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Business & Economic Review 1998年02月号

【INCUBATION】
環境IPPの創出に向けて

1998年01月25日 宍戸朗、井熊均


1997年12月に開催された温暖化防止のためのCOP3京都会議では、90年を基準として2018年から2022年までに、温暖化ガスを、EUが8%、アメリカが7%、日本は6%削減することが決められた。これは、日本の産業界には重い課題であるが、一方で環境問題への対策を市場における優位性確保のチャンスとみなし、対策に積極的に取り組んでいる企業も多い。しかし、市場原理の働かない部分には、何らかの対策が必要である。なかでも、二酸化炭素の排出量が多い電気事業は、排出原単位を下げることを含めた対策づくりが必要である。

これまで電気事業では、経営の効率化と安定化のなかで、副次的に二酸化炭素排出量原単位が削減された。今後は、大規模な電源施設の立地を前提とする火力、水力、原子力の枠組みのなかでの取り組みには限界があり、環境負荷が小さく自給可能な新エネルギーの積極的な導入が必要である。しかし、発電の潜在能力が大きいといわれながらも、技術とコストという二つの壁があるため、その導入は順調には進んでいない。

95年の電気事業法改正で導入されたIPP(独立系発電事業者)入札制度は、電力供給量と供給コストの面で大きな効果をもたらした。しかし、入札結果をみると、二酸化炭素の排出量の大きい石炭による発電が多い。これはコスト競争のみに視点をおいた入札方式の結果であり、現在の方式のなかでは、環境負荷が小さい新エネルギーは、発電原価が高いために参入が容易ではない。

新エネルギーを事業として普及させるためには、発電方式の決定過程で環境性を評価する仕組みが必要である。補助金政策は、事業収益性の向上には結びつかないことから、事業の支援方式としてふさわしくない。一方、新エネルギーの余剰売りでは、売電価格が通常の場合より高いものの、余剰売りそのものが事業を前提としていないため、民間の発電事業者の育成には十分ではない。環境特性を売電価格に反映したIPP入札を行えば、環境IPPと呼ぶべき新エネルギー発電事業者が創出されることが期待される。

環境IPP育成のためには、環境性が高いIPPほど売電価格に高い環境プレミアムを適用する手法を用いて、民間事業者の創意工夫を促す市場環境を創ることが重要である。ここでは、次の2つを提示する。

[オプション1 環境プレミアム付き入札]

適正な環境プレミアムを入札前に予め設定し、発電方式に関係なくIPPの入札を行う方式である。落札事業者は入札価格をもとに決定されるが、実際には環境プレミアムが上乗せされた売電価格で契約することとする。

[オプション2 電源別入札]

電源ごとに決まった募集電力量の枠を予め設定し、枠ごとに入札を行う方式である。各電源方式での落札価格の差が結果的に環境プレミアムとなる。

将来的な環境IPPの健全な育成のためには、オプション1とオプション2の長所を取り入れたハイブリッド型の政策が望ましい。環境プレミアムの発生によるコスト負担は、税制面での優遇措置等を考慮すべきである。火力発電では、すでに環境特性を考慮したIPP入札が検討されており、これを環境IPPと組み合わせれば、電力の環境共生に幅広い仕組みを創り上げることができる。

1.はじめに

1997年12月に温暖化防止のためのCOP3京都会議が開催された。この会議では、温暖化ガスの排出を抑制するための具体的な数値目標が議定書に盛り込まれ、参加各国はようやく温暖化防止に関する具体的な活動の局面に入る。

今回の地球温暖化問題は、被害者と加害者が空間的にも時間的にも大きく離れているという特徴がある。

例えば、温暖化によって被害を受ける国は、途上国が中心である。バングラデシュでは、温暖化により海面が1m上昇した場合、国土の18%が水没するという。一方、排出源は先進国に集中しており、二酸化炭素の排出の大部分は先進国によるものである。このような、地球温暖化の加害者と被害者の空間的分離は、一種南北問題ともいえる様相を呈している。また、現行レベルの二酸化炭素排出が持続した場合に、それが問題化するのは、20年先、30年先であり、直接的な被害を我々が今すぐ受けるわけではない。問題の切迫感の希薄さが、これまでの公害問題や、オイルショックとは根本的に異なっているところである。

こうした問題の性質の違いは、対策の違いにも現われる。今回の温暖化防止に向けては、全世界が一丸となって取り組まなければならない。

このような背景を踏まえると、今回のCOP3京都会議で議長国を務めた日本には、大きな役割が求められていたといわざるを得ない。それは、日本が全世界の約5%もの二酸化炭素を排出していることや、日本が先進国と途上国の間に位置しており調整的役割を担い得るということからも明らかである。

議定書では、温暖化ガスの排出に関して、90年を基準として2018年から2022年までに、EUが8%削減、アメリカが7%削減、日本は6%削減することが数値目標として決まった。日本の数値目標は、一見すればアメリカより低い値となっているが、日本の産業の現状を考えるのであれば、重い課題を突き付けられたといえる。それはわが国がオイルショック等の経験を通じてすでに産業部門での省エネルギーを他国に先駆けて進めたことから、目標達成には、産業界での全く新しい発想や、民生部門等での省エネルギーのための大胆な取り組みが必要と考えられるからである。

しかしながら、こうした懸念をよそに、産業界においては環境問題への対策に積極的に取り組んでいる企業が多いことにも気がつく。そうした企業の活動は、次に示す2点を認識した戦略的な取り組みと捉えることができる。

第1は、リーダー的な企業による環境共生型の産業づくりである。ここ数年で、例えば、トヨタ、IBM、NEC、アサヒビールといった大企業が積極的に環境対策に乗り出している。代表的な環境対策の例としてあげられるグリーン調達は、製品の原材料として環境負荷の小さいものを調達しようという試みである。グリーン調達により、リーダー的な企業が取引先に環境共生型の企業活動を求めることにより、環境負荷の低い原材料を提供する企業が取引先として選別されることになる。このようにして、産業をリードする企業が積極的に環境対策に乗り出し、それが関連企業に伝播することで、産業構造が環境共生型に変わっていくという構造が形成されつつある。

第2は、他産業との連携による環境負荷の低減である。例えば、廃棄物の対策においては、工場での廃棄物をゼロにしようという、ゼロエミッション工場の概念が提示されているが、これらは、工場内で発生した廃棄物を細かく何種類にも分別し、有価物として他の業界で活用することによって実現可能となる。物流においては、ある業者が他の業者と同じ車両を使用することで、経費削減を行うと同時に環境負荷低減を実現する試みも現われた。環境負荷低減をキーワードに異なる産業間の連携が拡大し、産業構造が変わりつつある。

こうした例をみると、解決策は従来の枠組みのなかではなく、それを超えたところにあるように思えてならない。すなわち、求められているのは、従来の枠組内での最適化ではなく、枠組みの再構築なのではないかということであり、それは同時に環境共生において優良な企業を生き残らせるための枠組みの構築ともいえるのである。

こうした認識に立てば、民間企業では今後環境優良企業が生き残っていく淘汰の時代を迎えるのであろうが、その一方で、市場原理の働かない部分に関しては、何らかの対策を講じなければならない。

そのなかでも、二酸化炭素の排出量が多い一方で、公的性格を有するため市場原理が働きにくく、さらに供給義務がある電力事業は、特に重要な分野である。

二酸化炭素問題における電力事業の位置づけはきわめて高い。電力にかかわる二酸化炭素の排出量は全体の排出量の約25%を占める。 一方、増大する一方の電力需要に対し、電力会社は、電力の安定供給が義務づけられている。したがって、他産業のように省エネルギーによって二酸化炭素排出量を削減するということが容易でない。二酸化炭素の排出の原単位を削減するための何らかの措置を講じることが求められている。

2.新エネルギーの重要性

電力業界においては、次に挙げる2つの取り組みが二酸化炭素排出抑制に貢献している。

第1は、電力設備の効率向上である。改良型コンバインドサイクル発電に代表されるような世界的にみても最高レベルの高効率発電の技術と、高圧送電による送配電ロスの低減は、燃料節約を通じて、結果的に二酸化炭素の削減につながっている。

第2は、電源のベストミックスである。これに関しては、火力発電の燃料の転換と原子力の導入が例として挙げられる。総発電量の約50%強を占める火力発電では、主燃料を石炭から石油、そしてLNGへと転換した。そのため、わが国の火力発電での二酸化炭素排出量は先進国のなかでもきわめて低い。現在総発電量の約40%を占めるまでになった原子力発電は、施設建設時および運用時の二酸化炭素の排出量が小さく、発電全体の二酸化炭素の削減に貢献している。

双方とも、二酸化炭素の削減は、電力経営の効率化と安定化を目的として、副次的に達成された面という点で共通している。しかしながら、今後も同様の方式により、二酸化炭素の発生が抑制されていくかというと容易ではない。

それは現在の発電方式の枠組みのなかでは、温暖化を防止するための余地が少ないからである。ここでいう枠組みとは、発電量全体の約99%を占めている火力、原子力、水力のことを指す(図表1)。

これら3つの電源は、大規模な電源施設の立地を前提としている。火力においては火力発電所、水力においてはダム、原子力においては原子力発電所が必要である。そのなかでも、原子力は事故発生時のリスクや放射性廃棄物の取り扱いなどの問題が大きい。世界的にみても、今後原子力発電所の立地を積極的に進めていく事は容易ではない。

また、安易に原子力に依存することは、エネルギーが無尽蔵であるという錯覚を与え、エネルギー節約の意識に水を差し、これまでの省エネに逆行する動きを創り出す可能性もある。

したがって、今後二酸化炭素の排出を抑制するためには、従来の枠組みにはない新しい発電方式を火力の代替として導入し、そのシェアを高めることが必要である。そして近年、環境負荷の小さい自給可能なエネルギー源として自然エネルギー、高効率エネルギー、未利用エネルギーなど新エネルギーへの関心が高まっている。

自然エネルギーは、太陽光、風力、温度差、波力等、自然現象を利用したものである。 現在では、このなかで太陽光発電と風力発電が有力視されている。例えば、太陽光発電は、導入のコストが問題となっていたが、通産省が94年度から開始した個人住宅用の設置補助施策によって急速に普及している。太陽光の注ぐ昼間しか発電できず、発電効率が悪いという指摘もあるが、電力需要のピーク時である夏季昼間に最も発電効率が高いという利点を持つ。また、風力発電においても、徐々に普及しており、風力発電事業を全国的に展開する事業者も現われた。

高効率エネルギーとしては、燃料電池がある。燃料電池は、水素と酸素の化学的なエネルギーを使って発電を行う方式である。これらは、徐々に試験段階を終えて実用段階へ入りつつある。そのなかでもリン酸塩型の電池は、商用段階に入るところであり、10,000kW程度の発電規模での実験も行われている。燃料に汚泥消化ガスを利用できるクリーンなエネルギーであるうえ、化学エネルギーを用いるため発電効率が火力発電より高いことから、今後は火力発電の代替の役割を期待する向きもあるが、広く普及するには一層の技術やノウハウの蓄積が必要とされる。

現在すぐに利用可能と考えられているのは、工場のボイラ排熱等の未利用エネルギーである。このような今まで捨てていた熱エネルギーを利用するためには、発電のための設備のみを新たに設ければよい。したがって、発電に関する既存のノウハウの流用が可能であり、技術的安定性もある。

未利用エネルギーのなかでも、清掃工場で可燃ごみを焼却する際に発生する熱エネルギーを用いる廃棄物発電は最も期待が大きい。廃棄物を燃焼してごみを減容化できるうえ、廃棄物のもつ熱エネルギーを電力や熱として、有効活用しようということで環境面での二重のメリットがある。発電規模も1プラント当たり数万kWレベルでの発電が可能である。

一方、廃棄物処理は、昨今のダイオキシン問題等を背景として、従来の自区内処理を越え、広域化する方向に進みつつある。廃棄物処理施設が大規模になれば、コスト面でのスケールメリットが発生し、また発電効率も向上するため、発電の可能性はさらに広がることが期待される。

新エネルギーには次のような特徴を挙げることができる。

第1は、電源の規模が比較的小さいことである。一つ一つの立地の規模が小さいため、従来の火力発電所のように、まとまった広大な土地を必要としない。

第2は、自然現象や廃棄物を利用する自給可能なエネルギーであることである。

第3は、二酸化炭素排出量の増加が少ないことである。自然エネルギーは、燃料を必要としない。燃料電池は燃焼を行わないため、二酸化炭素をほとんど排出しない。廃棄物発電も、従来の捨てられていた熱を利用するため、その分の化石燃料の消費を抑制することが可能である。

こうした地域環境性と地球環境性に優れた新エネルギーではあるが、発電の潜在能力が大きいといわれながらも、その導入は順調には進んでいない。

例えば、環境庁が作成した風力発電導入マニュアルによれば、全国で900万kWが発電可能であるとされている。しかし、風力発電の全国での導入実績は、97年6月現在においてわずか約1.5万kWであり、前述した開発可能量の約600分の1程度にすぎない。

太陽光発電については、電力中央研究所の試算では、2030年に設備容量1,614万kWに達する可能性も持つとしている。しかし、未だ約3.9万kWを供給しているにすぎない。双方とも、その可能性は早い時期から指摘されていたが、積極的な取り組みには至っておらず、現状の全発電量の1%すら満たしていない。

一般廃棄物に関しても、現在、全国に約1,800箇所以上の清掃工場があるにもかかわらず、廃棄物発電を行っている設備は、全体のわずか130箇所程度である。通産省の試算では、廃棄物発電には一般廃棄物だけでも約300万kW、産業廃棄物も併せれば合計約2,000万kWの発電余力があるとされているが、その開発はまだ緒についたばかりといえる。

こうした新エネルギーの普及の遅れはなぜ起こったのだろうか。それは新エネルギーの導入に対し、依然として技術とコストという2つの壁があるからである。 技術に関しては、多くが実用化の段階に達してきたものの、依然として技術開発が必要なものもある。コストに関していえば、総じて新エネルギーのコストは既存のエネルギー源に比べ高い。このように、コスト、技術の面で課題のある新エネルギーであるが、事業化に向けた壁の高さは技術の種類によって様々である。 こうした認識に立つと、新エネルギーも技術、コストの面でいくつかのカテゴリーに分類できる。そこで、新エネルギー普及の可能性ということで、以上の2つの視点に沿って分類すると、以下の4つに分類できる(図表2)。

(1) 事業フェーズ

事業フェーズは、技術的安定性があり、民間企業による事業性が見込める場合である。廃棄物発電はこの段階にあると考えられる。

(2) 投資フェーズ

技術的に目途がついているものの、高コストがネックになって普及しない場合である。この段階では太陽光発電のように補助金による投資を行い、事業段階に移行することを促すことも考えられる。

(3) 開発フェーズ

民間企業による競争力のある技術であるが、技術的安定性が不十分である場合である。海外の技術を用いた発電は、コスト競争力はあるが、国内での適用に関しては技術的安定性が不十分と判断される場合もあり、この段階にあると考えられる。

(4) 育成フェーズ

技術的課題が多く、コスト的にも採算が合わない場合である。

このように新エネルギーといっても、種類によって実用化のレベルは様々であるが、最も実用化の可能性の高い廃棄物発電でさえ、発電事業として育成するには様々な課題がある。以下では、特に廃棄物発電のように事業性が比較的高い技術の普及を念頭に置き、これを事業としていかに普及、拡大するかという点を、昨今の電気事業の動向を踏まえて論ずることとする。

3.現在のIPP入札の問題点

電力会社の経営効率化と、電力料金の引き下げが求められるなか、95年に電気事業法が改正され、発電事業に関する規制が大幅に緩和された。これにより、以下の2つの観点から事業の可能性が開かれた。

(1) 特定電気事業の創設

特定電気事業は、一般電気事業者に代わり、特定地域の電力需要を賄うことを目的として創設された。特定電気事業者は、安定供給責任を負う一方で、特定地域内の需要家に対して一般電気事業者に準じた売電価格にて電力供給を自由に行うことができる。

(2) 卸電気事業の規制撤廃

卸供給制度が整備され、発電を行う事業者が独立系発電事業者(IPP)として、入札によって、電力の卸売を行うことができるようになった。

その他にも、特定供給の制度の規制緩和、保安規制の緩和、電力料金設定方式の変更等があるが、上述した2つの改正が発電事業に民間企業の参入の道を開いたということになる。

特定電気事業の制度は、様々な制約条件もあり、未だほとんど普及していないが、卸発電事業の方は、電気事業に大きなインパクトを与えている。96年度から開始された火力電源にかかる卸供給の入札制度では、発電部門への市場原理の導入により、電気事業全体のコストダウンが図れるようになった。実際に、96年度、97年度の2回の入札の結果から次の点を指摘することができる。

まず、民間事業者が提示した発電事業原価が電力事業者の示した発電原価よりも相当低いことが明らかになった。入札価格は公開されていないが、電力会社の提示した上限価格に対し、約2割から3割低い額がIPPによって提示されたといわれている。戦略上、採算を度外視したケースもあるかもしれないが、いずれにせよ民間事業者が発電ノウハウを生かし、競争原理に基づき電力を提供することの意義が確認されたといえる。

また、卸発電事業に関して民間企業の参入意欲が予想以上に大きく、IPP入札を実施した2年間で、募集量に対し平均約5倍の応札があった。卸電気事業の潜在量は全国で2,000万kW以上ともいわれており、その場合、現在の発電施設能力合計の約10%に相当する。発電事業への参入意欲が衰えなければ、IPPが今後発電事業において大きな存在になることは間違いない。

一部には、安定供給の面で、IPPの供給能力を疑問視する向きもあるが、供給の確実性とコストの優位性を適正に判断したうえで競争原理を導入すれば、電力事業全体の改革に寄与することは明らかである。それと同時に、折からの財政難による公共事業費削減の影響を受ける関連分野の民間企業にとっては、大きなビジネスチャンスを提供している。

こうした民間による競争原理の導入は、電力供給のコストと量においてきわめて大きな影響をもたらした半面、二酸化炭素の削減という面では副作用をもたらしている。

この2年間の結果をみる限り、落札している業種は、鉄鋼・石油が中心であり、発電方式では石炭の割合が最も高い(図表3)。このように、二酸化炭素排出量が多い燃料を使用しているIPPが多く落札するというのが実情なのである。

こうしたCOP3の流れに逆行した入札結果は、現在のIPPの入札方式に原因がある。環境特性を考慮しない入札方式では、取得原価の小さい石炭発電が落札するのは当然の結果となり、二酸化炭素排出量の少ない発電方式はよりコストがかかる分だけ不利になるのである。

したがって、新エネルギーのような環境負荷のより小さいエネルギー発電事業として成立させ、広く普及させるためには、環境特性を考慮した入札方式の仕組みをつくることが必要である。

4.環境IPPの必要性

実際に、新エネルギーを用いた発電事業者がIPP応札し、その結果落選した例がある。

97年度の東京電力のIPP入札では、栃木県が自治体としては初めて、また廃棄物発電としても初めて、廃棄物固形燃料であるRDFを使用したRDF発電で応札することが話題となった。栃木県内の一般廃棄物を、RDF製造設備によって固形燃料化し、焼却することによって発生する熱を利用し、約2万kWの発電を実現する計画である。廃棄物発電のポテンシャルが高いことを考慮すれば、今後も廃棄物発電のIPP入札は多いに推進すべきである。

しかし、前述したように現在のIPP入札制度では廃棄物発電にとってコストの面のハードルが高い。栃木県の場合は、事業性を確保するための売電価格が高く、石炭発電が中心を占める入札においてはコスト競争力が低かった。

それでは、こうしたコストギャップを埋め、新エネルギーの普及を促進するためにはどのような方法があるのだろうか。 これまでの代表的な方法としては、公的補助金による政策が挙げられる。確かに太陽エネルギーに関しては通産省による個人住宅用の設置補助政策により、設置件数は急増した。しかしながら、補助金方式は市場原理に基づく民間事業の支援には、ふさわしくない。それは、補助金方式には次のような問題点があると考えられるからである。

第1は、補助金が企業の財務体質の向上につながらないことである。補助金は当初の資金調達の負担を軽減することには有効であるが、民間による継続的事業としてみた場合には、それほど役に立たない。すなわち、補助金は企業の収益力を高めるわけではないので、長い目でみた場合の財務状況の強化にはつながらないのである(この点については、Japan Reserch Review 1997年8月号「『公的事業』への市場原理の導入」を参照)。

第2は、補助金が依存体質を生み、企業に誤った財務感覚を植え付けることである。結果として、事業に補助金を投入することは、補助金に依存しないと成立しない弱い事業体を多く生むことにつながる。

第3は、補助金の多くが適用のための条件を設定するため、事業者の創意工夫を奪うということである。

以上の点を考慮すると、補助金方式による技術、事業の開発は、前述した新エネルギーの4つの分類では、投資フェーズ、育成フェーズにおいてのみ有効性が検討されるべきであろう。事業フェーズにおいては、民間事業が市場原理に基づき、創意工夫を行うことによって力強く発電事業を推進し得る土壌づくりを行う必要がある。そのためには、健全な財務体系に基づき運営される民間事業者に対して目標となる市場の条件を明示することが必要である。IPP入札に関していえば、環境特性を、事業収入に最も大きな影響を及ぼす売電価格に反映するための仕組みを創り上げることが重要となる。

実は、余剰売りの売電価格には、すでにこの環境特性を考慮した例がある。余剰売りというのは、自家発電などで発電した電力の余剰分を電力会社が買い取る制度である。 以下に余剰売り平均価格とIPP落札推定価格の場合の平均価格の例を示す。

[余剰売り平均価格]一般火力等 3~4円/kW

太陽光、風力 25円/kW程度

ごみ発電 8円/kW程度


[IPP推定落札価格]一般火力等 5~7円/kW程度



民間の新エネルギー発電事業者の育成という視点からみた場合、余剰売りはIPP入札と比較すると、事業育成性という面で劣っていると考えられる。

それは、余剰売りの売電価格が事業として成立することを前提に設定されていないからである。余剰売りの売電メニューは数年ごとに改定されており、長期にわたって投資回収を行う必要が有る電力事業の収入を支える仕組みとはいえない。長期間の契約により継続的に事業を支援するための仕組みが必要である。前述した新エネルギー技術の多くは、研究室レベルでの開発段階は終え、今や事業化に向けたコスト、技術両面での改善が必要となっていることを認識しなくてはいけない。これまでのあらゆる産業技術の改善は事業指向のなかで行われてきたことを踏まえた枠組みづくりが必要なのである。

以上示した観点から、新エネルギーの普及拡大、技術としての発電のためには新エネルギーがIPPとしても存立し得る市場の枠組みを創ることが必要である。そのためには、環境特性を売電価格に反映したIPP入札を行い、環境IPPと呼ぶべき新エネルギー発電事業者が創出されることが期待される。

5.環境IPP入札の方向性

環境IPP育成のための土壌作りとして、1つには、環境性が高いIPPほど売電価格に高いプレミアムを付けること、2つには民間事業者であるIPPの創意工夫を促す市場環境を創ることが重要である。ここでは、環境性の高い発電事業者に付けられる売電価格のプレミアムを環境プレミアムと定義し、適正な環境プレミアムを反映した入札方式として、次の二つのオプションを提示する。(図表4)

[オプション1 環境プレミアム付き入札]

この方式は、環境IPPが一般のIPPとコスト面で伍し得る環境プレミアムを入札前に予め設定し、発電方式に関係なくIPPの入札を行おうとするものである。

実際のプロセスは以下のようになる。

入札要領発表時に、電源ごとに環境プレミアムが示される。落札事業者は、入札価格をもとに決定されるが、実際の売電契約時の売電価格には環境プレミアムが上乗せされることになる。すなわち、環境IPPは環境プレミアムを含めた事業シミュレーションに基づいた入札が可能となる。

この方式では、環境プレミアムの算出根拠を明確に示し、適正な環境プレミアムの設定方式を創ることが重要になってくる。それには以下の2つの方式がある。

・ 原価積み上げで各発電方式の事業成立可能な原価を決める方式
・ 二酸化炭素の環境面での外部コストを明確にすることを前提として、各発電方式により削減される二酸化炭素の量に応じてプレミアムを決める方式

しかしながら、上述した2つの方式を実現するにはいくつかの問題を伴う。まず、原価積み上げ方式は、そのものが市場指向と矛盾しており、長い目でみた場合、健全な事業者の育成に結びつかない可能性があるという点である。また、二酸化炭素の環境負荷の外部コストの明確化は、現状では、算定手法が明らかでないうえに、他産業への影響も大きいことからコンセンサスづくりが難しい。

[オプション2 電源別入札]

この方式は、電源ごとに市場原理を導入しようとするものである。

すなわち、環境プレミアムを入札前には決めず、電源ごとに決まった募集電力量の枠を予め設定し、枠内での最低価格を示したものを落札者とするのである。この場合には、各方式での落札価格の差が結果的に環境プレミアムとなる。

この方式は、枠内でのプレミアムの決定に関しては市場原理が働き、結果として環境プレミアムが根拠を得るという利点を持つ。しかしながら、異なる環境IPPの間での技術の枠を超えた競争が起こらない、あるいは、ひとたび落札者となった環境IPPに関しては、将来的にその技術が劣ると評価された場合に自然淘汰が進まない、といった課題がある。

オプション1、2の課題を解決するために、オプション1とオプション2を組み合わせることも考えられる。つまり、事業性が高く、技術的評価も確立された環境IPPに関しては、一般のIPPと同じ枠で募集するものの、特に競争力の弱いIPPについては、別枠を設けるといった具合である。

また、環境プレミアムの決定が難しいというオプション1の欠点を補う方法としては、当初はオプション2を適用し、おおよその環境プレミアムを把握したうえで、オプション1を適用するという方法も考えられる。

将来的な環境IPPの健全な育成のためには、こうしたハイブリッド型の政策が望ましい。

一方、環境IPP入札を実施する際に当たっては、環境プレミアムの発生によって生じたコストを誰が負担するかという課題も生じる。電力会社が、環境IPP導入に伴うコストをすべて負担するというのでは、環境IPPの育成は進まないであろう。環境対策は国として進めるべき施策であって、その負担を電力会社に押し付けるのは電力事業の規則緩和の方向と相容れず、問題がある。電力会社に対して環境IPPの導入のインセンティブを提示するためには、例えば環境IPPの受入額の一定割合を事業所得から控除する税制面での優遇措置等を考慮すべきである。

また、廃棄物発電のような未利用エネルギーによる発電事業に関しては、廃棄物政策等の動向により今後の事業性が左右されるため、民間事業者の投資リスクを軽減するために、事業の安定性を政策面から保証するための仕組みづくりが必要である。

以上のような国としての負担は、二酸化炭素削減に向けた新エネルギーの導入のために避けて通れないものである。昨今、公的負担の増大には、後ろ向きな面もあるが、問われるのは公的資金投入自体の是非ではなく、その意義と効率性である。そうした観点から、市場原理が働く環境で事業者を育成する方向性が、最も望ましいということが認識されるべきである。 以上の観点から、本稿では、市場原理ができるだけ働いた環境でいかに新エネルギーの普及を図るかについて論じた。

すでに、今後のIPP入札の方向性として、火力発電等については入札時に環境特性を考慮するための検討が行われているが、これを環境IPPと組み合わせれば、電力の環境共生に幅広い仕組みを創り上げることができよう。そして、こうした取り組みが環境保全と産業振興のトレードオンを可能とするのである。
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