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RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年1月 Vol.4 No.12

アジア諸国の為替制度と域内政策協調への展望

2004年01月01日 環太平洋研究センター 清水聡


要約

  1. アジア通貨危機以前において、アジア諸国の為替制度は厳密には異なっていたものの、多くの国で事実上のドル・ペッグ制が採用されており、それが通貨危機の原因の一つになったとされる。アジア諸国通貨の対ドルレートが安定していたために、円安の進行によって実質実効レートが上昇し、各国で輸出が急減した。また、為替リスクの認識が不十分となり、海外からのドル建て借り入れが急増した。そのことがいわゆるダブル・ミスマッチをもたらし、通貨危機の影響を深刻なものとしたのである。

  2. そのため、通貨危機以降、アジア諸国にとって望ましい為替制度に関する議論が盛んに行われ、様々な提案がなされた。その多くは、通貨バスケット制などの中間的な制度を提案している。途上国では、一般に為替レートの安定が重視されるため、自由変動相場制の採用は必ずしも適当ではないと考えられる。ただし、中間的な制度は通貨危機に対して脆弱であり、長期的に存続することは不可能であるとする二極化論の主張にも、留意する必要がある。

  3. 通貨危機以降、韓国、タイ、インドネシア、フィリピンの4カ国はいずれも変動相場制に移行した。しかし、為替レートの推移などの分析から、各国において為替レートの安定が重視されていることがわかる。各国の為替政策の目的として、a.短期的なボラティリティの抑制、b.為替レートの上昇の抑制、c.外貨準備の蓄積などがあげられる。さらに、韓国とタイでは、対ドルレートに加えて対円レートの安定が重視されるようになっているものと考えられる。

  4. アジア諸国が中間的な為替制度を採用することは望ましいと考えられるが、現状の為替政策運営において深刻な問題が生じているわけではないことから、明示的な通貨バスケット制を採用する政策判断は容易ではないと思われる。また、現行の変動相場制の下でも、事実上の通貨バスケット制を実施することは可能である。

  5. アジア諸国においては、域内貿易比率が高まるなど、経済の相互依存が深化しつつある。今後、経済統合に向けた動きが進むことを前提とすれば、長期目標としての通貨統合を含む為替政策の協調の在り方を検討することが必須となろう。

  6. 以上の状況を勘案すると、当面は、最適な為替制度に関する研究をさらに深めることや、為替政策に関する各国間の協力強化などが必要である。また、アジア地域における為替政策の協調の必要性に関する議論を深め、政治的な合意形成に努めるとともに、具体的なプランを作ることが求められる。地域金融協力において進められている、域内諸国間の信用供与やマクロ経済政策のサーベイランスのための制度作りは、為替政策の協調を進めていくうえでも不可欠である。
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