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Business & Economic Review 1996年11月号

【OPINION】
日本銀行のアカウンタビリティーの向上を-日本銀行法改正の目的と今後の課題

1996年10月25日  


1. 日本銀行法改正の目的

日本銀行のアカウンタビリティー(説明責任)の向上こそ日本銀行法改正の最大の目的であるべき。金融機関、金融行政当局と同様、日本銀行も市場原理を尊重し、行動の透明性を確保することを通じて責任の所在を明らかにし、国民および市場参加者の信認を確保していくことが必要。

2.金融政策面の課題

(1)政策の透明性と民主的コントロール手段の確保
 [1]政策委員会の改革(構成委員の改革と概要・議事録の公開)
 [2]金融調節の透明化(大枠を政策委員会で決定し、これを事後的に公普j
 [3] 国会による民主的コントロール(日銀総裁が定期的に国会で報告)
(2)政府からの独立
 [1] 独立行政委員会に準ずる位置づけ
 [2] 大蔵省の業務命令権・解任権の撤廃
 [3] 対政府与信禁止も日本銀行法に明記
(3)他の経済政策との整合性確保
 [1] 金融政策の主体性確保(日本銀行は全体的な経済政策の枠組みの中で金融政策を実施。一方で政府の政策委員会への議案提出権を規定)
 [2] 外国為替市場介入の透明性確保(為替介入の主たる責任は政府に。一方でディスクロージャーを進め、オープンに議論を)
3. 金融監督面の課題

(1) 日本銀行の金融機関監督の意味
 日本銀行は独自の視点で監督を行い、行政監督当局と相互補完しながら金融システム安定を図るべき
(2)日銀考査の位置づけ
 [1] マーケット時代にふさわしい考査
 [2] 日銀考査の根拠の明確化
(3)日本銀行特融
 [1] 金融システム安定のための機動性確保に配意しつつ、政策委員会がどういった種類の資金をどのような先に出せるかといった客観的基準を示す。
 [2] 政策委員会が特融実行の決定にかかわり、責任の所在を明らかにする。
 [3] 一定期間後に国会で説明をする。


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1.日本銀行法改正の目的

日本銀行法改正の最大の目的は、アカウンタビリティーの確保、すなわちマーケットの時代にふさわしい透明性の確保である。金融の自由化、国際化の波は、否応なしにわが国金融システムに様々な面から変革を迫っている。金融システムを担う主役である個々の金融機関のリストラクチャリング、金融行政の改革、そして日本銀行の改革がそれである。これらの底流にある共通点は、それぞれの主体が市場原理を尊重し、行動の透明性を確保していくことを通じて市場の信認を確保していくという方向である。

昭和17年に制定された日本銀行法は、グローバル化、市場化の中にある日本銀行の行動の実態とは既に大きく乖離している。金利や為替相場、預金を中核とする金融システムといった我々国民生活に極めて密接に関連した事柄を扱う日本銀行に、我々国民が信頼を寄せ、さらに海外市場からも信頼される金融システムを穀zするためには、これらの政策決定プロセスがよりわかりやすく明らかなかたちで公開され、政策を評価できる仕組みが穀zされることが必要である。今後仮に金融政策上の失敗があった場合でも、その実施する政策の責任の所在がより明確となることを目的として法律改正は行われるべきであろう。こうした仕組みが構築されて初めて、真に国民が日本銀行をサポートすることも可能になる。

日本経済の安定的かつ持続的な成長を実現するうえで国民が日本銀行の機能にして求めるのは、「物価の安定」と「金融システムの安定性確保」であると考えられる。これらの二つの目標は、本質的には相互補完的な関係である。この意味で、アカウンタビリティーを確保しつつ、この二つの目標達成に邁進することが、通貨の番人としての日本銀行の責務であると考える。

2.金融政策面の課題

(1) 政策の透明性と民主的コントロール手段の確保

政策委員会の改革

金融政策決定に関するアカウンタビリティー(説明責任)の向上と信認の確保のためには、日本銀行の意思決定プロセスを明確にし、事後的にこれを検証できるようにすることが必要である。アカウンタビリティー確保のための、第一のステップは公定歩合の変更など主要な金融政策を決定する政策委員会の機能強化である。業界団体の利益を代表する委員を廃し、日本銀行総裁、副総裁、理事(信用秩序維持セクション、金融政策セクション、国際関係セクション、調査セクション担当など4名程度)に加え、多様な意見を反映し、一層の信頼性を確保する観点から専門的かつ中立的な委員(6名程度)による構成とすべきである。なお、日本銀行総裁・副総裁は現行通り、内閣の任命によるものとし、日本銀行理事および外部の委員は、日本銀行総裁の推薦により内閣が任命するものとする。

政策委員会において金融政策の実質的な討議を行い、この内容を公開することによって、金融政策の透明性を確保すべきである。具体的には、議事に関する個人の意見(投票)の結果や議論の概要を3ヵ月後に、議事録は2年といった一定期間後に公開するのが妥当であろう。

金融調節の透明化

公定歩合がアナウンスメント効果のみを期待されるようになっている一方で、金融の自由化、国際化の中で実質的に一段と重要性を増しているのは市場金利の誘導、いわゆる「金融調節」である。この「金融調節」についても責任の所在を明らかにし、透明性を確保することが重要である。すなわち、市場金利の運営方針についてその大枠を政策委員会で決定するべきである。そして、その決定プロセスと考え方も事後的に公表することによって、より透明性を確保し、後から市場参加者や国民がその政策について評価できるようにすることが求められている。

国会による民主的コントロール

アカウンタビリティーを確保するために、国会の中に金融委員会を設けて、日本銀行総裁が定期的に政策運営に関する考え方を、国民の前に報告する義務を負うよう法定化する。さらに、政策委員会委員は、任命された際に国会で所信を表明する。

(2) 政府からの独立

独立行政委員会に準ずる位置づけ

日本銀行がアカウンタビリティーを果たすには、言うまでもなく日本銀行の政府からの独立性の確保が前提となる。すなわち、日本銀行の独立した政策判断が確保され、その責任の所在が明らかになることが法律でも担保されることが求められる。さもなくば、海外からも日本の金融政策決定プロセスは不透明であるとの評価を受け、グローバル化した金融市場で信認を確保していくことはできない。また、政治サイドからは、金融当局に対し金融緩和圧力をかけがちであり、インフレやバブルの発生という深刻な打撃が繰り返されるおそれがある。

行政機関の中には、人事院や公正取引委員会などの独立行政委員会のように、直接の政治的コントロールを受けることなく、中立的な立場であることが適当であるものがあり、日本銀行の場合は、その目的に照らしてもこうした独立行政委員会に準ずる位置づけで考えることが適当と考えられる。

大蔵省の業務命令権・解任権の撤廃

大蔵省・政府からの独立には、現行法律の大蔵大臣による業務命令権や、裁量的にも行使し得る可能性のある日銀役員の解任権などを撤廃することが必要である。なお、日本銀行総裁に関する大蔵省出身者と日本銀行出身者のいわゆる「襷がけ人事」のような慣習は取りやめ、民間からも識見のある人材であれば積極的に登用されることが期待される。

対政府与信禁止の明記

政府からの独立という観点に照らした場合、重要な論点は、任免権などの政治的な独立のみならず、対政府与信の禁止といった経済的な独立を日本銀行法でも規定することである。対政府与信の増加は、インフレーションを引き起こす可能性が高いとの考え方からである。

欧州では、通貨統合の第3段階で構築されようとしている欧州中央銀行創設時までに、各国中央銀行に対し、[1]第一義的な目標を物価安定とする、[2]中央銀行の政策決定に際して、EU諸機関、政府等から指令を受けない、[3]中央銀行の政府、その他公共機関に対する信用供与を禁止する、[4]中央銀行総裁の任期が5年を下回らないように定め、政府等による裁量的な罷免権を排除する、といった4条件を満たす法律改正を求めている。これに従って対政府与信の禁止は、近年欧州のほとんどの国で中央銀行法改革によって直接書き込まれ、94年1月以降12ヵ国全ての国で対政府信用供与が禁止されている。ちなみに、近年経済学界の世界的潮流も、中央銀行の独立性指数の中に、総裁の任免といった政治的独立性を測る指数に加え、経済的独立指数として政府部門への貸出禁止に係わる条項を大きなウエイトで勘案するようになってきている。

わが国では財政法5条において、「公債の発行については日本銀行にこれを引き受けさせ、また借入金の借り入れについては、日本銀行からこれを借りてはならない」と規定されている。同7条では「国は国庫金の出納上必要があるときは、大蔵省証券を発行し、または日本銀行から一時借り入れ金をなすことができる」とされており、これらは当該年度の歳入で償還されねばならないこと、最高限度額については毎会計年度国会の議決を経ねばらならないこと、が定められている。

わが国の日本銀行法にも対政府信用禁止規定を書き込み、インフレ阻止への決意を表す必要がある。なお、外国為替資金証券については、公定歩合を下回る金利が付されていることもあって、市中売却が進まず、ほとんど全額日本銀行引受となって残高が累積しているため、一時的な資金繰りというよりは、実態としては公債の日本銀行引受に近いかたちとなっている。このような状況は、金融政策上問題と考えられ、外国為替資金証券は市場金利によって市中に売却していく仕組みを基本とすることが適切である。

(3)他の経済政策との整合性確保

金融政策の主体的確保

金融政策と他の経済政策との関連については、日本銀行は当然のことながら全体的な経済政策の枠組みの中で金融政策を実施することが求められる。同時に、日本銀行は今後はより金融政策を主体的に運営し、国会の場などにおいて金融政策運営のポリシーミックス上の位置づけについての考え方を、積極的に発言していくことが期待される。国民もこうした公開された議論を通じて、究極の目的である「インフレなき持続的成長」を実現するためのポリシーミックスの処方箋を政策当局とともに考え、評価していくことが可能になる。

勿論、経済政策全体との整合性の観点から考えれば、政府の金融政策に対する関与のあり方も重要なポイントであり、中央銀行の意思決定機関である政策委員会に対する政府の議案提出権を規定すべきである。

外国為替市場介入の透明性確保

金融政策の目標については物価の安定を優先するべきで、国際収支不均衡への対応や短期的な為替相場安定といった目標に対して金融政策を優先的に割り当てることは、適切でないと考える。しかし、為替相場の動きが物価の安定を損ないかねない場合、日本銀行は当然のことながら通貨価値の安定の観点から為替相場に配慮すべきである。

この点、為替介入を日本銀行がオンバランスで行うべきという意見もあるが、我々は、[1]日本銀行の目標は物価安定が優先されるべきこと、[2]外貨準備は有事の際には国家安全保障上重要な役割を果たすこと、[3]仮に現状の介入方式のまま日本銀行がオンバランスで介入を行うと、為替リスクの大きい外貨資産がバランスシートの一部を占めることとなり銀行券の信頼という点からは問題となり得る、等の理由から現状では為替介入に関する「主たる」責任は政府が持つという考え方を支持する。

ただし、為替介入の手法や費用対効果、さらには介入の意義そのものも含めて、よりオープンな議論が行われるとともに、日本銀行が介入にどの程度責任を持つのが適当かという点についても継続的に検討することが必要と考える。

なお、為替介入は、国内的のみならず国際的にも、アカウンタビリティーが当然必要とされることはいうまでもない。したがって、為替介入の内容について、一定期間後にディスクロージャーがなされるべきであろう。

3.金融監督面の課題

(1)日本銀行の金融機関監督の意味

わが国の金融監督面の課題は、現在の不良債権問題の発生に関与した金融行政全体に対する反省から生まれており、これと切り離して議論することは適切でない。日本銀行の金融機関監督のあり方と金融行政のあり方を有機的に組み合わせて議論することが、重要である。

まず第一に、日本銀行と行政の金融システム安定にかかる金融機関監督の意味の違いを確認すべきである。免許付与を行う行政当局の監督は、今後は金融機関を指導するコーチ役ではなく、自由に競争する金融機関と距離を保った厳正なレフェリーとしての機狽咜メされる。一方、日本銀行はレンダー・オブ・ラスト・リゾートとして、市場の中でもっぱら決済システムの安定性確保等、中央銀行独自の観点から金融機関監督の責任の一端を担っていくことが求められる。行政監督当局と中央銀行は、相互補完しながらその責任を果たすことにより、金融システム安定という国民経済的な課題の達成を目指すべきである。

(2)日銀考査の位置づけ

第二に、行政検査と日本銀行考査のあり方を見直すことである。行政検査と日銀考査では、現在のところほとんど同様の作業が行われているが、日銀考査のあり方を検討する際に、この両者の考え方をもう一度整理する必要がある。

我々は、今後の金融機関の健全性確保の手法は市場規律が主軸と位置づけられる以上、われわれは、今後の行政検査や日銀考査は、[1]内容や頻度を金融機関の健全性に応じて変化させ、かつ[2]金融機関の自己規律を促すような手法を志向するなど、マーケット時代にふさわしいものへと変化させるべきと考える。

そのうえで、今後の行政検査については、免許付与当局としての立場から、資産の健全性チェックに重点をおいて早期是正措置の運用を中心とし、経営状態の健全な金融機関に対しては、検査の頻度は極力減らし内容も簡素なものとしていく。他方、日本銀行考査は、金融機関全般に対し、内部リスク管理を慫慂するべく、リスク管理体制のチェックを志向するといった、検査と考査の明確な質的相違を打ち出すことが必要と考える。

また、行政検査と日本銀行考査はデータの共有化などを通じて、有機的かつ密接な関係を構築し、日々進化するデリバティブ(金融派生商品)取引への対応などについて、互いにスキルを高めつつ、相互にチェックしあい、内容や頻度の面で両者の力のバランスをとりあうかたちで行われるべきである。このように、日銀考査と行政検査は「棲み分けとチェック・アンド・バランス」という有機的関係を構築することによって、金融機関の規制負担(regulatory burden)を増やさない方向で見直していくべきであろう。

このように検査・考査体制を見直したうえで、日本銀行法に日本銀行が民間金融機関に対して考査契約を締結することが可能であることを書き込むことによって、日銀考査の根拠を明示するとともに、日本銀行の金融システム安定に対する責任の所在を明らかにすることが必要となろう。

(3)日銀特融の位置づけ

第三に、日銀特融の位置づけの明確化である。日本銀行は1昨年の東京共同銀行発足以来、融資、出資といった様々なかたちで特融を発動してきた。日本銀行は昨年春、金融システム安定のための資金供与発動条件を4点(金融システムの安定性確保、日本銀行資金の不可欠性、モラルハザードの回避、日本銀行資産の財務の健全性確保)指摘し、これらの原則が守られている場合に限り支援を行うこととして規律づけを行っている。しかし、その運用の実態は、必ずしも適切とは言い難い。

特に、一部金融機関向けなど収益支援的な特融が存在するほか、米国のように流動性の供与だけでなく、出資や劣後貸出といった様々な形態が存在している。日銀特融資については、日銀法25条の範囲内で曖昧なかたちで行われている訳であるが、日本銀行の資産の健全性の観点から問題であるばかりでなく、最終的には国庫納付金の減少を通じて国民のコストにつながりかねない重大な問題である。

今後わが国においても、早期是正措置の導入が嵐閧ウれているが、存続できないとされた先に対する日銀融資などは、単なる問題先送りにつながりかねないことから、米国のように早期是正措置と日本銀行特融との関係をきちんと関連づけておくことも必要である。

したがって、日銀特融については、[1]金融システム安定のための機動性確保といった要請とのバランスに配意しつつ、どういった資金をどのような先に対して出せるのかといった極力客観性のある基準を政策委員会が明示すること、[2]政府との協議も踏まえて政策委員会がその都度決定にかかわり、責任の所在を明らかにすること、[3]一定期間後にはその運用について国会などで助ェに説明すること、などの仕組みをつくることが重要である。なお、万が一、日本銀行特融に損失が生じた場合は、その損失を日本銀行自身が負担するというルールを事前に作ることも必要であろう。
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