コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

【OPINION】
正念場を迎える財政投融資改革-真に市場原理を活用する枠組みの導入を急げ

2000年06月25日 調査部 河村小百合


財政投融資改革関連法案(正式には「資金運用部資金法等の一部を改正する法律案」、「郵便貯金法等の一部を改正する法律案」)が5月24日の参議院本会議で可決、成立した。これまでの審議会等における検討を土台とする上記の諸法律は、財政投融資制度の市場原理との調和を図り、特殊法人等の改革・効率化を推進するために、(1)郵便貯金・年金積立金の資金運用部に対する全額預託義務を廃止し、金融市場を通じての自主運用に原則的に切り替える一方、(2)特殊法人等の施策に真に必要な資金だけを、(a)財投機関債、(b)政府保証債(政府保証付きの財投機関債の意味)、(c)財投債によって調達する、といった点をその骨格とするものである。これらは、財政投融資の改革を今後進めるうえでの基本理念を掲げ、その大まかな枠組みを形作るものとして、一定の評価を与えることが可能であろう。しかしながら実際には、以下に述べるように、改革を実行に移す際に鍵となるいくつかの重要な点が、法律上明記されておらず、当局の裁量に委ねられる形となっているため、今後、改革自体が骨抜きとなってしまう懸念が払拭し得ない。

1.財投改革関連法の問題点

今回の財政投融資改革関連立法の抱える問題として、以下の点を指摘できよう。

今後改革を進めていくうえで必要な判断を誰が責任をもって行うのか

すなわち、まず第1には、今後の財投改革の焦点となる、いわゆる財投の「出口」の部分について、今後改革を進めていくうえでの様々な重要な判断を誰の責任において行うのかが明らかではないことである。例えば、財投機関である各特殊法人等について、民業補完の原則に照らし合わせたうえで、財投資金ないしは一般会計からの補助金支出といった財政的なコスト負担を伴いつつもなお存続させることが必要であるか、存続させるとしても一段の規模の縮小や合理化を行う必要はないのかといった判断を、誰の責任においてなすのかが今回の立法中には明文上定められていない。このほか、本当に政府保証債の発行を認めるのか、限定的に認めるとしてそれを誰が限定(判断)するのか、といった点についても同様である。宮沢蔵相は、衆議院大蔵委員会における答弁の中で、これらの点を「この法律の実施、運用に当たって、事務当局に基本的に考えておいてもらいたい点」として取りあげたほか、同委員会は、「資金運用部資金法等の一部を改正する法律案」を可決するに際して附帯決議を採択し、これらの点に関して「政府は十分に配慮すべきである」、とした。しかしながら、財投機関である特殊法人との間に諸々の関係のある、大蔵省をはじめとする所管官庁の手に判断を委ねることによって、財投機関の真の意味での改革がスムーズになし得るかは疑問である。

財投機関債や財投債はいかなる位置づけで機能するのか

第2に、いわゆる財投の「中間部分」に関する問題であるが、財投機関債や財投債の、改革の新たな枠組みにおける位置づけが曖昧なことである。財投機関である各特殊法人等が、今後財投機関債を発行するに当たって目標とすべきスケジュールや発行の規模は何ら策定されておらず、国会の審議において大蔵省は、「財投機関債を発行するか否かは、国会の決議事項ではないため、あくまで当該財投機関の判断に委ねる」との考えを示している。加えて、各財投機関が財投機関債を発行して自力で資金を調達するインセンティブは今回の改革においては制度的に何ら用意されておらず、いわば、事実上いつでも財投債による資金調達に頼ることができるような枠組みにとどまっている。今回の改革において、各財投機関の経営を市場の判断に委ねるという趣旨をどれほど活かせるかは、実際に各財投機関が財投機関債によってどれほどの資金を調達できるかにかかっているにもかかわらず、これでは財投機関債による資金調達は実際には進まない公算が大きい。

財投システムを通る資金の流れは本当に変化するのか

第3の点は、いわゆる財投の「入口」部分の問題であるが、改革に伴い、郵貯・年金による預託義務が廃止されたとしても、実際の資金の流れが本当に変わるのかどうか疑問がある。すなわち、99年末には、大蔵・郵政・厚生の3大臣の間で、郵貯・年金の自主運用のあり方に関して、財投の資金繰りを安定化させるべく合意がなされた。これは具体的には、財投改革実施の初年度においては、新規融資のために発行される財投債を、最大2分の1程度まで郵貯・年金で引き受けるほか、2000年度までに実行された各特殊法人への既存貸し付けを継続するための財投債については、郵貯と年金が全額を引き受けるというものである。このうち前者の措置は、2007年度をめどとした経過措置とされているが、今回の決定はそもそも3大臣間の合意というベースにとどまっており、今後市況の変化などを映じ、郵貯・年金による引き受けの比率がさらに引き上げられる可能性も否定できない。仮に、この比率が100%に近づくことになれば、資金の流れの実態は、郵貯・年金の資金運用部への預託が義務づけられていた改革前の状況と事実上あまり変化がないことになる。これでは、財投システムにおける資金調達を、受動的な方式から真に必要な資金のみを調達する能動的な方式に改めようとする改革の趣旨が薄れてしまうだけでなく、財投債そのものにつけられる価格が、本来の市場の評価を適切に表すものとなるかどうかは疑わしく、改革に市場原理を作用させることにはならないおそれがある。

2.財投改革の実効性を高めるための具体的方策

この財政投融資の改革を今後実行に移すうえで、その実効性を真に高めるためには、以下のような方策を実行することが必要である。

その1:財投改革を専管とする独立行政委員会を設立し、各財投機関・特殊法人の予算を国会の議決の対象に

まず何よりも重要なのは、今後の財投改革の具体的な進め方について、中立的な立場からこれを継続的に検討し、場合によっては政治的な意思決定を行う法的な権限を有する機関ないし枠組みを、立法によって確立することである。とりわけ、いわゆる財投の「出口」部分である個々の財投機関を今後いかに改革していくべきかは、今後改革を進めるうえでの最大の焦点であり、この点に関する意思決定を、各省庁の枠組みを超えた統合的かつ中立的な第三者機関に負わせることによって、改革の実効性を高めることが極めて重要である。財投改革に関する今回の2つの立法はいずれも、財投のいわゆる「入口」に関する問題の一部分を規定するにとどまっているが、これとは別に、「財政投融資機関の改革に関する法律(仮称)」といった新規立法を行い、その中で、こうした第三者機関の設立のみならず、財投改革を今後いかに進めていくかという具体的なスケジュール(詳細後述)についても、明確に規定することが必要不可欠であると考えられる。

財投改革に関する政治的な意思決定を行う具体的な枠組みとしては、(1)財投機関および特殊法人の改革を専管とする、独立行政委員会(国家行政組織法第3条に基づくいわゆる「3条委員会」)を設置して、全ての財投機関や特殊法人の活動を常時監視し、各機関の今後のあり方(存続ないし活動規模の維持の必要性)や、前述の問題点の第2点や第3点においても指摘した財投改革の具体的な進め方に関するその他の問題(財投システムのいわゆる「中間」部分や「入口」部分に関する問題)についても、定期的に検討をさせることが一つの有効な方策と考えられる。また、(2)財投機関、および一般会計から何らかの補助金等を支出している特殊法人の全てについて、その予算を国会の議決の対象とし、毎年の予算審議の場において、各機関の将来的な改革の必要性の有無や、財投改革の具体的な進め方に問題がないかについてを、国民の代表である国会が責任を持って判断する、という枠組みを構築することも、今後の改革を実効性のあるものとするためには有効であろう。

その2:貸付金利は「財投債の金利+α」とし、プレミアムを上乗せ

第2に、各財投機関に対して財投機関債を発行させるためのインセンティブを与えるような制度的仕組みを新たにビルトインすべきである。そもそも、財投システム全体の市場原理との調和を図るという今回の改革の趣旨からすれば、国債とは全く異なる目的で発行される財投債は、本来国債とは返済財源の異なる全く別の債券であり、その発行価格のみならず、市場で流通する際の価格についても、国債とは区別した市場の評価を仰ぐべき筋合いのものである。しかしながら、市場参加者の立場からすれば、財投債は国債とは資金の使途や返済の原資が異なるとはいえ、国がその償還債務を負うものである以上、現実問題として、国債と区別して価格をつけることは困難であるという事情も理解できる。そうした文脈から考えれば、現在大蔵省が考えているように、財投債を国債と完全に一体化して発行し、赤字国債と建設国債に関する区別が市場でなされないのと同様に、財投債も一体化させて流通させるという方策も一理はある。

ここで重要な点は、新設される「財政融資資金(改革前の資金運用部に相当)特別会計」が財投債を発行して調達した資金を各財投機関に貸し付ける際に適用する金利水準をいかに設定するかである。国会審議における宮沢蔵相の答弁および大蔵省理財局によれば、現在大蔵省は、改革前の資金運用部が、郵貯等の預託金利をそのまま財投機関に対する貸付金利として適用しているのと同様、改革後も財投債の金利(=国債の金利)を、そのまま財投機関に対する貸付金利として適用する意向である。国債とはそもそも、国が発行するため信用リスクがゼロとみなされ、発行のロットが大きいため流動性リスクもきわめて低いことから、様々な市場金利の中でも最低レベルとなっている。その国債金利を、各財投機関の発行する財投機関債の金利が下回ることは考えられず、市場では国債金利に一定のスプレッドを上乗せする形で取引されることとなろう。そうした状況下で、財投機関債を発行できず財投債に頼らざるを得ない財投機関が、国債と同じ金利で資金調達できる仕組みでは、各機関が積極的に財投機関債を発行するインセンティブは働かず、むしろ財投機関債はなるべく発行しないで済ませようとする逆のインセンティブが作用する結果になってしまう。こうした事態を回避するためには、財政融資資金から各財投機関に対する貸付金利を設定するに当たって、財投債の金利(=国債金利)に一定のプレミアム(α)を上乗せする枠組みを確立し、そのプレミアムの幅(α)は、市場によって最も高い評価を受けている(すなわち、財投機関の中で、最も低い金利で財投機関債を発行して資金を自力で調達している)機関の財投機関債の金利の国債金利との間のスプレッド(β)を上回るように(=α>β)設定すべきである。そうすれば、各財投機関にとっては、財投債に頼るよりも、財投機関債を発行する方が低利で資金が調達できることになるため、積極的に経営を合理化し、経営情報を市場に開示するなどして、極力財投機関債で資金を調達する方向にインセンティブが作用し、結果的に財投改革の実効性が高まるというメリットがあろう。こうした仕組みこそが、真に市場原理を活用した財投機関の効率化であろう。

なお、この、財投債の金利に適用する国債金利への上乗せ幅(α)に段階を設け、(例えばα=0.3、0.5、0.7等)、前述の財投改革に関する第三者機関が各財投機関の経営状況を、明確なルールに基づき判定し、例えば信用力がもっとも高いとみなされる財投機関には、国債金利+0.3%、その次にランクする財投機関には国債金利+0.5%、信用力がもっとも低いとみなされる財投機関には国債金利+0.7%という金利条件で、それぞれ財政融資資金から貸付を受けられることとする、といった仕組みを導入すれば、財投機関に対して経営の効率化を図るさらに強いインセンティブを作用させることができるものと考えられる。

加えて、こうした仕組みに促される形で、財投機関が資金調達手段の主力を財投機関債に移すことになれば、その経営や情報開示次第では、各財投機関は現行制度上よりは低利で資金を調達することができるため、ひいては一般会計から財投機関等に対する補給金等の削減にもつながる、というメリットもあろう。

また、現行制度上は、郵便貯金等が、国債金利を上回る運用益(預託金利<7年以上>は現行上10年国債金利+0.3%程度のレベルに設定)を得ているわけであるが、改革後は運用手段が国債等に限定されるため、郵便貯金等の将来的な業務運営の見直しにもつながる、というメリットもあろう。

ちなみに、貸付金利にこうしたスプレッドを上乗せすることにより、財政融資資金は調達金利である財投債の金利(=国債金利)との間でいわば利ざや(α)を稼げることになるが、その分を同資金内に準備金として積み立て、万一財投機関に対する貸付が回収困難になった際には、一般会計から安易に資金を補給するのではなく、この準備金を取り崩して対応することとし、財投機関の資金融通の問題を財投システム内で完結させるようにすることが望ましいと考えられる。年月が経過すれば、相当な準備金が積み上がることもあり得るが、そうした際には一般会計に余裕金として繰り入れる仕組みを作っておくことも一案であろう。

その3:政府保証債の発行は不要であり認めるべきでない

第3は政府保証債の発行の是非である。以上のように考えると、財投債による資金調達の道が開かれている以上、政府保証債を個別に発行することはそもそも不要な筋合いにあると考えられるし、また、こうした枠組みを有効に機能させるためにも、政府保証債の発行は、従来からこれを発行している財投機関をも含めて、原則として認めるべきではないと言えよう。

その4:改革実施に際しての明確なスケジュールを策定し、財投債による調達はその規模を限定し、期間も短期に

第4には、改革を今後実施するに当たって、各機関が目標とすべき具体的なスケジュール(例えば「新規事業に関する財投債による資金調達の比率は、改革スタート後3年後の時点では80%、5年後の時点では50%、10年後の時点では30%とし、残りの部分は財投機関債により調達することとする」といった内容のもの)を策定し、それを国民の前に明らかにすることである。2001年4月の改革スタートの時点で、全ての財投機関が一斉に財投機関債を発行することは非現実的であろう。しかしながら、スタートの時点では限られた機関のみでもよいから、とりあえず財投機関債の発行を開始し、先行きに関しては、具体的な目標とその期限をスケジュールの形で明確に設定しておくことが必要である。そうでなければ、時間が経過しても、財投機関債の発行、ひいては財投システムの改革はいっこうに進展しないという結果につながりかねない。そうした事態を回避するためにも、第1点目に指摘したような財投改革を専管とする独立の機関を是非とも設置し、その機関にこうした計画の策定をとりまとめる責任を負わせることが必要である。

なお、財投債によって資金を調達する際には、最初から10年物といった長い年限で発行してしまうと、財投機関にとっては目先10年間の資金繰りが確保できてしまい、改革の停滞につながりかねない。そこで、財投債は、上述のようなスケジュールに合わせて、1年物、5年物、といった短めのタームで発行し、その償還期限が来た各時点でスケジュール通りに財投機関債による資金調達に切り替えるようにすべきであろう。

その5:優良機関債をベンチマークとする財投機関債市場を育成

第5に、実際に財投機関債の流通市場を育てるための実務面での工夫が必要である。まず、財投機関債の発行形態をあらかじめいくつかのパターンに統一し(発行年限を例えば5年債と10年債のみに統一するなど)、発行のタイミングを年数回にまとめて、全機関一斉に発行するようにすれば、個々には発行主体が異なる財投機関債の流動性を、全体として高めることが可能となろう。また、発行開始に当たっては、まず第1段階として、自力で財投機関債を発行することが比較的容易な機関による発行額を順次拡大し、国債金利との間である一定のスプレッドを上乗せする形で取引されるようになるであろう、そうした機関の財投機関債の金利が、財投機関債市場全体のベンチマーク(指標)として機能し得るような下地を整備することが必要である。そのうえで、第2段階として、残りの財投機関についても、順次財投機関債の発行を開始するようにすれば、相対的にマイナーな財投機関債についても、ベンチマークとのスプレッドを用いた取引が可能になろう。

今回の財政投融資に関する改革は、中央省庁等の再編が2001年1月に実施されるのを受け、同年4月に実施される運びとなっている。残された時間はあまりない。これだけの改革を一気に実行することは相当の困難を伴うが、だからといって手をこまねいていては、何ら実効的な改革をなし得ないことにもなりかねない。わが国の財政が危機的状況に瀕していることを勘案しても、財政投融資制度の改革が焦眉の急であることは論をまたない。国会および関係当局において、早急に適切な対応がなされることが切に望まれる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ