■金融システムの全体像 インドにおいては、90年前後に金融改革が本格的に開始され、主に銀行部門の規制改革と株式市場の整備が推進された。その結果、銀行部門、株式市場はともに拡大したが、多くの東アジア諸国に比較して銀行部門は相対的に規模が小さい(下表)。個別の銀行の規模も国際的にみると小さく、The Banker誌(2009年7月号)のTier1 capitalによる銀行ランキングによれば、中国の4大銀行がすべて上位24位までに入っているのに対して、インドの銀行で100位以内に入っているのはSBI(State Bank of India)(64位)とICICI銀行(81位)の2行にとどまっている。また、債券市場についてみると、財政赤字が大きいために国債市場の整備は比較的進んでいるが、金融債を含め、社債市場の整備は著しく遅れている。
■高成長と外部資金の役割 企業の資金調達方法につき、準備銀行がRBI Bulletinに定期的に発表している資料(Finances of Public Limited Companies)によってみると、90年代の資金調達額の増加は限定的であり、リストラクチャリング等による企業収益の改善を背景に内部資金依存度が上昇した(下表)。一方、2003年度以降の高成長期においては、貯蓄率・投資率が大幅に上昇するとともに、資金調達額が急増している。そのなかで、内部資金依存度は低下し、外部資金の重要性が増した。その内訳をみると、銀行借り入れの比率が安定する一方、株式発行は上昇しており、絶対額ではいずれも急増したことになる。ノンバンクや海外からの借り入れも増えたとみられる。社債発行はやや増加しているもののその比率は引き続き非常に低い。
その他の資金供給主体としては、インフラ開発金融公社(IIFCL:India Infrastructure Finance Company Limited)などの政府機関や、保険会社などの機関投資家が考えられる。しかし、前者は公的な性格のものであり、資金供給には限界がある。一方、後者は長期資金を集める金融機関でインフラ整備への投資には適しているが、依然未整備であり、国債中心の保守的な投資を主に行っている。したがって、インフラ・プロジェクトの評価能力を備えるとともに投資制約を緩和するなど、投資体制を整える必要があるが、それにはまだ時間がかかるであろう。