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RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年10月Vol.4 No.15

中国の為替制度変更と資本取引自由化の展望

2004年10月01日 環太平洋研究センター 清水聡


要旨
  1. 人民元は割安であると主張されることが多い。通貨の適正水準に関して決定的な理論はなく、どの方法によって推計しても誤差を伴うため、結論を出すことは容易ではないが、高成長によって実質為替レートが増価しているとすれば、物価の上昇が起きるはずである。中国の消費者物価上昇率の推移をみる限り、人民元が適正水準から大きく乖離しているとは考えにくい。

  2. 国際収支をみると、外貨が大幅な供給超過となり外貨準備が急速に増加しているが、その主な要因は資本取引規制にある。資本流出を抑制する一方で資本流入を促進する政策がとられてきたために、経常収支に加えて資本収支もプラスで推移している。また、2002年以降、誤差脱漏がプラスに転換しているが、これは主に通貨の切り上げ期待に基づく投機的な資本流入によると考えられる。

  3. 固定資産投資の急増による経済の過熱が懸念されており、これには外貨準備の蓄積に伴うマネーサプライの増加が影響しているとの見方がある。この見方はある程度正しいと思われるが、最近のマネーサプライの増加をもたらしている主因は銀行貸し出しの増加である。人民元の切り上げは経済の過熱を抑える手段としては最終的なものであり、それが発動される可能性は小さいであろう。

  4. 当面の課題は、投機的な資本流入を抑制するとともに外貨需給バランスの改善を図ることである。そのためには、a.違法な資本流入に対する規制や取り締まりを強化すること、b.貿易自由化を一段と推進して貿易黒字を削減すること、c.資本流出規制を慎重に緩和することなどが求められる。

  5. 長期的には、資本取引の自由化に向かうことは不可避であり、その前提として為替レートを変動させることが必要である。その方法としては、対ドルレート変動幅の拡大が適切であると考えられる。しかし、これを実施するには、外国為替市場や短期金融市場の整備を進め、為替リスクのヘッジ手段を確立することが前提となる。これには、少なくとも1~2年の準備期間を置くべきであろう。

  6. 対ドルレート変動幅の拡大とともに、金利の自由化を進めて金融政策をより有効なものとすることや、銀行部門をはじめとする金融システムの整備を推進することなどが求められる。これにはかなりの時間がかかると考えられ、対ドルレート変動幅の拡大も漸進的、段階的に行わざるを得ないであろう。すなわち、対ドルレート変動幅の拡大と資本取引の自由化は、並行して段階的に進められることになる。ただし、中国の世界経済との結びつきは急速に強まっており、時間的な余裕はあまりないとみられる。ある程度のスピード感を持って資本取引の自由化を進めるべきであろう。

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