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Business & Economic Review 2001年11月号

【OPINION】
実効性ある「新産業育成・雇用対策」策定のために

2001年10月25日 調査部 経済研究センター 山田久


1.「非常事態」に直面するわが国経済

わが国の経済情勢は極めて厳しい局面にある。アメリカにおける株価バブルの崩壊・世界的なIT需要の失速を主因とする輸出急減・株価下落により、今年度入り後のわが国経済はすでに後退局面入りが明確化していた。そうした状況下で9月11日発生したアメリカの同時多発テロは、世界同時株安、アメリカ景気の失速、さらには先行き不透明感の増大などを通じて、わが国景気の悪化スピードを一段と加速させる可能性が高まっている。

こうしたもとで、雇用情勢は戦後かつてない厳しさの中にある。今年7月の完全失業率は、現行統計での調査開始以降初めて5%を記録し、8月も同水準での推移となった。先行きを展望すると景気後退の深刻化が予想されるなか、雇用調整圧力は一段と強まる方向にある。すでに、大手電機メーカーを中心に、相次いで大規模な人員削減計画が発表されていることに加え、根強い雇用過剰感の残る建設・流通・サービス分野で雇用が掃き出されていくことは避けられず、失業率の一段の高まりは必至の情勢にある。

こうした情勢下、日銀は世界的な信用収縮の防止に向け、アメリカでのテロ発生の翌日以降、日銀当座預金の残高を6兆円から8兆円超にまで引き上げた後、17日の政策決定会合では、公定歩合の引き下げ(0.25→0.10%)を決めるとともに日銀当座預金残高目標の拡充を確認し、欧米との協調利下げの歩調を合わせた。

一方、政府は20日「総合雇用対策」を決定したほか、当初26日に予定していた「改革工程表」の発表を21日に繰り上げ、「総合雇用対策」の内容を織り込んだ「改革先行プログラム(中間とりまとめ案)」とともに公表した。

2.早計な「何でもあり」政策

アメリカにおける同時多発テロという「非常事態」の発生に際した政府・日銀の対応は、信用収縮という最悪の事態が生じていないという意味で、現在までのところとりあえずは合格点を得ているといえよう。しかし、同時多発テロの発生をきっかけに今後アメリカ経済がリセッション入りし、ひいてはわが国景気の悪化が一段と深刻化していくことが懸念されるだけに、「非常事態」に直面した政府の対応はむしろこれからが本番といえる。今後各種構造調整圧力が一気に噴出してくることは必至といえ、従来型総需要管理政策がもはや限界に達するもとで、いかにして経済・金融パニックを回避するかという難題に直面しているのである。

そうしたなか、早晩編成が予定されている補正予算に関し、従来型公共投資の大幅積み増しを含め、構造改革棚上げで景気優先の大型補正を主張する向きもある。確かに景気の後退スピードはすでに1998年の経済危機時に匹敵しており、今後それを上回る可能性もある。しかし、景気後退の内容をみる限り、もう少し冷静な受け止め方が必要とされる。前回は経済全体の収縮がみられ、とりわけ個人消費の落ち込みが景気後退を深刻化させた。一方、今回はアメリカの景気悪化に伴う半導体を中心とした輸出関連分野の大幅な悪化が主因である。4~6月期QE に示されたように、今回は個人消費が比較的健闘しており、確かに今後アメリカの同時テロによる悪影響を注視する必要はあるものの、現時点で直ちに構造改革路線を中断し「何でもあり政策」を実施するほど、経済・金融がパニック状態に陥っているわけではない。

しかも、公共投資の減少トレンドの中で通常程度の予算規模での公共事業の積み増しは実現困難であり、あえて巨額の対策を講じれば長期金利上昇をもたらすことは不可避である。むしろ構造改革路線の後退と捉えられ株価が暴落する恐れすらある。また、デフレ払拭に向けて日銀に量的緩和の拡充やインフレ・ターゲティングの導入を期待する向きもあるが、国内の高コスト体質の是正に向けたグローバルな調整圧力がデフレの真因であり、それは金融政策には解決できない問題である。むしろ、日銀のなし崩し的な量的緩和策の拡大は、実際にデフレが解消する可能性は小さいとはいえ、市場におけるインフレ期待を生むことで長期金利の急上昇を招く恐れがある。日銀が行うべきは、万が一金融システム不安が再燃したときに、システミック・リスクを柔軟果敢に抑えこむ施策を迅速に講じることである。

3.マイナス成長を甘受して構造改革を進めよ

つまり、景気情勢が極めて厳しいとはいえ従来型総需要管理政策の効果は限界に達しており、大幅なマイナス成長すら甘受せざるを得ない現実を直視すべきである。だからこそ、これまでの枠を超えた強力な雇用のセーフティーネットを構築する必要がある。逆に言えば、雇用対策はそうした厳しい認識を前提とした万全のものでなければならない。加えて、新産業育成策を真に実効性ある形で実施していくことによって、短期的には直接的な景気浮揚効果は小さくとも、新しい市場創造の展望が開けてくれば、企業が市場参入のための投資活動を徐々に積極化していくであろう。

このようにみれば、構造改革の力強い着実な推進こそが最大の景気対策といえる。万全の雇用対策と新規産業育成につながる説得力ある政策パッケージが示されれば、個人消費の底割れを防ぐ効果を期待できるほか、企業の投資マインドの下支えにも寄与する。また、マーケットに構造改革推進の力強いメッセージが伝われば、株価上昇要因にもなろう。昨年度補正予算の執行ずれ込みがあるにもかかわらず、公共投資が4~6月期にすでにマイナス基調に転化したことは、従来型の公共事業積み増しなどによる直接的景気浮揚効果は極めて限定的であることを示唆している。今後打つべき経済対策の効果は、有効需要の追加のために新産業創造につながるような政府支出を極力前倒しで行う必要があるとはいえ、それによる直接的な景気刺激効果よりも、将来への展望を開くことで企業マインドや投資家マインドを改善させ、前向きの行動を誘発することに求めるべきであろう。

ここで強調すべきは、2002年度国債発行を30兆円に抑えるとの「公約」についてはその実質的な意味合いこそ順守すべきで、形式に囚われ無用の政治闘争の具にするべきではないということである。実質的な意味合いとは、非効率的な歳出をカットするということであり、その意味ですでに策定した2002年度予算編成のフレーム・ワークは踏襲すべきではあるが、新産業育成策に必要な経費は前倒しで積み上げるべきであろう。すなわち、有望とされる介護・健康、保育・教育、IT、環境などの分野について、既得権の枠を超え官民の英知を結集して総合的政策スキームを策定したうえで、その実行に必要な予算を出来得る限り積み上げるべきである。その結果、税収下ブレ要因も含め2001~2002年度の国債発行額が30兆円を大幅に上回るとしても、政治責任を問うべきではない。

財政再建に関しては中期的な方針の一貫性こそが重要であり、「単年度の目標は歳出抑制を目的に設定し景気実態に応じたブレを許容する一方、2010 年度までにプライマリー・バランスを均衡化させる」といった、中期的には一貫性を持ちつつも、短期的には目標達成のスピード調整を可能にする政策目標を設定すべきであろう。

もちろん、こうした新産業育成・雇用対策の策定は構造改革プロセス継続に向けた必要条件の一つに過ぎない。アメリカ景気回復の展望が依然開けないという厳しい環境下、株価を維持していくためには、構造改革の取り組みを日々具体化し、改革継続のメッセージを国民およびマーケットに発信しつづけることが不可欠である。そのために残されている課題はいくつもある。具体的には、すでに議論がはじまっている不良債権処理に関し現実的なスキームを纏め上げることを皮切りに、
(1)特殊法人改革の断行、(2)資本市場育成の具体化、(3)社会保障改革の全体像の提示、(4)財政再建のシナリオ―などをいち早く具体化し、その着実な進展を国民およびマーケットに発信し続ける必要があろう。

4.政府の「総合雇用対策」「改革先行プログラム」の評価

では、最優先課題である新産業育成策・雇用対策は具体的にはどのようなものであるべきか。まずは、これまでに発表された政府の政策の評価から行う必要があろう。先述した通り、雇用政策については、政府はすでに「総合雇用対策」を策定し、これを「改革先行プログラム」の目玉として推進する方針である。そこでは、雇用の受け皿整備・ミスマッチの解消・セーフティーネットの整備を三つの柱とし、それぞれに様々な施策が盛り込まれており、数カ月前に比べ大きな進歩がみられる。また、新産業育成についても、「経済を活性化し、新産業・チャレンジャー、雇用を生み出す制度改革・環境整備」として、「改革先行プログラム(中間とりまとめ案)」の1番目の柱に位置付けられている。

しかし、構造改革の断行には、(1)既得権の枠を超えた実効性のある具体的なスキームの策定と、(2)計画倒れにならない強力な推進主体の存在―という二つの要素が不可欠である。そうした観点からすれば、今回の「総合雇用対策」や「改革先行プログラム(中間とりまとめ案)」は依然項目列挙の段階にとどまっている感が否めない。とりわけ、喫緊の課題である雇用対策については、以下のような問題点を指摘することができる。

第1に、様々な項目が列挙されてはいるが、統一的な考え方に基づいた個々の政策メニュー間の有機的な関連性がみえてこない。例えば、職業訓練の強化とともに失業保険の拡充を行うことは極めて重要な施策の一つであり、「改革先行プログラム」では、民間教育訓練機関への委託訓練の実施など職業能力開発の拡充をうたうと同時に、教育訓練つき失業給付延長制度の拡充が盛りこまれている。しかし、そもそも職業訓練は具体的な受け皿産業への再就職可能性を担保にしたものでないと意味は無い。例えば、製造基盤が縮小するもとで、従来型の発想で公共職業訓練校に旋盤工の育成コースをいくら拡充したとしても、再就職率向上は難しいであろう。また、公的サービス部門の補助職員の雇用拡充策が盛られているが、行政改革や新産業育成策との整合性が明確にされていない。その点の議論の深入りを回避すべく、99 年に創設された「緊急地域雇用特別給付金」を拡充し、臨時雇用を増やす方向のようであるが、中途半端な政策であるといわざるを得ない。厳しい雇用情勢の長期化が予想されるなか、臨時雇用期限終了後の再失業が懸念され、それを救済するために臨時雇用をなし崩し的に延長するならば、かつての「失業対策事業」の轍を踏むことにもなりかねない。

第2に、個々の離職者が必要とする、木目の細かい個別具体的な施策が打ち出されるかどうかが疑問である。前職や年齢により、可能性の高い再就職先は大きく異なる。例えば、建設現場労働者はドライバーへの再就職率は比較的高いが、IT技術者に再就職することは相当困難を伴うであろう。こうした個別の事情を無視し、受講者の経験や年齢に応じたプログラムを用意することなく、例えば単に短期間のIT研修講座をいくら拡充しても、現実味のある職業訓練策としての効果は極めて疑問である。

第3に、真に労働者サイドに立った有効な具体策を纏め上げる組織が存在しないことである。現政権の弱点は、与党・官僚の協力を必ずしも十分に取り付けられておらず、総論で望ましい方針が示されても具体的な各論では改革が進まない状況にある。例えば、建設業の雇用対策について、経済産業、国土交通、厚生労働の3省合同のプロジェクトチームが設置され、9月19日に対応策についての提言が発表されたが、基本的には従来からある施策の拡充にとどまっており、そもそも職業紹介や教育訓練に関して既存の枠を超えた官民連携の新システムの構築といった、省庁の枠にとらわれない思い切った施策を期待することは難しいと言えよう。

一方、新産業育成策についても、すでにみたように重要政策として位置付けていることは評価できる。新産業育成こそが構造改革推進のための要諦であり、雇用安定のためにも受け皿となる産業育成が不可欠であるからだ。しかし、これまでの経済対策にも必ずといってよいほど「新産業育成」の文言が載せられてきたが、目にみえる成果が上がっているとはいいがたい。今回、医療・福祉・保育・教育など今後雇用の受け皿となるような分野に重点を置いたことは評価できようが、供給者間の秩序安定よりも消費者ニーズの向上を優先した思い切った制度改革をはじめとする、施設整備や税制も含めた総合的かつ立体的な育成スキームが提示されているとは言えず、残念ながらこれまで同様その実効性は疑問であるといわざるを得ない。

5.有効な新産業育成・雇用政策の策定のための四つの提言

以上のような問題点を解消し、有効性のある新産業育成・雇用政策を策定するためには、今後政策の具体化にあたって以下の4点を踏まえることが不可欠である。

第1は、新産業育成に向けた説得力ある包括的な個別具体策の提示である。雇用再生の前提ともなる新産業育成を考える際、あくまで新産業創造の源は民間の自由な活動であり、政府の役割はその基盤整備を行うことである点を銘記したうえで、次の三つの点を分けて考える必要がある。それは、(1)成長のエンジンとしての新産業育成策、(2)雇用の受け皿としての新産業育成策、(3)自営業を含めた起業支援策、の3点である。(1)はIT 、バイオ、ナノテクノロジーなどの技術集約分野において、イノベーションをどう起こしていくかという問題であり、経済全体の成長力を上げることがその目的である。なお、雇用対策としては、経済成長率を全般的に底上げすることで間接的に雇用創出を図るという効果となる。これについては、短期的な効果を期待するよりも、長期的な視野に立って、研究投資の積極化・産学共同の連携・知的所有権の保護などの施策を着実に積み上げていくほかない。

一方、(2)については、労働集約的で雇用吸収力のある産業を戦略的に育成することが求められる。具体的には、アメリカの例をみる限り、医療・健康・介護、教育・保育産業が有望であり、これらの多くは政府の530 万人創出策で挙げられた分野でもある。これら分野の持続的成長を実現するには、まずはそれぞれの分野につき、国民が必要とするサービスの質向上を促すような産業のフレーム・ワークを提示することが出発点となる。その際、a)供給主体の新規参入促進、b)施設整備の促進、c)サービスの質の評価システム構築が柱となるが、これを迅速に実現するために、規制改革・社会資本整備・税制改革を有機的に組み合わせた総合育成プログラムを、供給者間の秩序維持よりもあくまで消費者の利便性向上をメルクマールとして、個別産業ごとに策定することが急がれる。

こうした観点から公共サービス分野における直接雇用の問題についてみれば、公共サービスの質向上を図るのに効率的な官民分担のあり方をまず考え、それを前提に官が担うべき分野について公務員増強か民間委託・PFI 方式かを考える必要がある。そもそも失業対策として公務員拡充を考えるのは目的と手段が倒錯していると言わざるを得ない。従って、小中学校職員、警察官を一定人員増員することは一つの考え方であるが、公共性の高い専門的職業である以上、求められる資質審査がまずもって必要であり、緊急的・一時的な中高年失業対策というよりも、教員免許数・警官採用数の拡充という通常の採用枠拡大を行うのが筋である。

(3)については、ベンチャー育成支援も重要であるが、雇用対策の観点からはホワイトカラー業務分野における独立型自営業の育成を図るべきである。アメリカでは、インディペンデント・コントラクターとよばれる独立契約型の自営業者が、情報システム事業、間接部門のアウトソーシング事業や金融コンサルティング分野で多く存在し、80年代後半から90年代初めのホワイトカラー・リセッション時の雇用の受け皿として大きな役割を果たした。こうした新しい就業形態を増やすには、(1)業務委託契約における適正ルールの策定、(2)企業年金と国民年金基金の通算制度の整備、(3)ホワイトカラー分野の業務標準化を促す業界団体など民間主導の職業資格制度(日本版NVQ 、後述)の整備などが急がれよう。

第2に、官民共同のジョブ・データベースの構築と、それを活用した再就職困難者に対する離職者のタイプ別の木目細かい「再就職促進プログラム」の策定、及び、官民連携の「ワンストップ・サービス」の提供である。失業対策の第1 ステップとしては、可能な限り短期間のうちに再就職を促進することが肝要である。そのためには、あくまで人材ビジネスの規制緩和を徹底し民間の創意工夫に任せることが原則であるが、人材ビジネスが発展途上である現状では、建設現場労働者などブルーカラーや中高年ホワイトカラー、未熟練若年層など、就職困難者に対する再就職支援を効率的に行うには、民間の力を極力活用しながら政府が基盤造りを行う必要がある。具体的には官民が互いに持つ情報とノウハウを有機的に結びつけることが可能となるように、官民共同のジョブ・データベースを構築することが出発点となる。
そのうえで、再就職困難者に対する効率的な再就職支援を行うために、まずは前職や年齢により離職者を細かくタイプ分けし、過去の再就職データをもとに個別の再就職支援プログラムを作成する必要がある。より具体的には、共同ジョブ・データベースのデータ分析を基礎に、経営者団体・労働組合・地方公共団体・人材ビジネス会社が知恵やノウハウを出し合い、プロファイリングに基づく木目細かな再就職促進プログラムを策定する。さらに、その再就職促進プログラムとジョブ・データベースをもとに、積極的に民間へ業務委託を行いながら、、カウンセリング-再就職支援-生活費支援-職業訓練紹介などのサービスを全て一カ所でまとめて受けることの出来る、官民連携の「ワンストップ・サービス」を提供する必要がある。

ここで生活支援策としては、養育費・住居費に対する支援も含めることが必要である。再就職に際し、正社員にこだわらず派遣労働・契約社員まで間口を広げるならば可能性は大きく広がる。しかし、それが現実に受け入れられるためには、とくに中高年層の場合、一家の大黒柱が低賃金でも家計を支えるよう基礎的生活費用に対する公的支援が必要である。低賃金雇用にしか就業できない場合、その子女への養育費の給付や住宅ローン利子の補助などを、モラルハザードを回避するよう厳格な年収・資産要件などを設定したうえで実施することが求められよう。

第3に、新産業育成策-職業訓練策-生活支援策と連携した「職業再教育プログラム」の策定である。失業対策の第2 ステップとして、前項の「再就職促進プログラム」に基づいた再就職を実現するに際し、新しいスキルの習得が求められる場合、具体的な受け皿産業への再就職可能性を担保にした職業訓練プログラムが提供される必要がある。その意味で、官民共同のジョブ・データベースを活用して分野別の未充足求人数を把握するとともに、介護・健康、保育・教育など「受け皿」産業育成に向けた規制改革・社会資本整備など総合的な政策を進めることを前提に、個別分野ごとに実務能力と直結した職業資格制度を整備し、再就職の可能性を担保することが求められる。職業資格制度の整備については、既存の公的資格について、有効期限を導入することや実務研修を義務付けることで、最新の実務知識が更新できるよう改良するとともに、現在職業資格のない職務に関しても、特に各種営業職や専門職など人材不足の分野について、イギリスのNVQ 制度を参考にして、OJT 的要素の濃い職務能力認定資格である「日本版NVQ 」を、業界団体など民間主導で新しく創設していくことが求められる。

そのうえで、こうした現場での実務研修を要件とする職業資格を与える教育・訓練プログラムの運営を、「日本版コミュニティーカレッジ制度」として公共職業訓練校のみならず大学・専門学校など民間教育機関、さらには一般企業にも積極的に開放することが求められる。「日本版コミュニティーカレッジ制度」の設置にあたっては、(1)インターンシップなど現場での実務研修を盛り込むこと、(2)周辺地域のマーケティング調査に基づくニーズに合ったプログラムを作成すること、(3)制度運営の企画係である「職業訓練プロデユーサー」に本場アメリカでの経験者や有能な人材コンサルタントを就任させることなど設置基準を明示することで、クオリティー・コントロールと官民イコール・フッティングによる競争原理が働くようにしたうえで、雇用保険会計ないしは一般会計から助成を行うべきである。失業者の職業訓練期間中の生活支援策についても拡充が必要である。具体的には、失業者が「日本版コミュニティーカレッジ制度」を活用した職業再教育を受ける場合、雇用保険加入者の場合は訓練延長給付制度を適用すべきであるが、別途「特別訓練給付金制度」を創設し、建設日雇い労働者や自営業者などの雇用保険未加入者でも、制度乱用の可能性に十分配慮しつつ再就職の意志と再教育の必要性が確認できれば、訓練期間中給付金を支給すべきであろう。また、訓練延長給付の期間については、現行上限(2年)にこだわらず、個別の訓練期間に必要なだけ支給すべきである。

第4に、民間人を中心とする実務部隊からなる首相直属の「改革プロジェクト策定チーム」の設置である。総論としては望ましい議論が出てきても、具体的スキーム作成の作業部隊が既存官僚組織に任されるのであれば、省庁の枠を超えた真に有効なスキームの策定は困難である。したがって、強力な推進主体として、専門知識を有する若手研究者や折衝能力の高い民間企業からの出向者、革新派官僚で構成される実務部隊からなる首相直属の「改革プロジェクト策定チーム」を、医療・介護サービス育成策、保育・教育サービス育成策、IT政策、雇用政策などの個別分野ごとに設置することを提案したい。この「チーム」が経済財政諮問会議の方針に従い、省庁の枠を超えて真に国民サイドに立った個別産業の育成策や雇用対策案などの具体的な政策メニューを策定し、議論をオープンにする形で担当官庁や業界団体と折衝し、最終案に纏め上げるというプロセスを導入してみてはどうか。さらに、「改革プロジェクト策定チーム」は既存の施策の政策評価を行う必要がある。例えば、雇用政策では効果が疑問な雇い入れ助成金が乱立する状況にあり適切な政策評価による無駄な政策の排除が実効性ある政策立案の第一歩となる。

なお、経済・雇用の再生には時間がかかることを勘案すれば、有効な新規産業育成・雇用対策の具体的内容は今後5年間の中期計画として策定する必要がある。そのうえで、今後編成作業が具体化していく2001年度補正予算には、ここで指摘した四つの「新産業育成・雇用政策」にかかる初期費用や即効性ある施策を出来る限り積み上げ、その実施に必要な経費に限定して計上すべきであろう。
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