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Business & Economic Review 2002年12月号

【OPINION】
地方自治体は地域住民と対話し、総合的な財源調達を

2002年11月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 高坂晶子


始動する地方財政改革

2002年8月、第154次通常国会終了後の会見において、小泉首相は構造改革の今後の大きな柱として税制改革を挙げた。2003年度予算編成において、2002年6、7月に提出された税制調査会や経済財政諮問会議、地方分権改革推進会議などの答申をベースに国庫補助負担事業を削減するとともに、向こう1年をめどに抜本的な地方財政改革案をとりまとめる予定である。
これらの審議会、会議等の報告は、「地方の自立」、「受益と負担の関係の明確化」をキーワードに国と地方の財政関係を見直し、国庫補助金、地方交付税、税源移譲を三位一体で改革する必要性を強く打ち出している。具体的には、国と地方の役割分担の見直しと地方の権限・責任の拡大を改革目標に据え、具体策として、a.教育・福祉を含む行政サービスや公共事業の廃止・縮減と並行した国庫補助負担金の削減、b.各地域内における「受益と負担の関係」の明確化を目的とした地方交付税の財源保証機能の見直し、c.廃止の対象となる国庫補助負担事業のうち、地方が真に継続すべき分野の限定とそのための財源移譲、を行う方向である。ただし、現行の国税と地方税の配分については、わが国全体が大幅な歳入不足にあるため税源移譲は現実的ではない、税源を移譲すると自治体間の財政力格差が拡大する、といった問題が指摘されている。

1990年代後半における第一次分権改革では手つかずであった地方財政が、いよいよ改革の俎上に上るところであるが、これを長年待望してきた地方自治体サイドの動きは鈍い。全国知事会や都道府県議会議長会など地方六団体が今夏の定例総会等で発した決議の内容は、98年5月の地方分権推進計画に盛り込まれた内容(自治体の歳出規模と地方税収の乖離の縮小、地方一般財源の充実、地方交付税の総額の確保)の履行をひたすら求め、国の新たな改革方針への反発を強めている。確かに、分権計画を策定した際、「財政の好転を待って計画を実現する」旨を当時の宮沢大蔵大臣が言明しており、「裏付けとなる財源なしに事務事業の移譲が先行しており、財源移譲が先決」との言い分は、第一次分権改革の文脈からいえば理にかなっている。しかしながら、自治体側の主張は、その後の経済情勢やわが国財政の厳しい現実からかけ離れているうえ、自立した財政運営をめざす姿勢や独自策を欠き、説得力が弱いといわざるを得ない。

国と地方の借入金残高総額が693 兆円(2002年度末政府見通し)、国と地方の歳出総額159兆円に対して税収が88兆円(2000年度実績)という現状を直視すれば、現行財政規模を前提とした税源移譲は到底困難である。実際、自治体が現行制度の堅持を主張してきた間にも、総務省は算定方法の変更などを通じて交付税システムの見直しを進めつつある。2001年度に総務省が導入に踏み切った臨時財政対策債は、従来、交付税特別会計から地方財政が一体で積み重ねてきた「交付税特別会計借入金」ではなく、個々の自治体の地方債としてカウントされるため、交付税総額の圧縮につながる。また、小規模町村に手厚く配慮してきた段階補正の見直し(2002年度~)、公共事業の優先順位を国が誘導してきた事業費補正の見直し(2002年度~)、基準財政収入額の留保財源率の引き上げ(2003年度予定)などは、国が従来地方に保証してきた財源の範囲を見直すことを意味する。

自治体は地方財政を取り巻く環境を直視し、冷静に対応する必要があり、地方分権計画の内容にいたずらに固執すべきではない。大幅な税源移譲はおろか、現行交付税削減への備えすら求められる現状、歳入・歳出両面にわたる財政運営の抜本的見直しが急務である。確かに、外形標準課税の導入や地方消費税の税率引き上げなど、地方税制の抜本的な変更は国政の場で決定されるが、それに対して要望と傍観に終始していては、地域経営に責任を持つ自治体とはいえない。地域生活に密着し、包括的に運営・管理する「総合行政」の立場を自覚し、税や手数料、地方債などを組み合わせた財源調達、地域事情を生かしたメリハリの利いた資源配分に積極的に取り組み、地域経営の責務を果たすべきである。その経験に基づいて始めて、自治体の地方財政改革に関する主張は、社会全体の支持と共感を得て、国政の場で影響力を持ち得よう。以下では、現行地方税法のもとでも利用しうる政策手段が多様なことを指摘するとともに、これらを活用した総合的な財源調達方法の在り方を提言する。

税の趣旨を生かした財源調達

第一次分権改革における地方財政上の数少ない成果として、地方自治体の課税自主権の拡大が挙げられる。具体的には、自治体は法定外普通税、法定外目的税を条例化し、総務省との協議と同意を経て(以前は許可制、法定外普通税のみ)独自税を徴収することが出出来る。2000年4月の地方分権一括法施行以来、独自課税の試みは各地にみられ、河口湖町(山梨県)の遊漁税、三重県の産業廃棄物税などは施行されている。杉並区(東京都)のレジ袋税、横浜市(神奈川県)のJRA税(正式名称は「勝馬投票券発売税」で、日本中央競馬会の設置する場外馬券場の一部発売額に課税する法定外普通税)などはすでに条例が成立し、高知県の水源涵養税、豊島区(東京都)の駐輪税などは多方面から意見を募り、検討中である。最近の動きとしては、9月27日、法定外目的税の導入(岡山・鳥取・広島3県および北九州市の産廃関連税)と法定外普通税の税率引き上げ(福島・石川両県の核燃料税)について、自治体と総務省の同意が成立した。岡山など3県の法定外目的税は、迷惑施設・物資に対する課税が隣接地域への移転を促す問題を考慮し、広域で課税方式を統一する初めてのケースであり、先行事例からの学習効果が生じていることが見て取れる。

法定外税を導入する動きは、自治の発露としておおむね歓迎されているが、問題点も存在する。第1に、選挙権を持たない企業、団体への課税が多く、「取りやすいところから取る」弊害が顕著な点である。第2に、すでに法定税目が所得・消費・流通・資産の段階で網羅的に存在する現状、法定外税は「落ち穂拾い」と揶揄されるように課税対象が限られ、徴収額が少ない割に徴税コストがかかるため、地方財政への寄与は少なく、地域経営を支える基幹財源とならない。自治体はこのような問題点を踏まえ、地方税務のフロンティアである独自課税に積極的に取り組む一方、従来認められてきた裁量範囲を再点検し、様々な政策手段を組み合わせて財源を調達する姿勢が求められる。その際、法定税、法定外税それぞれの趣旨をよく勘案し、それに即した活用方法を取る必要がある。

自治体が第1に取り組むべきは、主要財源である法定税の活用である。地方税法は法定税率の標準値(標準税率)や上限(制限税率)を定めており、実際の課税にあたっては、個々の自治体が地方税法の範囲内で独自に税率を上げ下げすることが出来る。ただし、各自治体の税率の設定状況をみると、3,230自治体のうち2,438団体が法人関係税(法人住民税、法人事業税)に対する超過課税(標準税率を超える税率の設定)を行う一方、住民関係税については超過課税の例がほとんどなく、選挙権を有しない企業に負担を求める実態が見て取れる。
しかし、主権者である地域住民が、自治体のサービス・事業の内容とコスト負担のバランスについて、責任をもって意思決定するのは自治の基本である。今後、地域住民と自治体執行機関は、住民の負担増をタブー視せず、財源調達について具体的な対話を積み重ねることが重要である。新たに一定規模以上の財源が必要な事情(公共施設の建設や行政サービス水準の引き上げなど)が生じた場合、執行機関は当該事業計画や必要なコストのほか、全般的な行政運営状況(税収の推移と見込み、起債残高、現行事務事業の業績評価やコストなど)についても情報を開示し、そのうえで引き上げる税目の候補、税率の引き上げ幅や実施期間などについて腹案を複数示し、当該事業・サービスの是非、および執行する場合の方法や規模・水準を問うことが望ましい。その際、現行事務事業や執行体制の見直しで捻出出来る財源、総コストのうち手数料や利用料を徴収することで賄い得る範囲、事業費を起債した場合の返済計画、当該事業と自治体の総合計画やまちづくり計画等との整合性、優先順位を争う他の事業計画との比較などについても、徹底した情報開示と丁寧な説明が不可欠である。さらに、事業・サービスに着手した後の進捗度のチェックやコスト管理、問題が生じた場合の責任の所在など、財政情報に加え実施体制についても、自治体のなすべき役割を言明し、住民の信託を得る姿勢が必要である。
法定税が、住民一般へ提供される日常的な行政サービス・事業との比較考量に適するのに対し、法定外税には異なる意義と役割があり、法定税と適切に組み合わせることで効果を発揮する。すなわち、法定外税には、個々の地域事情に起因する財政需要を充足したり、地域固有の問題の解決を促す政策誘導的な役割が期待される。例えば、河口湖町の遊漁税は、町外から訪れる釣り客のニーズの充足と町民の生活環境・湖の自然環境の維持を、三重県の産廃税は産廃の大量受け入れ県の立場から、関係者に応分の負担を求めつつ、排出抑制とリサイクルの推進を目的としている。杉並区のレジ袋税は、都のゴミ焼却施設周辺に体調不良を訴える、いわゆる「杉並病」患者が存在することから、プラスチック製品の大量消費に対する問題提起の意味も含め、広く住民に負担を求めている。三重県や杉並区の法定外税の場合、課税目的の達成度が上がるにつれ税収が減少する仕組みであり、税源の開拓よりもむしろ、税を活用して納税義務者の行為を誘導することに重きが置かれている。税を活用した政策誘導は、全国一律の適用を前提に国が定める法定税では対応が難しく、個々の自治体が柔軟で効率的な制度設計と運用に努める法定外税が好適である。 ただし、特殊なニーズの充足や政策目的を追求する法定外税の性質上、課税客体がピンポイント的に選定されたり、一部に深刻な影響が及ぶことは避けがたい。例えば、産廃税や核燃料税の場合、納税義務者は産業廃棄物を排出する製造業者や処理業者、原子力発電事業者など一部法人に限られるし、レジ袋税の場合、買い物客一般への課税であっても、特別徴収義務者である小売り業者が、顧客離れを恐れて税負担を肩代わりする、あるいは区外からの買い物客へ都度説明、納得を求めるなどの負担を余儀なくされる。この点を踏まえ、自治体は周到な制度設計、慎重な検討手続きを行い、関係者の間で丁寧な合意形成を進める努力が不可欠である。法定外税導入の根拠となる財政需要や政策目的の重要性・妥当性、課税客体の選定過程、徴税コスト、税収の使途等の明確化は当然として、法定外税以外に当該政策目的を達成しうる手段の有無(法規制や課徴金、手数料・使用料・負担金など)、納税義務者における受益と負担の関係や負担水準の妥当性、税収使途の効果を測定・評価する枠組みも検討する必要がある。そのうえで、広報誌やホームページ、職員が出張する住民説明会などを通じて条例案を周知し、アンケートやパブリック・コメント制度も活用して、住民の意見を採り入れる仕組みとすべきである。とくに、影響の大きい関係者に対しては、政策形成の早い段階から意見交換を重ねて条例の内容に反映させ、納得と同意のもとに法定外税を導入することが望ましい。

政策目的に沿った税目を柔軟に組み合わせて地域の財政需要を満たす一方、既存税収を確保するための努力も地味ながら欠かせない。近年、厳しい経済状況を受けて地方税の滞納が増え、調停額(徴収すべき税収を調査・決定した額)と収入済み額の乖離が深刻である。例えば福知山市(京都府)の場合、1995年以降、税の徴収環境が急激に悪化し、89年と99年を比較すると、滞納税額は51.2万円から2億3,000万円、件数は16件から8,840件に増加しており、滞納税累計額は7億6,000万円余に上る。件数では市民税、金額では固定資産税の割合が高く、2件で5,000万円以上に上がる特別土地保有税も目を引く。

各自治体とも徴収努力を強め、職員研修に滞納処分の事例発表や情報交換を盛り込む、督促や訪問徴収に税務担当外の管理職を動員する、公共事業入札資格者の登録時に消費税や法人住民税、自動車税などの納税証明書の提出を求める、夜間納税窓口を開設する、などの対策を講じている。また、小田原市(神奈川県)や松岡町(福井県)では、滞納税者への制裁措置を可能とする条例を定めている。内容をみると、滞納者に対して、自治体は行政サービス(公営住宅への入居、チャイルドシート購入等に関する個人向け補助金など)の停止のほか、悪質な滞納税者の氏名を公表出来る。ただし、公表の是非について学識経験者や弁護士などからなる審査会に諮り意見を尊重すること、滞納税者から事情聴取し、弁明の機会を与えること、行政側の事実誤認などにより滞納税者に損害を与えた場合、賠償や名誉回復に努力すること、なども併せて定めている。条例制定に際し(2000年)、自治省(当時)は公務員の守秘義務との関係から条例を問題視した経緯もあり、現在のところ氏名の公表に踏み切った例はなく、滞納税額にも目立った効果は確認出来ていない。とはいえ、このような取り組みは、自治体が自立した財源調達に向かう表れであり、小田原市では制裁という思い切った行動を取る以上自らの執行体制も問われるとして、職員の能力向上や税務情報の開示などに取り組んでいる。今後、地方自治体は徴税事務の見直し(滞納者の洗い出しから督促、徴収まで全行程を1職員が担当するシステムから、分業制への移行など)、電子地図情報などを活用した督促業務の効率化、滞納整理を目的とする一部事務組合や広域連合の設立、都道府県と市町村の連携による徴税体制の強化(陣容の充実、徴収ノウハウの蓄積、情報交換、税務広報、共同公売他)などに取り組むことが重要である。

以上、税収調達の多様化と確保について述べたが、今後、自治体にとって、税率の引き下げにより地域経済・産業の活性化を図るスタンスも重要となる。日本企業が生産拠点を中国など低コスト地域へ相次いで移す一方、公共事業の削減も進むなか、自治体は地域の雇用を確保し、住民生活を維持するため、様々な手段を講じて企業誘致に取り組んでいる。三重県では、県が90億円、亀山市が45億円を投じてシャープの誘致に踏み切った結果、関連企業の集積、従業員の転入が順調に進んでいる。青森県や岩手県では、地域の大学・研究機関と企業が共同で技術開発に取り組む環境を整備し、高付加価値企業の誘致を進めている。減税は企業誘致のインセンティブとしてこれらの手法に劣らず有効であり、自治体は厳しい財政状況のなかでも、減税に積極的に取り組むことが重要である。
ただし、地方税法上は標準税率の引き下げが認められているにもかかわらず、現実には様々な制約があり、税を誘因とした地域開発の道はほとんど閉ざされているのが実情である。例えば、標準税率以下の税率を採用する自治体の場合、地方財政法に基づき、公共・公用施設に関する建設地方債の発行が禁止されるため、事実上、自治体は減税の自由を奪われてきた。これについては、2006年度以降、例外的な起債許可制度が設けられたが、公募債の発行が不可能な多くの自治体にとって、あえて国の許可を求めるのはかなり困難と予想される。また、地方交付税の算定に際し、軽減税率に基づく実際の税収額ではなく標準税率による税収が基準財政収入額として算定されるため、自治体にとって税率引き下げのハードルは高く、機動的な減税による地域開発に挑む姿勢が根付かなかった。現在、自治体の創意工夫によって経済活性化を進める構造改革特区が各地で構想されているが、名乗りを上げた自治体は地方税の引き下げを特区構想の一環に位置付け、自ら負担を担う姿勢が求められる。一方、国は規制緩和や弾力的な起債許可によって、地方を強く支援する姿勢が不可欠である。

住民に対する小口地方債の販売

自治体の事業・サービスをめぐる受益と負担の関係を住民に周知させるには、地方債の活用も一案である。今年に入り、地域のステークホルダーに対して公募債を発行する都県が現れ、他の金融商品に比べ利率が高いこともあって人気を呼んでいる。先鞭を付けた群馬県の場合、2001年12月議会で知事が計画を表明、2002年3月に10億円発行(5年債、利率0.62%)したところ、20分足らずで完売したため、5月に抽選方式で追加販売(30億円、0.54%)した。ついで、兵庫県が5月と7月、東京都が9月に発行し、愛知県、岐阜県、埼玉県が2002年中の発行を予定している。住民向け公募地方債の特徴を挙げると、a.得られた資金の充当事業をあらかじめ示し、起債目的を明確にしたうえで地域から資金提供を仰ぐ、b.小口の短期債で発行ロットが小さい(一般の地方債は100億円単位であるが、多くの住民向け公募債の場合は10 億円台)、c.購入対象者は域内在住・在勤者と活動拠点を持つ任意団体・企業に限定、d.購入限度額を設ける、募集期間を長くする、抽選で購入者を決めるなど公平に配慮した販売方法を取る、である。また、兵庫県の場合、購入者のうち希望者を、第1 回県民債で建設する「人と防災未来センター」の運営モニターと位置付け、年1回の入館料を無料とし、ニューズレターを送付する計画である。このような取り組みは、公共事業に対する地域の関心を高め、住民が施設の運営・活用状況を監督する効果も期待され、自治にふさわしい財源調達手段といえよう。ただし、住民向け地方債が好評な背景には、魅力ある金融商品の提供が困難な状況があり、資金充当先事業への賛同が必ずしも購入の動機となったわけではないことに留意する必要がある。今後は、事業に対する住民の選好と起債計画とを直接結びつける仕組みを導入する一方、住民向け公募債の好評が事業推進の免罪符として活用されることのないよう、注意していく必要があろう。

今後の課題と国に求められる対応

以上、自治体がすでに持つ手段を総合的に活用し、自立した財源調達を行うべきことを述べた。今後、最も重要な点は、事業執行の是非や優先順位、サービス水準と税率や起債額の関係について、住民の意向を反映させる仕組みをどのように設計し、精度を高めるかである。 自治体と住民の対話の場として公聴会や説明会、パブリック・コメントなどがあり、まちづくりや介護などの分野では計画策定段階から住民に参加を求めるパブリック・インボルブメントも定着しつつある。また、藤沢市(神奈川県)の市民電子会議室のように、ITを活用した住民同士の意見交換も、今後普及しよう。自治体は財源調達をめぐる議論にこれらの手段を積極的に活用しつつ、最終的に住民の審判を仰ぐ局面では、住民代表たる地方議会での冷静な論戦と周到な修正を第一義的に目指すべきである。ただし、選挙民に負担を求める議題であるため、議会が消極的になったり、反対に収拾のつかない紛糾に陥る場合が予想される。また、有権者の投票行動は複数の要因に左右されるため、特定の争点について住民と議会が意見を異にする可能性は残る。とくに、原則4年に1度の議会選挙と財源調達をめぐる議論が異なる時点で生じた場合、その確率は高まろう。

この問題を解消するため、「公共事業・行政サービスと財源調達の対応関係」について、別途、住民の意思を問うシステムを導入することは一考に値する。アメリカの場合、ほとんどの州が超過課税や公債の発行の是非を住民に問う住民投票制度(referendum)を採用している。多くの場合、地方選挙と同時に実施されるが、住民投票単独で行う場合もある。カリフォルニア州で財産税率引き下げを実現したプレポジション13(78年)はわが国でもよく知られているが、近年ではニュージャージー州が、財産税では学校運営費用を賄いきれないとして、住民投票の結果、州所得税の導入に踏み切った例がある(98年)。また、サンフランシスコ市では過去20 年間に、動物園や汚水処理場建設などの起債計画をめぐり約50件の住民投票が行われた。賛成の割合をみると、80年代が平均75%、90年代は61%と、好景気にもかかわらず住民の対応は厳しさを増している(朝日新聞、2001年11月7日付)。また、スイスでは州にあたるカントンで住民投票が一般的に行われており、アメリカの制度にも影響を与えている。

わが国でも、地方選挙の際に起債計画を提示したり、大規模公共事業の財源調達の在り方を住民投票で問うことを、真剣に考慮してもよい時期である。すでに、原発の立地やダム・河口堰の建設、場外馬(車)券場設置、教育委員会選挙、米軍基地問題をめぐり、自主的な住民投票の実施例は相当数に上る。市町村合併に限った住民投票は国の制度上も法定化され、テーマを限定しない一般的な住民投票条例を定める自治体も散見される。18 世紀以来の伝統を持つアメリカやスイスの制度を一挙に導入しては混乱を呼ぶおそれがあり、a.十分な議会審議を前提とする、b.投票結果の拘束力を弱め首長や議会の判断材料とする諮問型投票とする、c.投票対象となる財源を重要度などによって弁別する、d.投票権者全体が課税客体となる税のみを住民投票の対象とし、課税客体が一部に限られる税目は対象外とする、の工夫によって、わが国になじむ仕組みにすることが重要である。
ただし、地域住民が財源調達をめぐる住民投票を望んでも、現行法制度のもとでは導入不可能である。地方自治法第74条1項は、「地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関する」条例を直接請求の対象から除いている。地方自治の揺籃期に、税率の引き下げ請求が相次いだためといわれるが、地方自治法制定以来50 年以上が経過した現在、住民の公益意識は格段に向上した。自治体に期待される役割が増大し、財源の必要性も自明ななか、財源調達関係を住民投票の対象に加えても、法制定当時に懸念された無規律な減税要求が頻発する可能性は少ないと思われる。 地方分権の趨勢のなか、国は自治体の自主課税など自立した財源調達努力を支援し、規制・制約を積極的に撤廃することが求められる。「地方に出来ることは地方に委ねる」という「三位一体の改革」の基本方針もあり、国は表向き自治体の自主性の尊重を掲げているが、実態は必ずしもそうではない。総務省が5月に出した法定外税に関する通知では、「国の経済政策に照らして適当でない」という不同意要件の解説として、「国の経済政策とは、経済活動に照らして国の各省庁が行う施策(財政政策及び租税政策を含む)のうち、とくに重要な、または強力に推進を必要とするもの」として、国に広範であいまいな裁量を認めている。また、税制調査会などでは、個々の地域事情を考慮せず、自治体の自主課税を批判する意見が根強い。総務省は現在、法定外税の同意要件の具体化を進めているが、具体的で明快、自治体の創意を生かしやすいネガティブ・リスト方式の採用が望まれる。法定外税については、税収規模も小さく影響が限定的な点を踏まえ、混乱を恐れていたずらに自治体の手を縛るのではなく、時に「失敗する自由(北川正康三重県知事)」を容認する大胆な姿勢が重要と思われる。

自治体に求められるもの

過去の地方行財政改革の歩みを振り返ると、自治体は、地方六団体などの決議において、分権を積年の念願として訴えてきたにもかかわらず、95年に分権委が審議を開始すると、必ずしも権限委譲に積極的ではなく、具体的な要望も少なかった。むしろ、仕事量の増加への懸念や都道府県と市町村の不協和音が目立った結果、第一次分権改革が自治体に対する国の関与の縮小や必置規制の緩和にとどまった前例がある。今回の地方財政改革においても、税によって国民に身近な問題の解決に当たる立場から、具体的な提案、要望を積極的に行わなければ、中央主導の制度設計に甘んじることを余儀なくされよう。自治体が自立した財源調達によって、何をどのように提供しどのような効果があるか、その過程に住民がどのように参画するか、を明示しなければ、国民にとって、地方財源をめぐる議論は国と地方の資源獲得競争の域を出ないのである。
先進自治体によるユニークな行政運営が散見され、地方主導の構造改革が求められる現在、第一次分権改革の轍を踏むことは許されない。地域の実情に合わせたきめ細かい努力により、住民の合意と納得を得て独自の財源調達を行い、その成果を背景に、自治体ならではの主張を国の改革論議に反映させ、地方税と国税の抜本的な見直しに携わることが、真の地方分権を実現する道といえよう。
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