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Business & Economic Review 1999年11月号

【MANAGEMENT REVIEW】
プロジェクトファイナンスにおける新たなリスク管理手法-損害保険と代替保険市場の活用による融資銀行のリスクヘッジ戦略

1999年10月25日 日吉淳


要約

プロジェクトファイナンスは、企業の信用力を担保とするコーポレート・ファイナンスとは異なり、融資対象となる新しい事業の資産のみを担保とし、将来の収益力を返済する原資とするファイナンス手法である。プロジェクトファイナンスは一般的にハイリスクであるため、融資銀行は、事業の将来の収益力を長期にわたり確実に評価し、収益力の不確実要素となるリスクを可能な限り回避する能力が求められる。

融資銀行は、プロジェクトファイナンスのリスクヘッジを行うため、プロジェクトの各段階において締結される、(1)EPC(建設)請負契約(ゼネコンあるいはメーカー)、(2)操業契約(オペレーター)、(3)販売(供給)契約(カスタマー)、(4)原料供給契約(サプライヤー)においてリスクの負担方法と損害保険の付保を規定する。さらに、融資契約の中で(1)~(4)の各種契約を包括的に規定する条項(コモン・アグリーメント)を設定し、プロジェクトファイナンス全体のリスク処理と損害保険を最終的に規定する。

EPC請負契約においては、完成引き渡しまで工事中の資産はコントラクター(請負者)の管理下に置かれるため、プロジェクトが操業あるいは稼働状況になるまでコントラクター(請負者)が原則として全ての責任を負担する。また、コスト、時間のオーバーランのリスクも可能な限りコントラクターに転嫁することが一般的である。

オペレーション契約(操業契約)においては、融資銀行は、プロジェクトカンパニーとオペレーターの間の操業委託契約に保険条項を入れ、完成した資産の保全とその稼働による収益の補償を損害保険により行うことが必要である。原料(サービス)供給契約、製品(サービス)販売契約上の損害保険付保可能なリスクもこれらの条項で処理が規定される。

原料(サービス)供給者と製品(サービス)購入者との間の契約においては、損害保険により、供給者や購入者が損害保険で担保可能なリスク(天災、爆発、台風、地震、機械的な事故など)により供給あるいは購入ができなくなったときに、プロジェクトカンパニーの被る損害(利益の減少)が補償される。

地震リスク、製品(サービス)価格変動リスクなど、これまで損害保険マーケットにヘッジしにくかったリスクに関しては、先物取引やスワップ、証券化などの金融手法を用いてリスクを資本市場へヘッジする手法である代替的リスク処理(ART:Alternative Risk Transfer)を用いることにより、プロジェクトファイナンスの投資(信用)リスクをコスト化することが可能となる。

特に、わが国においては地震リスクを放置してプロジェクトファイナンスを実行した場合、地震の発生により膨大な不良債権と化すことは容易に想像できる。このことからも、合理的に地震リスクをヘッジできるARTの活用は、プロジェクトファイナンスの融資銀行にとって、非常に大きな意義を持つものである。

プロジェクトファイナンスを成功させるためには、融資銀行はプロジェクトの全期間を通じ、最新の金融技術、保険技術を駆使してリスク管理を行わなければならない。この面において、わが国の金融業界、保険業界でもこのようなリスク管理に対するの早急な取り組みが必要である。
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