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アジア・マンスリー 2010年2月号

【トピックス】
建設投資が牽引する中国の鉄鋼生産

2010年02月01日 関辰一


中国では建設投資の増加を主因に、鉄鋼生産が回復しつつある。今後も、堅調な建設投資により、鉄鋼生産は高水準を維持すると見込まれる。

■回復する鉄鋼生産
世界に先駆けて中国の景気が回復している。とりわけ、自動車の生産量が急増しているが、素材産業も自動車産業と並んで回復が著しい。
中国の鋼材生産は2008年に前年比3.6%増と落ち込んだが、2009年初を底に持ち直しに転じ、2009年1~10月に前年同期比15.4%増と大幅なプラスになった。
鉄鋼需要が回復した要因として以下の3点が指摘できる。第1は、建設投資の拡大である。都市部の固定資産投資は全投資額の約9割を占める。都市部固定資産投資の7割を占める建設投資は、住宅需要の高まりと4兆元の景気対策を背景に、2009年1~10月に前年同期比35.7%増と2009年1~3月期の同31.4%増から増勢が加速した。中国では鉄鋼の5割が建設向けであるため、建設投資の加速による影響は極めて大きい。
建設投資の中心は住宅投資である。中国国家統計局は「中国経済景気月報」にて、建築物の工事別の竣工面積を発表している。同統計は①建設業の生産額の3割を占める土木工事が除外されている、②工事の進捗より遅行するため足元の鉄鋼需要を把握できないなどの難点もあるが、工事の内訳を知るには有益である。これによると、2009年1~9月期における建築工事竣工面積は前年同期比9.6%増と2009年初から回復しつつある。工事別にみると、同期間の住宅建設は同11.2%増、工場・倉庫は同0.6%増、事務所は同13.0%増、教育施設は同15.6%増であった。全体への寄与度をみると、住宅建設が6.6%と全体を牽引したことが鮮明である。
第2は、消費拡大に伴う耐久消費財の生産増加である。鋼材需要に占める自動車と家電向け割合は合計で1割未満と小さいものの、消費刺激策を契機にこれらの生産の多くが急速に持ち直した。2009年1~10月の自動車生産台数は、自動車減税や自動車の買い替え支援策である「以旧換新」政策を受けた販売の急増により、前年同期比37.5%増となった。冷蔵庫も「家電下郷」政策を背景に、同16.7%と大幅に増加した。
第3は、機械類輸出の持ち直しである。中国の機械類輸出は2009年1~3月期を底に持ち直しつつあるため、それらの生産に用いられる鉄鋼需要も拡大したと考えられる。中国の製造業は部品・原材料を輸入に依存している面もあるが、中国国内での調達も少なくはない。
一方、鉄鋼の輸出は低迷が続いている。2009年1~11月の鋼材輸出は前年同期比▲62.1%と、1~3月期の同▲54.9%に比べて減少幅が拡大した。鉄鋼輸出は生産の1割と規模が比較的小さいため、その影響は限定的である。また、鋼材需要の約2割は機械(除く自動車・家電)向けである。都市部の固定資産投資のうち機械設備は2009年1~10月に前年同期比26.7%と1~3月期の同29.9%に比べて増加ペースが減速したものの、前年比20%以上の高水準を維持している。

■堅調な鉄鋼需要が続く見込み
中国の鉄鋼需要は以下の5点により今後も増加すると見込まれる。第1は、4兆元の景気対策の継続である。4兆元のうち中央政府が担う部分は1.18兆元であるが、2008年10~12月期に1,040億元、2009年に4,875億元、2010年に5,885億元の投資が行われる予定となっている。したがって、4兆元の景気対策は今後も建設向けの鉄鋼需要を支える見通しである。
第2は、都市部への人口移動である。第11次五カ年計画では、2006年から2010年までに農村部から都市部への人口移動を合計4500万人と想定している。これは、1年あたり900万人という計算である。都市部への人口流入により、都市部における住宅需要や地下鉄など都市インフラ整備が拡大するだろう。同時に、農村部と都市部をつなぐ鉄道などのインフラ整備も、建設向け鉄鋼需要にプラスに作用しよう。
第3は、戸籍制度の改革である。これまでも農村部から都市部へ人口が移動し、2008年の都市部の常住人口は2000年比で1.5億人増加した。この結果、都市部では都市戸籍を持たない者が多く滞在している。たとえば、2007年の上海の常住人口は1,858万人と戸籍人口(1,379万人)を479万人上回った。2009年以降、深圳や上海など10の主要都市では都市戸籍の取得条件を緩和し始めた。医療、教育、労働保険、就業、社会保険など多くの面において優位であるため、都市戸籍取得者は増加すると見込まれる。彼らは都市部で永住資格を手に入れると同時に、マイホームの購入を検討するだろう。
第4は、不動産価格抑制策としての住宅供給増である。2009年7~9月期の主要70都市の不動産販売価格は前年同期比1.9%と、1~3月期の同▲1.1%から上昇し、金融危機以前の水準を上回ったため、バブル懸念が高まっている。住宅の供給増は不動産価格の安定に貢献するため、政府の重点政策として進められると思われる。
第5は、堅調な耐久消費財の消費の持続である。これは、賃金水準の上昇に加え、現行の消費刺激策が2010年も継続(拡充)されたためである。たとえば、「以旧換新」政策では、自動車を買い替える際の補助金がこれまでの2倍となった。農村での家電購入に補助金を出す「家電下郷」制度についても、対象製品の価格上限を大幅に引上げる方針が決められた。したがって、自動車と家電向け鉄鋼需要も一段と増加する見通しである。
以上より、中国の鉄鋼生産は建設投資を中心とした堅調な需要をもとに高い水準で安定的に推移することが期待される。
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