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RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年4月Vol.3 No.9

資本取引の自由化に向かう中国の課題

2003年04月01日 清水聡


要約

  1. 中国は、1996年のIMF8条国への移行により経常取引の自由化を達成したが、資本取引の自由化は現在でも部分的にしか行われていない。これまでのところ資本取引規制は有効に機能し、中国はアジア通貨危機の波及を回避することが出来た。しかし一方で、マクロ経済政策や国内金融部門の整備が遅れたともいえる。また、経常取引が自由化されたことによって資本取引規制の有効性が低下しており、そのことは通貨危機以降の資本逃避の増加などに現われている。さらに、WTO加盟に伴う金融サービスの対外開放も始まり、資本取引の自由化への圧力が強まっている。中国にとって、資本取引の自由化は目前に迫った課題となっている。

  2. しかし、資本取引の自由化はリスクが大きく、慎重に行う必要がある。中国の国際収支や外貨準備の状況をみると、短期的には通貨危機が発生する可能性は低いものの、中期的にはそのリスクが高まる。したがって、資本取引の自由化の前提条件となるマクロ経済政策や国内金融部門の整備を行い、自由化のリスクを最小化するとともに、メリットを最大化しなければならない。

  3. マクロ経済政策については、為替レートや金利が市場の需給を反映して変動することが資本取引の自由化の前提条件となる。これを実現するためには、人民元の変動幅の拡大、間接的な金融政策手段の強化、預金・貸出金利の段階的な自由化が必要である。

  4. 株式市場の整備は国有企業改革と密接な関係をもって行われているが、非流通株(国家株および法人株)の比率が低下しておらず、上場企業のガバナンスが改善しているとはいいがたい。情報開示の改善等によるガバナンスの強化、市場インフラの整備、投資家層の拡大、非国有企業の上場による発行者の多様化などが求められる。

  5. 銀行部門においては4大国有銀行が依然として大きな存在であり、融資の大半が国有企業に向けられていることが不良債権問題を深刻化させている。国有企業改革を推進して不良債権処理を加速するとともに、国有銀行の資本強化、経営合理化、内部リスク管理強化などを進めることが必要である。また、政策金融の削減や銀行規制・監督体制の整備により、新規の不良債権の発生を防ぐことが重要である。

  6. これらの前提条件の整備にはかなりの時間がかかると考えられ、資本取引の自由化は漸進的、段階的に進めざるを得ない。ただし、一定のスピード感が必要であり、前提条件の整備と自由化の検討を同時に行うことが望ましい。資本取引のなかでは、非居住者の対内証券投資や居住者の対外証券投資の自由化が先行することとなろう。一方、非居住者との資金貸借取引の自由化は、前提条件が整備された後に行うべきであろう。
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