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Business & Economic Review 2001年03月号

【論文】
地方主権時代における行政システム改革のあり方

2001年02月25日 調査部 高坂晶子


要約

近年、自治体経営の見直しを求める声が高まっているが、現在行われているのは、総務省(旧自治省)主導による従来型の「地方行革」であり、自治体独自の取り組み事例は少ない。地方分権に伴う制度変更や、効率性と成果を重視する行政経営の新潮流に対応し、自治体は自律的に改革に着手し、新たな地域経営システムを確立する必要がある。

現在の「地方行革」の原型は、1981年以来の臨調路線に求められ、その後、地方分権推進委員会等での議論を経て現在に至っている。その主な特徴は、(1)実質的な政策立案は政府が行い、地方はその指示を実行に移すにとどまる、(2)財政再建を最優先するため、改革の重点を行政の効率化に置き、地方の自立や住民参加等、地方自治的側面への配慮が薄い、(3)従来の事業・組織の範囲内で行政サービスの水準や人件費を抑制する、いわゆる「リストラ型」の行革にとどまり、組織原理や事業の執行体制などの抜本的な改革は回避する、である。

現在、地方自治体は社会環境や制度面で大きな変化に直面しており、今後は自己決定、自己責任の下、地域の独自性を追求した行き方が求められる。従来の「地方行革」では、そのような地域経営への移行は困難であり、新たな改革モデルが必要である。80年代以降、行政改革を進めた欧米から生まれたNPM(New Public Management)理論は、過去の経験を織り込んで実現可能性を高めた内容であり、わが国自治体にとっても参考となる。

今後、自治体は改革のゴールとなる地域経営体制のグランドデザインを描いたうえで、改革の手順や優先分野、スケジュール等を決定することが望ましい。部分的な「リストラ」で事足れりとした過去の反省を踏まえ、全体の制度設計を踏まえつつ、改革に着手する必要がある。本稿で提案するグランドデザイン=「地域経営システム」のイメージは、地方自治の本旨に基づき、「住民自治」と「団体自治」の同時達成を図るものである。具体的には、NPMのマネジメント・サイクルと、住民による統制サイクルを地域経営の原動力とし、自治体が、政策決定・事業執行を行う際の準拠枠組みとなる。

地域経営改革の先進事例をみるため、宮城、三重、東京の3自治体を取り上げ、ケ-ススタディを行った。宮城県は、地域経営システムのインフラにあたる情報公開の撤底に取り組み、職員に外部から「見られている」意識を植え付けることで、行政組織内部の改革を進めており、今後は政策形成に情報公開の成果をいかに活かすかが課題である。三重県は事務事業評価をはじめとする一連の行政システム改革によって職員意識の刷新に成功し、今後は県政に対する住民参加に取り組む方向である。東京都は、知事の強力なリーダシップの下、大胆な方向性の提示と迅速な意思決定を実現しているが、地方自治本来の観点からは問題が残る。

3自治体のケースから、改革のアプローチは多様であること、わが国の地域経営改革は緒についたばかりで、部分的な成果にとどまっていることがわかる。今後、地域経営改革に取り組む自治体への示唆としては、(1)組織文化の刷新や職員の意識改革には相当の時間がかかるが、在任期間が予め明確な自治体の首長は、その任に適している。ただし、首長のリーダーシップにのみ依拠する改革は脆弱であり、改革の成果を蓄積したり、改革が自動的に継続可能な仕組みを導入することが必要である。(2)改革の定着には、情報公開や事業評価など、個々の取り組みの意味や改革に与える効果を明確にし、粘り強く訴えて関係者の意識に定着させる必要がある、の2点が重要である。

わが国では、80年代初め以来、国、地方を問わず行政改革の必要性が叫ばれてきた。その結果、公企業の民営化等、一定の成果はあるものの、現状を顧みると、その歩みは極めて遅い。今後、改革を加速し、時代の変化に合った行政を実現するために、地方自治体の改革を突破口とすることが期待される。改革に取り組む先進自治体、およびこれに倣う後続自治体を支援するため、経験の共有化を容易とする分析とデータベース化、知見の導入支援などを組織的に進めることが急務である。
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