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アジア・マンスリー 2010年5月号

【トピックス】
成長持続を前面に掲げた中国の「全人代」

2010年05月06日 佐野淳也


3月の「全人代」では、インフレ懸念への警戒感がやや強く示されたものの、財政・金融政策の継続や成長方式の転換に関する構想など、成長持続に向けての経済運営方針が前面に打ち出された。

■経済政策の見直しに高い関心
3月5日~14日までの10日間、第11期全国人民代表大会第3回会議(以下、「全人代」)が開催された。1年間の経済運営に関する基本方針は、前年末の中央経済工作会議で事実上決定しているものの、具体的な数値目標、予算、経済発展計画は「全人代」で公表され、承認を得る必要がある。そのため、中国経済を展望するうえで「全人代」は重要会議の1つとして位置付けられる。
さらに、2010年入り後、不動産価格の高騰やインフレ懸念の高まりなどが顕在化し始めた。こうした情勢を踏まえ、成長持続優先の経済運営方針をどの程度見直すのかについても、今回の「全人代」に対する関心事項として浮上した。

■景気の腰折れを懸念し、成長持続に向けた政策が前面に
「政府活動報告」などから、「全人代」で示された経済運営方針の特色は次の3点に集約できる。第1に、インフレや不動産価格高騰に対する警戒感をやや強く示したことである。
2010年のCPI上昇率について、政府は+3%程度との数値目標を設定した。これは、2009年通年の実績のみならず、2010年入り後の水準よりも高いことから、CPIの上昇を何としてでも+3%以内に制御するとのメッセージを含んだものといえよう。「政府活動報告」等では、「物価総水準の安定」という表現が追加され、物価を安定させようとする政府の意欲は、2009年末の中央経済工作会議よりも強く感じられる。さらに、一部の都市と限定しながらも、不動産価格の急騰に歯止めをかける決意が強いトーンで表明された。
ただし、中国人民銀行(中央銀行)の周小川行長(総裁)は、全人代開催期間中の記者会見の中で、インフレへの警戒感を示しつつも、緊急時の政策対応から平常時の政策対応への移行に際しては、慎重さが求められると発言した。この発言から、引き締め策への急激な転換に政府は消極的と推測される。
第2に、成長持続に向けた政策の継続実施を確認したことである。政府は2010年通年の成長率目標を8%前後に設定した。第11次5カ年計画(2006~2010年)での年平均7.5%成長という目標及び2006~2009年の成長率が目標を大きく上回っていることを勘案すれば、もう少し低い水準の設定は十分可能であった。新規雇用創出には、8%成長が不可欠と考えたためであろう。
財政・金融政策においても依然として、引き締めではなく、成長下支えに重点が置かれている。財政政策では、積極財政を継続し、2010年の財政赤字は過去最大の1兆500億元となる見通しである。重点プロジェクトの完成、消費喚起措置の継続及び拡充などに充当される。金融政策では、年間の新規貸出目標が7.5兆元程度に設定された。これは、2009年の新規貸出規模9.6兆元を下回るが、金融引き締めが実施されていた2007年や2008年を大きく上回る水準である。
第3に、成長方式、あるいは成長エンジンの転換に関する具体的な構想を示したことである。「政府活動報告」では、個人消費の「積極的な拡大」を提起し、家電・自動車の購入や買い換えに対する財政補助の継続及び拡充検討などの直接的な措置とともに、最低生活保障水準や年金支給額の引き上げ等を通じた低所得者層や農民の収入増加が盛り込まれた。「政府活動報告」の別の箇所で指摘された「民生の改善」(所得分配の見直し、収入格差是正など)も、「経済発展の原動力」と明記しており、政府が消費全体の持続的拡大に資する取り組みと位置付けていることは明らかであろう。
半面、投資に関しては、重点投資プロジェクトの執行を確約したものの、新規案件については厳しく審査する方針が示された。3月5日に「全人代」で報告された「国民経済・社会発展計画」では、通年の全社会固定資産投資を前年比20%増と、2009年の伸び(前年比30.1%増)より大幅に抑える目標を設定している。GDPに占める民間消費の割合低下を踏まえ、成長持続の観点から、投資主導型から消費主導型への成長方式の転換を目指したものと解釈できる。
3月14日の「全人代」終了後の記者会見で、温家宝首相は世界経済の二番底懸念と中国が無関係ではないこと、経済の回復が政策措置に大きく依存し、自律的なものとはいえないことなどを指摘した。政府の慎重な経済情勢見通しや成長持続に向けた政策継続の意思がこの会見に色濃く反映されているといえよう。

■政策措置の「微調整」が続くなかで直面する課題
中国経済が8%成長を持続しつつ、成長方式の転換を目指すうえでの最大の課題はインフレや不動産価格高騰への適切な対処である。政府は、過剰流動性の回収、本業が不動産ではない国有企業78社に対する不動産業務撤退要請など、引き締めを徐々に強めている。こうした漸進的な見直し(「微調整」)は当面続くと想定される。ただし、政府が適度な金融緩和政策の継続を表明するなか、インフレ回避措置実施のタイミングを逸してしまうリスクは解消されていない。その一方、早期かつ安易な物価対策は、景気回復の流れを損ねるおそれがある。不動産価格の高騰抑制に関しても、同様のジレンマを指摘できる。
経済指標や世論の動向を勘案し、成長持続と物価安定を両立させることが可能か、胡錦濤政権によるバランスの取れた経済運営が一層問われよう。
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