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視界不良の米国財政再建

2010年09月21日

【要 約】

1.米国の連邦政府財政赤字は2009年に1兆4,700億ドルと、未曾有の水準に拡大。背景に、07年のサブプライムローン問題をきっかけとした景気後退に伴う歳入不足と、大規模な財政出動。加えて、ブッシュ前政権のツケも重石。

2.米国財政の先行きを展望すると、循環的見地、構造的見地のそれぞれで問題を抱えており、厳しい状況。
(1)GDPギャップの大幅需要不足と雇用情勢の低迷持続
米国のGDPギャップは直近の2010年4~6月期に▲6.3%と、大幅な需要不足。大型の景気対策を打っても設備投資の増加や、賃金増加などの前向きな循環につながりにくく、持続的な高成長は期待薄。雇用面についても、2ケタ近い失業率が当面続く公算。
(2)連邦政府同様に苦しい州・地方政府財政
州政府財政も景気後退に伴う税収低迷が続き、米国再生・再投資法(ARRA)による連邦政府からの財政支援が不可欠な状況。もっとも、ARRAによる支援は2012年度にほぼ終了するため、引き続き厳しい財政運営を迫られる公算。地方政府は、収支均衡のため公共サービスの根幹部分の削減にも着手。一般市民の生活に悪影響が及び、景気・財政の一段の悪化を招来する悪循環に陥る恐れも。
(3)高齢化に伴う財政負担増
議会予算局の見通しによれば、医療保険改革法により2019年度までに累計で1,400億ドル超の財政赤字削減効果。もっとも、見通し通りに財政赤字削減が達成できたとしても、ヘルスケア関連の支出規模の拡大には歯止めがかからず。背景に、2015~30年頃にかけてベビー・ブーマー世代が65歳を迎えることによる高齢化の進展。

3.米国財政が短期的にも中・長期的にも問題を抱えるなか、着実な財政再建に向け、どのような方策を採っていくべきかを検討。
(1)海外ファイナンス依存からの脱却
米国は国債ファイナンスのおよそ半分を海外に依存しており、米国財政の持続性に一度疑問を持たれると国債消化に支障をきたす恐れ。短期的には海外勢が米国債の大量売却に踏み切る可能性は当面小さいながらも、中・長期的には、中国の経済構造が「外需依存型」から「内需拡大型」へと移行するにつれ、米国の貯蓄不足をまかなうファイナンスが困難化する恐れ。採るべき方策のひとつは、米国自身が民間部門の貯蓄増加によって、国債の国内消化の割合を高めていくこと。
(2)医療関連での大胆な財政削減
米国財政赤字の構造を考慮すると、大きな歳出項目となっている医療・社会保障関連、とりわけメディケア改革が不可欠。メディケア基金(パートB、D)の収支をみると連邦政府による負担額は毎年増加し、連邦政府財政を圧迫し続けている状況。保険料の引き上げや、連邦政府予算繰入の割合見直しのほか、医療費自体を抑制するための診療報酬改定などの対応が急務。
(3)新たな税源の模索
未曾有の規模に膨らんだ財政赤字の再建に向けては、既存税制の手直しにとどまらず、新たな税源を模索する努力が必要。新税のひとつとして候補となりうるのが、日本の消費税に相当する「VAT(付加価値税)」。民間シンクタンクのTax Policy Centerの試算によれば、基本課税の場合、ネットで+2,500億ドル超の税収増の見込み。さらに、VAT導入後の連邦政府財政収支の変化をシミュレーションしたところ、米国財政の改善に一定の効果を看取。一方、VAT税収を給与税に充当すれば、VATのデメリットである逆進性の緩和も可能。

4.もっとも、上述の方策実現に向けてのハードルは高い。具体的には、①大幅なGDPギャップの解消に長期間を要すると見込まれるなか、景気低迷下での大幅増税は一段と景気を冷え込ませる恐れがあること、②中間選挙を迎えるにあたり、支持率低迷にあえぐオバマ民主党は苦戦が予想され、仮に議会で野党の共和党が主導権を握った場合、オバマ大統領は政権運営が一段と難しくなること、など。このため、持続可能な米国財政の実現に向けた道筋は極めて不透明。

本件に関するお問い合わせ先

調査部 マクロ経済研究センター 下田
TEL : 03-3288-4527
E-mail : report@jri.co.jp

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