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Business & Economic Review 2009年12月号

【特集2 ヒトの面からみた地域再生】
地域雇用の決定メカニズムの変化と新たな受け皿確保戦略

2009年11月25日 山田久



要約

  1. 本稿の目的は、近年進展している地域雇用の決定メカニズムの変化の分析を行ったうえで、今後、地域で雇用の受け皿を創出するにはいかなる対応が必要なのかについての提言を行うことにある。

  2. いかに地方の雇用が確保されてきたかという観点から、過去を振り返ると、高度成長期には都市部中心に経済成長し、地方から都市部への人口移動により、地方出身者の雇用が確保されていた。高度成長期の終焉で地方から都市部への人口移動が低調になってからは、製造業の工場誘致が地方雇用確保策の主軸となった。
    バブル崩壊後の不況期には、大規模かつ継続的な公共事業の積み増しにより建設業で地方雇用が確保された。しかし、1997年の金融危機発生以降は、先行き閉塞感から産業の空洞化が進行するなか、目ぼしい受け皿が無く、全国的に失業率が大幅に悪化した。

  3. 2000年代半ばには、製造業の国内回帰が地方雇用再生の原動力となった。ここで見逃せないのは、請負・派遣の存在が製造業の国内回帰を背後で支えていたことである。この点を踏まえれば、現政権は製造派遣の原則禁止を掲げているが、地方での製造基盤確保のためには請負・派遣を広く許容することが妥当と考えられる。
    この時期の特徴として重要なのは、就業者数が明確に増えたのは南・北関東、東海、近畿の大都市圏に限られていたことである。その他地域では労働力人口の減少が失業率低下に寄与した。このことは、雇用の受け皿を直接創出するのみならず、雇用の受け皿があるところにいかに人を移動させるかも重要であることを示唆している。

  4. 近年、各地域で国内よりも海外との結び付きが強まる一方、輸出増が各地域の成長のエンジンになっている。この背景には「フラグメンテーション(分散立地)」が可能になり、日本の地方とアジアの工業化地域がグローバル企業の立地を巡って競争することになったという事情を指摘できる。加えて、人口動態や景気低迷から国内市場が伸び悩み傾向にあったことで、競争力のある企業は海外市場に販路を開拓した。
    つまり、日本の地域は、生産・消費のグローバル・ネットワークに自らを組み込むことのできた地域と、そこから取り残されつつある地域に二極分化しつつある。その構図が、90年代末以降2008年秋の経済危機発生の前までにみられた失業率の地域間格差拡大の背景にある。危機発生以降地域格差は縮小傾向にあるが、これは一時的現象であり、世界経済が成長軌道に復帰していくにつれ、再び雇用の地域別バラツキが広がっていく見通しである。

  5. これまでの分析を踏まえれば、地域雇用の創出のためにまず取り組むべきは、アジアをはじめとする海外の成長地域を視野に入れて、国境を跨ぐ生産・消費の連関を形成できる産業をどう育成するかについての戦略を練ることといえよう。具体的な産業分野としては、伝統的な輸出産業である製造業分野のほか、「新しい輸出産業」の可能性を秘める農業や観光業といった非製造業分野にも可能性がある。

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