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Business & Economic Review 2010年3月号

【STUDIES】
地域経済の再浮揚に向けた地域金融機関の取り組み

2010年02月25日 野村敦子


要約

  1. わが国の地域経済は金融危機以前より、①人口の減少、②財政の悪化と公共事業の削減、③グローバル化の影響などにより、地域間の経済力の格差が広がっていたが、民需を梃子に成長を維持してきた地域も、世界同時不況で輸出型産業を中心に大きな打撃を受け、景況が悪化している地域が全国に広がっている。世界的な金融危機とそれに伴う世界同時不況により、わが国経済はこれまでの成長モデルを維持することが難しくなっており、地域経済のレベルにおいても、公的依存からの脱却、県域単位の経済圏の見直し、縮小する国内市場に代わりアジア市場の活力をいかに取り込むかなどを念頭に、従来の経済構造を転換しなければならない時期を迎えているといえよう。
    一方、わが国の金融部門についてみれば、サブプライム問題による直接の損害は欧米金融機関に比べ大きくなかったものの、危機後の景気後退や株価低迷により業績が悪化しており、地域経済を支える企業の資金調達への影響が懸念されている。地域金融機関における再編の動きが持続しているなかで、このような地域経済を取り巻く構造的な環境変化を踏まえ、地域金融の在り方を再度検討する必要に迫られている。
  2. わが国ばかりでなく、諸外国においても地域経済の地盤沈下が深刻化しており、地域経済の活性化、自立化は重要な課題となっている。そこでは、わが国の参考となり得る海外事例も多い。アメリカでは、地域再投資法(CRA)が地域の資金循環に一定の役割を果たしていることに加えて、コミュニティ開発金融機関(CDFI)が地域プロジェクト等への資金供給の導管として機能している。また、地域経済の持続的成長を維持するために、インサイドアウト(域内の成長志向企業の育成)のアプローチを採用した「Economic Gardening」と呼ばれる取り組みが各地域に広がっている。
    ドイツでは、公的金融機関の貯蓄銀行グループが地域金融の中核を担っており、そのバックオフィスや営業支援サービスの共通化など経営の合理化・効率化がわが国の参考になる。イギリスは、地域の経済政策を推進する主体として地域開発公社(RDA)が活動している他、アメリカに倣いCDFIを支援する制度が講じられている。地域の資金循環を促すうえで、CDFIと民間部門、RDA、政府等の協力関係の構築が重要と考えられており、なかでも銀行はCDFIのキーパートナーとして位置付けられている。
  3. わが国の各地域において、地域金融機関を中心に地域社会・経済の持続的成長に向けた多様な取り組みが進められている。例えば、民間地域ファンドと連携した事業再生や企業価値向上の取り組み、電子記録債権を活用して地域内の資金循環を円滑化させる試み、地域の基幹産業とその関連産業群を総合的に支援するEconomic Gardeningに類似した取り組み、環境問題を軸とした地域活性化の取り組みなど、それぞれの地域の特性を踏まえた取り組みが進められており、一定の成果も表れてきている。
  4. このように国内外で地域の再生や活性化に向けた多様な取り組みが進められているが、それらに共通していえることは、地域金融機関には地域経済、地域産業振興のために単なる資金供給者にとどまらない役割が求められているということである。この点を踏まえ、地域金融機関が地域金融に取り組むに当たって、以下の視点が重要と考えられる。第1、地域金融機関に求められるリレーションシップバンキングとは、地域のニーズや課題を把握し、解決策や付加価値を提供するとともに、発生する資金需要に最適な手法で対応することといえる。第2に、地域の持続的な発展と自立に向け、地域内発型産業の育成が重要と考えられ、地域金融機関にはその推進の中核的機関としての機能を発揮することが期待される。第3に、地域のニーズに応えるためには地域金融機関だけでは十分に対応できない場合も多く、外部資源を有効に活用することが必要である。第4に、地域内発型産業の育成に当たり、わが国市場は少子高齢化に伴い縮小均衡に向かうことを前提として考えれば、これからの成長が期待されるアジア市場を取り込む視点が不可欠である。
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