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Business & Economic Review 1996年04月号

【論文】
中国:持続的成長実現の条件-「ポスト トウ小平論」への検証を兼ねて

1996年03月25日 呉軍華


要約

ポスト トウ小平の中国をみるうえで欠かせないの視点は次の2点。

視点1:経済という「下部構造」は政治・イデオロギーという「上部構造」を規定する。持続的成長の実現が今後の中国の安定にとっての最大の鍵である。

視点2:計画経済から市場経済への経済システムの移行と農業社会から工業社会への経済構造の移行を同時に遂げようとしている中国の近未来を過大に評価することは非現実的であるが、あまり悲観視する必要もない。

中国の経済改革の最大の特徴は、農民を中心に自発的に始められた「下からの改革」であった。これは、改革が当初から国民レベルできわめて強力で広範な支持基盤を持っていたことを意 味すると同時に、農民を常に改革の支持勢力として取り付けられるか否かが改革路線そのものの 行方を左右することを示唆する。一方、改革のもう一つの大きな特徴はその「漸進性」にある。中央から地方、政府から企業への権限・利益の委譲を中心とする「放権譲利」はこの漸進的改革 を進めるうえでもっとも重要な手法である。

78年以降、中国は経済システムと経済構造の移行を進めるうえで、大きな成果を上げてきたが、96年現在、なお不安定な移行期にある。とりわけ、「放権譲利」的改革は国家財政を悪化させ、もはや従来の手法ではこれ以上進むことが難しくなっている。改革は大きな転換点を迎 えているといえよう。

中国が今後持続的成長を実現していくにあたって、農業部門と国有企業の活性化が最大の課題である。食糧問題はもとより、食糧価格の急騰がインフレ形成の大きな要因になっており、ま た農業部門の振興とそれに伴う農民所得の上昇は、世界最大といわれる中国の消費市場を顕在化 させるうえで最大の決め手である。一方、国有企業の問題もマクロ経済の安定を脅かすにとどま らず、他の分野の改革の推進を阻害している。あくまでも「社会主義公有制」というイデオロギー的原則を維持し、所有権改革を避けて通ってきたこれまでの改革は今や正念場にきたといって も過言ではない。

課題克服のための国内条件として、農業部門の安定と国有企業の改革の二つが挙げられるが、 農業部門の安定には、①食料生産の安定的拡大、②農村余剰労働力の非農業部門への移転促進による農村・都市部所得格差の是正、が不可欠である。一方、国有企業の問題を抜本的に解決するためには、①合弁や破産等を通して大型企業を含む国有企業全体の所有権の再編を視野に入れた現存企業の整理・統合の遂行、②財政支出および国有企業の遊休資産などを原資とした失業保険・年金保険など社会保険システムの穀z、などが喫緊の課題となろう。

中国が混乱に陥る場合、国内のみならず、世界の経済や安全保障にも重大な影響が及ぶという認識に立ち、国際社会の望ましい対中戦略の在り方について検討すると、
・ 中国のような多数の人口を擁する国においては、急進的改革は採用しがたく、改革のソフトランディングのみが望ましい帰結である。中国自らの努力はもとより、国際社会側も中国を支援しつつ中国の努力を促していく必要がある。
・ 先進国、とりわけアメリカは、経済成長→国力の増強→軍拡→封じ込めといった短絡的な発想 を捨て、むしろ中国を自らの側に取り込むことによって変化を促すことが望ましい。この意味において、中国が一定の条件をクリアーさえすれば、できるだけ早く中国のWTO加盟を実現させるべきであろう。
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