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アジア・マンスリー 2010年4月号

【トピックス】
中国は循環型経済への移行を進められるか

2010年04月01日 三浦有史


第11次5カ年計画に掲げられた循環型経済への移行目標は概ね達成される見込みである。しかし、重化学工業化の加速によりエネルギー効率の改善は政府の思惑通りには進まないであろう。

■循環型経済への移行目標はほぼ達成
2010年は第11次5カ年計画(2006~2010年)の最終年に当たる。同計画は、胡錦濤政権が取りまとめた初めての中期開発計画であり、そこで掲げられた目標がどの程度達成されたかは同政権に対する評価はもちろん、次期5カ年計画の方向性、さらには胡錦濤後の政権運営にも大きな影響を与えよう。
第11次5カ年計画における重点のひとつに循環型経済への移行がある。統計局は、2月末、速報ベースとしながらも、2009年の単位GDP当たりのエネルギー消費量が前年比2.2%の減少にとどまり、目標の5%減に届かなかったことを明らかにした。同計画が掲げた2005年比20%削減という目標が達成される可能性は遠のき、政府は今後効率の悪い小型発電所の閉鎖や原子力発電所の増設を加速させるという。循環型社会への移行は頓挫しているのであろうか。
第11次5カ年計画では、循環型経済への移行は①資源節約、②環境保護、③生態系の保護から構成される。「拘束性」として共産党と政府が達成を自らに義務付けている目標には、工業生産当たりの水使用量や汚染物質の排出量などの項目があり、単位GDP当たりのエネルギー消費量だけで達成度を評価することはできない。まず、全項目の実績を精査する必要がある。
表は第11次5カ年計画に掲げられた循環型社会への移行にかかわる数値目標と2008年までの達成状況および達成可能性をまとめたものである。単位GDP当たりエネルギー消費と森林面積比率以外は目標達成が見込まれ、循環型社会への移行は概ね順調に進んでいるといえる。
このことは国際的にみても確認できる。国際比較が可能な単位GDP当たりエネルギー消費をみると、中国の水準は周辺諸国と比べて低く、しかも、2001年をピークに使用量が低下している。中国政府は2009年12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で先進国側に一層の努力を求めるなど、強気の姿勢で臨んだが、この背景にはエネルギー効率改善において周辺諸国と比べて見劣りしない成果をあげていることがある。

■加速する重工業化がネックに
単位GDP当たりのエネルギー消費水準が低下した背景には、第二次産業に比べエネルギー消費が少ない第三次産業の比重が高まったことに加え、工業分野の大口消費先である大企業や業界がエネルギー効率改善への取り組みを強化したことがある。中国はこのまま低い単位GDP当たりのエネルギー消費量を維持し、循環型社会への転換を進めていくのであろうか。中国では、資源節約や汚染削減を掛け声倒れに終わらせないため、その成果を人事評価に反映させるとしており、これが効率改善を促す強制力となったとされる。このメカニズムが機能するかぎり、循環型経済への移行は難しくないようにみえる。
しかし、産業構造の転換に焦点を当てると、決して先行きを楽観できない。中国では、エネルギー多消費型の産業における資源節約や環境保護に向けた取り組みを強化することに加え、第二次産業から第三次産業への構造転換が進むことで、産業部門全体のエネルギー効率が高まると考えられている。第三次産業は2008年時点でGDPの40.1%を占めるが、家計を除くエネルギー消費の15.2%を占めるに過ぎない。第二次産業がそれぞれ48.6%と81.3%であることを考えれば、第三次産業は確かに寡消費型の産業といえる。
経済発展に伴い経済に占める主要産業が第一次、第二次、第三次へと移り変わっていく現象はペティー=クラークの法則として有名であり、中国もこれに従った転換がみられる。しかし、低位中所得国(Lower Middle Income Countries: LMICs )の平均(加重平均)と比べると、中国のスピードはかなり遅い。低位中所得国は1972年に第一次産業と第二次産業の割合が逆転する第一転換を経験し、その12年後の1984年に第二次産業と第三次産業が逆転する第二転換を迎えた。一方、中国は1986年に第一転換を迎えたものの、22年を経ても第二転換を迎える様子がない。
中国の特徴は、第三次産業の割合が低いことではなく、第二次産業の割合が一貫して高く、しかも、2003年以降第二次産業の拡大、三次産業の停滞が鮮明になっていることである。この背景には重化学工業化がある。重化学工業の生産額は、2001~2009年で年平均26.7%の伸びとなり、軽工業の20.0%を上回った。石油精製、化学素材・製品、非金属鉱物製品、鉄精錬・圧延、非鉄精錬・圧延、輸送設備、電気機械・設備、通信・コンピュータ関連機器、発電などが伸張したが、そこには当然のことながらエネルギー効率の悪い中小規模の工場が含まれる。
中国は、重化学工業化によるエネルギー消費量の増加がエネルギー効率化の効果を減殺してしまうという難題に直面することになろう。
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