要約
- 通貨危機以降、アジア地域において域内金融協力が進展している。その内容としては、a.政策対話と相互監視の強化、b.各国および域内の金融市場や金融機関の整備、c.緊急時の流動性支援体制の整備、d.為替制度の見直しおよび域内政策協調に向けた検討などがあげられる。域内金融協力の目的は、通貨危機の再発を防止すると同時に、地域の金融システムを強化し、力強い経済成長を実現することにある。
- 一方、アジア地域を取り巻く国際資本フローは、通貨危機を経て大きく変化している。通貨危機により資本が急激に流出し、国内投資が大幅に減少した。その結果、多くの国で投資率が貯蓄率を下回り、その状況は現在まで続いている。また、通貨危機以前には赤字であった経常収支が黒字に転換し、同時に外貨準備の蓄積が進んでいる。
- これらの変化に対して、域内金融協力の推進が大きな効果をもたらすと考えられる。今後、アジア諸国が高い経済成長を実現するためには、投資率の改善や生産性の上昇が必要であるが、そのための対策の一つとして金融システムの改善が有効である。また、直接投資を中心とする海外からの資本流入を効率的に利用する必要があるが、そのためにも国内金融システムの整備が求められる。これらの努力によって国内需要を喚起することができれば、アメリカの経常収支赤字などの世界的な不均衡を改善することにも効果があると考えられる。
- 急増する外貨準備については適切な運用が求められるが、2003年に設立されたアジア債券ファンドは、そのための努力の一環として評価できる。また、緊急時の流動性支援制度を充実させ、代替的な危機対策を強化することが、外貨準備を蓄積する必要性を減少させよう。さらに、各国の為替制度の再検討も喫緊の課題となっている。
- アジアにおける金融面の地域統合の現状や意義についてはいろいろな議論があるが、域内の金融市場や金融機関を強化することにより、地域統合が進展すると思われる。そのことが金融面の不安定性、ひいては通貨危機再発の可能性を軽減させると同時に、各国の力強い経済成長を促進するものと期待される。各国および地域の債券市場の整備は、そのための重要な課題であるといえよう。
- 先進国の金融市場や金融機関との競争の中で、域内の金融システムを強化することは容易ではない。したがって、域内金融協力の推進はアジア諸国にとって極めて重要な課題である。政策担当者は、金融システムの将来像に関する明確なビジョンを持たなければならない。実際に金融システムを構成する民間の市場参加者の積極的な参加を促すことも重要である。どのような組織による対応が適切であるかについても、検討する必要があろう。