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Business & Economic Review 2010年12月号

【特集 成長戦略とグローバル化】
訪日客誘致の成長戦略-観光のグローバル化と地域再生

2010年11月25日 高坂晶子


要約

  1. 国内市場の縮小が不可避ななか、交流人口の増大をもたらす訪日客の誘致は成長戦略上必須であり、中国はじめ近隣諸国の旅行重要増大への積極的対応が望まれる。なかでも、人口減少と経済停滞に悩む地方部の再生を考えた場合、観光は数少ない有望分野である。

  2. 2003年以来、日本は「観光立国」を標榜し、ビジット・ジャパン・キャンペーン等に取り組んできた。長く国内市場偏重であった政府が、国際観光重視へと方針転換したことは画期的といえる。ただし、関連予算の中身をみると、訪日客誘致に直接投じられる事業費は限られる一方、外国人仕様の観光地形成等を名目とした従来型の公共事業も少なくない。

  3. 実際に訪日客を迎える各地域に対する国の支援についてみると、以下のような問題が指摘できる。
    ①多数の省庁の下で支援体制が細分化されており、支援を求める地域サイドからすると、事業の内容やスキームの区別がつきにくく最適な選択が容易でない。
    ②事業内容が地域のニーズと乖離しがちである。背景には、地域側は細分化した事業を組み合わせてニーズの充足を図るが、国には取り組みの全貌が伝わらないため、事業内容の評価や見直し、改善が進みにくい事情がある。
    ③国の支援は執行のタイミングや事務量、管轄といった手続きの面で、地域に多くの負担を強いている。

  4. このような問題を解決するには、支援事業の企画・立案を観光現場に近いレベルに移し、地域ニーズに適した支援をワンストップで実施することが必要である。ただし、現行の47都道府県体制では、主体が多すぎて、プロモーション等誘致活動の訴求力が弱まる恐れがある。訪日客誘致に向けて、現行行政区分を超えた、広域分権型の観光振興の取り組みが望まれる。

  5. 広域分権型の観光振興の例として、フランスの取り組みが参考となる。特徴としては、
    ①「観光振興には地域性を保ちつつ、一定圏域単位の取り組みが有効」との政策判断の下、広域自治体である「州」が新たに導入され、観光振興が進められている。
    ②広域的取り組みの強みである明確な地域イメージ、テーマ性ある域内周遊等が打ち出されることにより、観光地としての魅力・知名度の向上と滞在客数・日数の増大が図られている。
    ③国・州・県・市町村といった行政主体間の連携に加え、民間事業者、地元コミュニティとの連携、協働により、地域資源の魅力を多面的に引き出して観光商品開発が行われている。
    ④国の立案する基本方針と統一テーマの下、州ベースで振興策が競われることにより、全国的な観光の活性化が図られている。

  6. 今後、わが国においても、複数府県単位の観光振興策を目標に据え、市町村や民間と連携した取り組みを強化すべきである。すなわち、広域的な観光振興プランの形成、統一的なプロモーション、個別観光地への支援やコンサルテーション、優良振興事例の共有と改善等を進めることが望まれる。現行の自治体ごとの観光振興体制と省庁に細分化された支援の仕組みを見直し、広域観光振興の実行組織に一定の権限と財源をゆだねる一方、明確な事業目標の設定と管理、情報公開と業績評価など実効ある運営を促す仕組みの導入が重要といえよう。
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