コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 1998年10月号

【OPINION】
野党は政治システム改革を掲げて政権をめざせ

1998年09月25日 調査部 高坂晶子


要約

長引く不況下でわが国労働時間は緩やかな減少傾向を呈してはいるものの、依然としてフランスやドイツと比較すれば、年間300~400時間以上長い水準にある。また、いわゆるサービス残業の大宗が統計上の労働時間から漏れていることを考慮すれば、イギリスやアメリカと比較してもわが国労働時間は200時間程度長い。その意味では、わが国が「時短後進国」であるという一部の主張はあながち的外れではないように思われる。

一方に海外比で相当に長い労働時間が存在し、もう一方では今後の失業率水準の趨勢的な上昇が確実視される現在、有力な雇用創出手段の1つとして注目されつつあるのが、「ワーク・シェアリング」、すなわち労働時間の短縮によって労働投入量を人為的に減らし、それを新規雇用で補うという発想である。事実、石油危機以降のヨーロッパ各国においては、こうしたワーク・シェアリング政策が新規雇用創出手段として盛んに用いられてきた。

もっとも標準的なマイクロ経済学の枠組みでは、時短政策は一意に新規雇用を増加させるわけではない。時短は総体的な労働コストを上昇させるので、中長期的には経営者の資本代替を促進する効果を持つ。すなわち、時短が雇用にむしろネガティブな影響を与えることも十分にあり得る。本稿では、資本や生産技術をさしあたり一定とする設定の下で、簡単なモデルを用いて時短の雇用創出効果に関する比較静学を行ったが、そこでもまた時短が雇用創出を一意に保証するわけではない、という結果が得られている。

本稿では、現実のわが国労働市場データに基づき、生産、雇用、賃金、総労働時間の4変数が長期的にはどのような関係を有しているかを計測してみた。その結果、これら4変数は労働生産性という1つの共通トレンドの回りを一定の規則性を保ちながら変動していることがわかった。また総労働時間はモデル内で決定される内生変数であり、所定内労働時間は総労働時間と長期安定的な関係を持っていないことも明らかとなった。これらの計測結果は、人為的な時短政策は一意な雇用創出効果を保証しない、という理論モデルの結論ときわめて整合的である。

本稿の考察は、新規雇用創出策としての時短~ワーク・シェアリングは実効性に欠けるだけではなく、意図とは逆にかえって雇用に悪影響を及ぼす可能性を示唆している。拙速な時短政策を強行しつつ、同時に雇用確保を政策目標として維持すれば、ワーク・シェアリングは結局大幅な賃下げを伴うウェイジ・シェアリングに陥らざるを得ないように思われる。

長期的な時短と雇用創出の両立は制度のやりくりで片が付く問題ではなく、その実現には労働生産性の趨勢的な上昇が前提となる。一律的な時短政策やそのための諸助成金制度が労働生産性の向上を保証するわけではなく(むしろ阻害する可能性すらある)、その意味で、これらの施策は望ましい政策選択肢足り得ないように思われる。むしろフレックスタイムや裁量労働制、勤務地・勤務場所の自由選択、等のオプションを労働者に付与することの方が、労働生産性の向上を通じて長期的には雇用増と時短を両立させ得る、より好ましい政策選択肢であろう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ