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Business & Economic Review 2002年11月号

【POLICY PROPOSALS】
税制抜本改革のグランド・デザイン

2002年10月25日 蜂屋勝弘


要約
  1. 本年入り後本格化した税制改革論議は、政府税調と諮問会議それぞれの基本方針で示された税制改革の方向性が必ずしも一致していないことに加え、与党や経済界を中心にデフレ対策としての減税論議もみられ、混迷の度を増している。改革論議を円滑に進めるには、a.短期、中期、長期を明確にした議論の徹底、b.具体的な数字に基づく議論、c.財政構造改革、社会保障制度改革、国・地方間の財源移転制度の抜本改革と一体的、整合的な税制の将来像の提示が求められる。

  2. 今、何のために税制の抜本的な改革が必要かを改めて考えると、a.財政構造改革、社会保障制度改革、国・地方間の財源移転制度の抜本改革への対応、b.経済・社会構造の変化への対応、c.税制度自体に対する国民の信頼の確保、d.経済再生への支援に整理されよう。

  3. 短期の改革は、経済再生に軸足を置き、1~3年以内での速やかな実施が求められる改革である。経済再生に軸足を置くことから、必然的に減税策が中心となる。ただし、重要なのは、減税規模ではなく、改革の内容である点に留意する必要がある。具体的には、法人の税負担の軽減に加え、経済のフロンティア拡大に資する税制改革が求められる。

  4. 中期の改革は、5~10年以内での実施が求められる改革である。基本方針として、個人のライフ・スタイルの変化への対応、チャレンジへのサポート、高齢化への対応、税制度に対する信頼確保を目指す。具体的には、a.納税者番号制度の導入、b.配偶者控除・配偶者特別控除の縮小・廃止、c.定率減税の廃止、d.給与所得控除の見直し、e.公的年金等控除の見直し、f.簡易課税制度の廃止と免税点の縮小、g.インボイスの導入、を行う。

  5. 長期の改革は、将来の高齢化に伴う財政需要を賄うための改革である。今後、高齢化に伴って財政需要の増加が見込まれ、将来的に国民負担の引き上げは不可避である。消費税率の欧州諸国並みへの引き上げは避けられず、2025年度までに消費税率を14.2%まで引き上げる必要がある。長期の改革として、具体的には、a.給与所得控除の縮小、b.消費税の軽減税率の導入、c.消費税率の段階的引き上げと目的税化、d.交付税率の見直しを行う。消費税率は、経済活動に配慮しながら段階的に引き上げる。社会保障にかかる財政需要を勘案すると、消費税率は最終的に、軽減税率を5%とする場合、国・地方合わせて19%となる。

  6. 短期の改革は、経済の早期再生に向けて、基本的に2003年度内に早急に実行する。中期の改革は、経済への影響の軽微なものから順に実行に移す。公的年金等控除の原則廃止と給与所得控除の上限設定は、2003年度か2004年度には実施する。定率減税廃止は、2004年に基礎年金財源の国庫負担率が3分の1から2分の1に引き上げられることに伴って、新たに2.5兆円程度の財源確保が必要になることから、経済再生を前提に、2005年度での実施を当面の目標とする。長期の改革は、最初に消費税率を引き上げる2007年度以降実行に移す。その後は、社会保障費の増加に合わせて、経済への影響に留意しつつ、2~3年ごとに、基本的に国の消費税、地方消費税をそれぞれ1 %ずつ引き上げる。

  7. 今後、国民負担率の上昇は不可避である。国民負担率は、2025年度には48.9%と2002年度の38.4%対比10.5%ポイント上昇し、潜在的国民負担率は、歳出構造の見直しによるプライマリー・バランスの均衡化を前提としても、2025年度には52.1%と、2002年度の47.0%対比5.1%ポイント上昇すると試算される。しかしながら、既存の社会保障給付の非効率を改めることで、国民負担率の上昇は抑制される。社会保障給付のスリム化・効率化を行うと、2025年度の国民負担率は44.2%と、改革前対比4.7%ポイント低下し、潜在的国民負担率は47.4%と、ほぼ現状水準となる。税制改革によって、家計の税・社会保険料負担は増大する。現在のわが国の家計負担は名目GDP比14.5%と、OECD平均の同24.5%を10%ポイント下回っているものの、改革によって家計負担は同23.9%に上昇し、ほぼOECD平均並みとなる。一方、企業の税・社会保険料負担は、改革後も改革前と同様、ほぼOECD平均並みの同9.4%が維持される。

  8. 国・地方の歳出規模の適正化を行うことで、税源移譲の必要性は希薄となる。税源移譲を検討するにあたって重要なのは、税源移譲の必要性や規模ではなく、国民生活の向上に向けた財政システムをいかに構築するかである。税源移譲は、望ましい財政システムを構築するための手段と位置付けるべきであろう。

  9. 本稿では、名目成長率の前提を、厚生労働省の社会保障給付と負担の見通しに倣い、2007年度まで年率1.0%、2010年度まで同2.5%、2011年度以降同2.0%としている。しかしながら、中期と長期の改革の結果、経済成長率がこれを下回った場合、一段と厳しい改革努力が求められよう。本稿より厳しい名目成長率のもとでは、国民生活の維持・向上に向けた有効な解決策を見いだすこと自体が困難とも思われる。以上のように考えると、将来の高齢化を乗り切り、国民生活の維持・向上を実現するために、まず、経済再生を実現することの重要性が改めて理解されよう。
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