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Business & Economic Review 2000年10月号

【論文】
財政赤字問題と高齢化のコスト負担のあり方

2000年09月25日 蜂屋勝弘


要約

景気の回復傾向が定着するなかで、財政赤字問題への関心が高まっている。わが国の財政状況がフロー、ストックともに先進国中最悪のレベルにあることに加えて、将来の高齢化社会の本格到来に伴い、コスト負担の急激な増大が不可避となることから、財政健全化と同時に高齢化のコスト負担をいかに賄うべきかが問われている。しかしながら、現在の議論をみると、(1)景気回復と財政健全化のどちらを優先するかという二者択一の議論と、(2)財政健全化および高齢化のコスト負担の増加に対して、歳出削減で対応すべきか国民負担増加で対応すべきかという二者択一の議論、が主流になっており、わが国財政の現状認識に甘さがみられる。

財政健全化を達成しつつ、将来の高齢化のコスト負担に対応するためには、歳出・歳入両面において構造的な一大変革が不可欠である。まず、歳出面では、公共投資の大幅な削減や政府消費の抑制に加えて、社会保障給付費にも削減のメスを入れる必要がある。本稿で行った試算によると、2010年度に長期債務残高の対名目GDP比率の上昇を抑制するためには、今後10年間政府消費の伸びをゼロに抑制することに加え、2010年度までに公共投資の規模を半減させる必要がある。さらに、こうした厳しい歳出削減の継続と同時に、社会保障制度の改革によって、給付費全体を2025年度までに改革なき場合に比べて2割削減することで、ようやく長期債務残高の名目GDP比率は2010年度以降、緩やかながら低下に向かう。

一方、歳入面では、新たな国民負担の増大を国民に求めることもやむを得ない。本稿の試算では、2025年度までに長期債務残高を名目GDPと同程度まで抑制するには、上述した公共投資の削減、政府消費の抑制、社会保障給付費の抑制に取り組むと同時に、17兆円(消費税率換算5.2%)の増税が必要となる。こうした国民負担の増加によって、2025年度時点の国民負担率は43.7%(2000年度の国民負担率は当初予算見込みで36.9%)まで上昇するものの、歳出削減によって10年間で財政健全化を達成することに成功すれば、財政赤字も含めた潜在的国民負担率を46.9%(同49.2%)に低下させることが可能である。逆に、向こう10年間歳出削減努力を全く行わない場合には、長期債務残高の対名目GDP比率の上昇に歯止めをかけるために、2010年度時点で52兆円(消費税率換算16.4%)もの大増税が必要となるなど悲惨な状況となる。以上の試算から導き出されることは、歳出削減を中心に10年以内に財政健全化を達成するとともに、高齢化のコスト負担はある程度の増税によってカバーすることが、現世代の負担を後世代に極力残さないためにも必要不可欠になるということである。

もっとも、歳出の削減や国民負担の増加による、景気へのマイナス影響は不可避である。したがって、わが国経済の足腰が定まっていない現状での性急な財政赤字削減は危険である。現在、急がれる政策は、財政健全化の早期本格実施が可能となる環境が整うまでの間は、各種規制の一段の緩和や成長部門への重点投資などを通じたわが国潜在成長力の引き上げや、財政構造を効率的な資源配分システムに変革するなど、財政健全化に向けた環境整備に努めることである。

国民負担の増加は国民に相当な痛みを強いることになる、したがって、国民に負担増加の理解を得るためには、既得権益を背景とした現状の歳出構造の無駄を徹底的に排除するとともに、「クロヨン」や「益税」といった税負担の不公平解消に向けた税制の抜本的な改革を断行することが、不可避の大前提となることを当局は銘記すべきであろう。
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