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Business & Economic Review 2010年9月号

【特集 金融システムの将来像】
決済システムの高度化と国際標準をめぐる動向

2010年08月25日 野村敦子


要約

  1. 決済とは、商取引や金融取引などの経済活動に伴い発生した債権・債務について、金銭や商品、証券等の受け渡しにより解消することをいい、多数の債権者・債務者間の決済を安全・円滑に行うための仕組みを決済システムという。今回の世界的金融危機は、決済システムが潜在的にシステミック・リスクを内包していることを再認識させた。そこで、システミック・リスクの波及・拡大を防止し、各国の金融システムの安定性を確保するために、金融機関への規制・監督体制の強化と合わせて、市場インフラである決済システムの頑健性強化が重要課題として浮上している。

  2. 決済システムのリスク削減に向けた取り組みにおいて、標準化は重要な要素の一つである。また、金融取引の取扱件数や金額、付随する情報量の増大、国境を越えた取引の拡大等を受け、決済システムの処理の自動化やシステム間の連携・接続の必要性が高まっており、決済システムをはじめとする金融業務の標準化に向けた動きは世界的な潮流でもある。決済システムにかかる標準化の取り組みのなかでも、最近の焦点となっているのが、通信メッセージ・フォーマット「ISO20022」である。

  3. 欧米の金融業界では、決済システムの統合や高度化に向けた取り組みを進めており、ISO20022の導入にも意欲的な姿勢を示している。EUは、域内の金融市場の統合を目指しており、その一環として決済システムの一元化に取り組んでいる。各国ごとに分立している決済システムを単一のプラットフォームに集約することで、域内の資金取引にかかるコストやリスクの削減、期間の短縮等を実現し、決済の効率性や安全性の向上を目指している。アメリカにおいても、金融EDIの高度化やSTP化の推進により、決済の更なる効率化やリスク削減を図るため、2011年11月までに主要決済システムにISO20022に準拠した新しいフォーマットを導入することが決定している。

  4. わが国でも、決済システムの高度化に向けた取り組みが進められており、主要な決済システムの通信メッセージ・フォーマットに国際標準規格であるISO20022の導入が検討されている。国際標準への対応により、海外からわが国の決済システムへのアクセスをスムーズなものとし、利用者の利便性の向上を図ることで、国内外からわが国市場への参加が増加することが期待されている。

  5. もっとも、金融機関や企業を取り巻く環境は厳しい状況が続いており、決済システムの国際標準への対応は収入の増加などに直結する形で効果が現れるものではないため、新たなシステム投資に踏み切ることを躊躇する金融機関・事業会社が多いのが現状である。しかし、金融機関間・市場間の国際競争の進展、金融イノベーションへの対応、企業のニーズの顕在化、ならびに決済リスクの削減、金融機関内業務の効率化などの観点から、標準化への対応はいずれ避けて通れないものと考えられる。また、アジア決済システムの連携・統合が議論されるなか、わが国金融機関も国際標準ならびにこれを活用したプロジェクトの動向など、国際的な潮流を注視しながら対応していく必要があろう。
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