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アジア・マンスリー 2010年2月号

【トピックス】
変化しつつある中国の貿易

2010年02月01日 佐野淳也


中国では、貿易量が近年目覚しく拡大するなかで、注目すべき変化がいくつかみられる。輸出市場の多角化などの趨勢は、今後一段と強まる可能性が高い。

■貿易依存度の上昇にピークアウトの兆し
中国の輸出入は2002年以降前年比10~30%台の高い伸びが続いた。世界経済の悪化により、2009年は26年ぶりに前年実績を下回ったものの、他の主要国より、落ち込みが軽微であったため、ドイツを抜いて世界一の輸出国に浮上する公算が大きくなっている。輸入も世界第3位(WTO調べ、2008年)の規模にまで拡大している。
量的拡大が続くなかで、貿易依存度も上昇した。『中国統計年鑑』に掲載されている人民元換算の輸出入額と名目GDP額で算出すると、貿易依存度は対外開放前の77年の8.5%から85年には22.9%に上昇した。90年代は総じて30%台で安定していたが、2001年のWTO加盟承認や生産拠点の中国シフトなどにより再び上昇し、2006年には66.5%(内訳は、輸出依存度36.6%、輸入依存度29.9%)と、過去最高の水準に達した。
その後、2007年、2008年と2年連続して低下し、2008年は57.3%と、2003年以来の低水準にとどまった。輸出入の伸びの鈍化とともに、投資や消費などの内需がGDPを大きく押し上げたことが要因である。

■先進国向け輸出のシェア低下
輸出入額が急伸する過程で、注目すべき変化がいくつか現れるようになった。国・地域別にみると、先進国向け輸出の占める割合が低下傾向にある。
1999~2006年は米国、2007年からはEU(欧州)が中国における最大の輸出相手となるなど、90年代後半以降、日米欧(先進国)向け輸出は中国の輸出総額の50%前後のシェアを維持してきた。ただし、2006年に50%の大台を割り込んだ後、シェアの低下が続いている(2008年の先進国向けの割合は、前年比1.3%ポイント減の46.2%)。速報ベースながら、2009年には、ASEANのシェアが日本を上回った。2000~2008年のASEAN向けの年平均増加率は26.6%、ラテンアメリカ向けは同33.3%、アフリカ向けは同33.6%と、日米欧向け(同22.0%)を上回るペースで拡大している。
中国企業は価格面での優位性を活用しながら、新興市場への進出を加速させるようになった。貿易摩擦の緩和や国内在庫の調整といった目的からも、先進国以外への輸出が促されたと考えられる。一方、政府は、政治・経済面での関係強化(例:政府開発援助の拡大、FTA交渉の推進)を通じて、発展途上地域に対する輸出拡大をサポートしてきた。地域別輸出構成の変化は、こうした要因が重なった結果といえる。

■輸出構成の変化及び石炭輸入の増大
 輸出入の品目面でも変化がみられる。例えば、2003年と2008年の輸出品目構成を比較すると、2003年には繊維・履物・玩具など、労働集約型の製品が全体の29.4%を占め、電気機器(HS[商品の名称及び分類についての統一システム]コードの85類)、一般機械(同84類)のシェアを上回っていた(右上図)。これに対し、2008年には、電気機器が最大の輸出品目(全体の23.9%)となり、労働集約型の製品は22.2%と、一般機械の18.8%を若干上回る程度までシェアが低下した。電気機器貿易の輸出超過への転換や精密機器の輸出全体に占める割合の上昇等も勘案すると、輸出品目の高度化は近年着実に進展していると判断できよう。
さらに、中国が世界最大の生産量を占めるパソコンやデジタルカメラなど、いわゆるIT関連製品の部品及び最終財(日本貿易振興機構の『ジェトロ貿易投資白書』資料編の付注に基づき分類)について、2003年と2008年の比較を行うと、最終財における出超、部品の入超という構造に根本的な変化は生じていない。とはいえ、一部の部品に関しては、赤字から黒字へと転換した。中国が製品にとどまらず、より高度な設備や技術を必要とする部品の生産・輸出拠点としての地位も高めているといえよう。
輸入品目面で注目される変化は、原油や鉄鉱石といった重要資源輸入量の増加である。なかでも、石炭は需要増や輸出量の落ち込みもあって、2009年に初めて輸入超過となった。最大の産出国である中国の純輸入国化は、世界の石炭貿易の流れに大きな影響を及ぼしかねない。

■新興国との貿易が中国経済にとって一段と重要に
先進国経済の回復は当面力強さを欠くと見込まれるうえ、回復軌道に戻った後も、高成長は期待しにくい。中国の輸出先として、日米欧向けのシェア低下及びアジアを含む新興国市場向けシェアの上昇という意味での多角化が一段と強まるであろう。他方、内需主導型への成長方式の転換などから、エネルギー資源や消費財の最終消費地としての中国の存在感は日増しに高まっていくとみられる。新興国との貿易関係が中国経済の成長持続にとって一段と重要性を増すことになろう。
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