要約
- 2002年11月に開催された第16回共産党大会の政治報告において、所得格差の問題が中国の政治・経済における最重要課題の一つであり、全体の所得を増やしていくなかで解決を図っていくという強い決意が述べられている。
同時に、この決意が政治報告に明記され、党大会で承認されたことにより、共産党は将来にわたり、所得格差の問題解決を人々に公約したことになる。この公約が実現されなかった場合、共産党の「執政党(政権政党)」としての地位が揺らぐ可能性も出てこよう。
暴動や騒擾といった社会不安が多発するような事態に陥れば、経済は停滞し、中国経済が目標としている7%台の成長を維持することは困難となろう。 - 1980~2001年までの各省の1人当たりGDPをもとに算出したジニ係数をみると、地域間の所得格差が90年代以降拡大に転じ、最近では一段と拡大している。
中国全体の1人当たりGDPは依然として低水準であることや、所得の再分配機能が十分でない点などから、格差が縮小に転じることは当面期待できそうにない。
地域間の所得格差を拡大させたものとして、改革の重点領域や外資優遇策などの政策的要因が考えられる。80年代半ば以降、改革の重点は農村から都市へ移行した。
また、外資優遇策は沿海部で優先的に実施された。こうした要因により、沿海部と内陸部の所得格差は拡大したといえる。 - 都市-農村間の所得格差も98年以降拡大基調で推移している。
これは、都市部において高所得を獲得できる機会が増加した半面、農村部では所得の低迷が続いていることによる。
農村部の所得低迷の原因としては、社会保障制度の不備や住民に対する過重負担などが挙げられる。
農村部が抱えるこうした問題を解決しなければ、都市-農村間の所得格差の是正は期待できない。 - 都市内部の所得格差の拡大については、97年以降本格化した国有企業改革との関係が重要である。
例えば、業績に応じた賃金体系への移行は所得格差を拡大させる要因となった。
加えて、失業者あるいは一時帰休者に対する手当が十分でないことや、国有資産の私的流用などの不正な手段による所得の増加も、格差拡大を助長したと考えられる。
また、個人所得税制度の不備も都市内部における所得格差の拡大につながった。 - 所得格差の拡大について、政権内部でも問題視され、是正策が一部実施されるようになった点は評価できよう。しかし、取り組みが最も早かった内陸部の振興策に限っても、漸進的な進展を余儀なくされている。
国家財政赤字が拡大し財政的な余裕がないことなどから、税制優遇策で外資系をはじめとする企業を内陸部に誘致することには限界がある。
そのため、短期間での内陸部の振興は期待 しにくい。
さらに、政策間の整合性が取れておらず、税制改革が特定の脱税事案の摘発にとどまっている状況等から、短期間での所得格差の是正は困難とみられる。
貧富の格差を助長し、貧困からの脱却の妨げとなっている財政・税制上の不備を早急に取り除く一方、内陸部や農村における所得拡大策を着実に実施していく必要がある。