から低価格帯まで、広く備えられ、沿海部の大都市から内陸部の農村まで広く自動車が普及し始めてきているのかもしれない。中国汽車技術中心によると、2010年4月における価格帯別乗用車販売実績では、5万元以下が全体の23.2%を占める。5~8万元の14.1%と8~10万元の13.5%を合わせると、5~10万元クラスも全体の27.6%のシェアとなる。10~15万元クラスは同25.7%、15万元以上も同23.5%であった。

中国の自動車販売台数は2年連続で世界最大となった。自動車産業は大規模な生産設備や販売網を必要とする。生産設備を拡大すれば、関連する機械産業も活性化する。原材料や部品の調達も、鉄鋼やプラスチック・ゴムをはじめ、電機部品など先端技術を必要とされる機械類におよぶ。1台の自動車には3~4万個の部品が必要とされる。このように他の産業への波及効果が高いことが自動車産業の特徴である。金融危機後、自動車産業の成長は他の産業の回復を牽引し、中国経済の回復に寄与した。

■“呼び水”の政策、“本流”の個人の購買力
2010年末に、小型車減税や「汽車下郷」・「汽車以旧換新」は期限を迎えた。2011年入り後、政策効果の剥落による影響が懸念されるものの、中国の自動車市場は引き続き個人の購買力の高まりを背景に、堅調に拡大すると見込まれる。

2009~2010年の自動車市場の急拡大は2002~2003年の状況と類似する。2002年には、WTO加盟によって関税が下がれば、乗用車の価格が下がると見込んで買い控えていた消費者が、2002年入り後に一斉に自動車を買い始めた。

2009~2010年については、2008年の買い控えによる反動に加え、一連の自動車購入支援策と個人の購買力の向上が指摘できる。日本では、2009年4月から2010年9月までに販売された自動車のうち、エコカー補助金制度を利用したのは48.4%であったことを踏まえると、中国の汽車下郷(農村部での購入支援策)の利用率12.2%は低水準である。さらに、汽車以旧換新(都市部での自動車買い替え支援策)の利用率は1%未満であった。したがって、政策効果は限定的であり、①買い控えによる反動、②購買力の向上の要因が大きいといえよう。

近年、中国では個人の購買力が大幅に高まっている。1990年代の中国では、自動車といえばタクシーや公用車であった(アジア・マンスリー2010年11月号を参照)。代表的な乗用車であるフォルクスワーゲン社のサンタナは1995年に1台15万5,500元であった。都市部の世帯年収は1万3,834元にすぎなかった。当然のことながら、1年に144万台(自動車合計)しか売れなかった。しかし、2007年になると1台7万元と価格は二分の一に低下した。一方、都市部世帯の平均年収はこの間に4万117元と2.9倍になっている。1995年から2007年までに、車価の所得に対する比率は11.2倍から1.7倍へ大幅に低下し、自家用車は個人の手の届くものとなった。この結果、自動車の普及率は、1995年の1,000人あたり9台から2007年には1,000人あたり32台へ高まった。

金融危機後も個人の購買力が大幅に向上した。都市部の1人あたり可処分所得は2009年に前年比8.8%増加し、2010年1~9月にさらに同10.5%増加した。2009年の都市部における乗用車価格は前年比▲2.9%、2010年1~9月に前年同期比▲1.2%とそれぞれ低下した。所得水準の上昇に加え、今後も所得が増加するとの期待感により、一部の消費者は収入水準からすると割高と思えるほどの自動車さえ購入したといえよう。また、自動車が稀少であるゆえ、マイカーに対する強い憧れも自動車市場の拡大を支えた。

今後を展望すると、“呼び水”の政策がなくとも、中国の自動車市場は引き続き個人の購買力の高まりを背景に、堅調に拡大すると見込まれる。2007年時点において、日本では1,000人あたりの自動車保有台数は595台であった。これに対して中国では1,000人あたり32台であり、2009年時点でも同47台にとどまる(右図)。所得水準の最上位10%層についてみても、100世帯につき38.1台と1世帯1台を大きく下回る。中国において自動車の普及は初期段階であり、今後も一段の拡大が予想される。
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