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アジア・マンスリー 2010年11月号

【トピックス】
拡大続く中国の対外直接投資

2010年11月01日 佐野淳也


2003年以降中国の対外直接投資は拡大を続け、その規模は年間500億ドルを上回るようになった。資源確保等を背景とした企業の海外進出意欲や政府の奨励策から、投資の拡大傾向は続く可能性が高い。

■対外直接投資額は2009年も増勢を持続
9月13日、商務部、国家統計局、国家外為管理局は連名で、「2009年中国対外直接投資統計公報」(以下、「公報」)を発表した。この「公報」から、中国企業による海外での事業展開が一段と活発になっている状況が確認できる。

2009年の対外直接投資額は、前年比1.1%増の565.3億ドルであった。世界全体の対外直接投資が同42.9%減と、縮小するなか、若干とはいえ、増勢を維持したことは注目される。大型出資案件の減少により、金融部門向け投資額が前年比37.8%減少したのに対し、非金融部門は同14.2%増加した。2009年上半期では、非金融部門向けも大幅に落ち込んでいた(前年同期比51.7%減)ことを勘案すると、景気悪化に伴う影響は短期的なものにとどまり、中国企業は海外進出を再び加速させているといえよう。

近年の状況をみると、2003年は対内直接投資の5%の規模に過ぎなかったものの、2009年には、約60%に達した。中国は直接投資受け入れ国としてのみならず、投資国としても世界トップクラス(2009年は第5位)となっている。

国・地域別では、香港向けが全体の63.0%を占め、3年連続で第1位の投資先となった。ケイマン諸島、オーストラリア、ルクセンブルグ、バージン諸島と続いている。累計でも、香港が全体の66.9%を占めて第1位、第2位以下はバージン諸島、ケイマン諸島、オーストラリア、シンガポールとなっている。香港やタックスヘイブン向け投資額の多さが際立つなか、オーストラリアが主要投資先の一角に入っていることは注目される。

■有力企業は、海外の資源確保や技術獲得に注力
業種別では、前年より若干減少したものの、ビジネスサービスが204.7億ドル(2009年の投資額全体の36.2%)と、トップを維持した。ビジネスサービスに関して、「公報」は「主に、株式取得のための投資」と説明している。

それ以外に注目される点は、採鉱業が133.4億ドルと、金融や卸売・小売(貿易企業を含む)を上回り、2番目に投資額の多い業種に浮上したことである。2009年の投資額は、採鉱業にとって過去最大であるが、2006年(85億ドル)以降年40億ドル超の高水準を保っている点も注目される。これらのデータは、資源関連投資の拡大が一過性の現象ではないことを示唆している。なお、「公報」では、累計の割合しか示されていないが、オーストラリアへの対外直接投資の85.9%が採鉱業向けであった。他の主要投資先向け投資は、ビジネスサービスや金融中心であり、対照的な結果といえる。

最近の各種報道から、中国企業による海外企業買収等の動向を整理すると、以下の2点が特徴として指摘できる。第1に、重要資源の確保に向けた積極的な取り組みである。前述したオーストラリアをはじめ、北米、欧州企業の買収あるいは出資比率の上昇を通じて、世界各地から資源を調達しようとする姿勢がうかがえる。石油や天然ガスといったエネルギー資源に限らず、鉄鉱石などの鉱物資源獲得にも積極的に乗り出している。

第2に、海外企業の高い技術力やブランドの取得である。浙江吉利控股集団有限公司は、オーストラリアの変速機メーカーの買収、フォード傘下の自動車メーカーボルボの買収を相次いで実施した。他の有力企業でも、類似の動きを指摘できる。背景には、企業競争力の早期強化があげられる。世界経済フォーラムの最新国際競争力ランキングにおいて、中国は総合27位であったが、生産工程の先進性や人口100万人当たりの特許数は50位台にとどまっている。これらの分野での高度化を図るため、中国企業は海外企業の買収を推進しているといえよう。

一方、政府も企業の海外進出を奨励し、関連措置を講じるようになった。審査期間の短縮や内容の簡素化を柱とする「対外投資管理弁法」の施行(2009年5月)は、その象徴的な事例といえよう。海外派遣前のリスク教育の徹底、赴任地の法律・習慣の尊重を求める規定の公表(2010年8月)も、海外進出に伴うトラブル増加への対処法を示して、円滑な海外事業展開を後押ししたい政府の意向がうかがえる。

■対外直接投資全体及び日本向けの拡大が続く見込み
今後を展望すると、地場の有力企業による海外資源等の確保に向けた動きや政府による奨励措置の推進に、変化の兆しはみられない。中国の対外直接投資は、引き続き増加するものと想定される。

こうしたなか、高い技術力やブランドを有する日本企業は、中国企業にとって主要な出資、買収対象の一つと位置付けられよう。現時点での対日直接投資は、年間1億ドルにも満たない(2009年は8,410万ドル)が、今後一層の拡大が見込まれる。

日本政府及び日本企業には、中国企業による海外進出の拡大を前提に、そのメリット、デメリットを織り込んだ対中戦略の策定が不可欠となろう。
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