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Business & Economic Review 2002年10月号

【POLICY PROPOSALS】
所得税改革の方向性を考える-公正・透明、チャレンジへのサポート、高齢化を乗り切る税制改革

2002年09月25日 蜂屋勝弘


要約
  1. 現在の所得税・住民税改革論議をみると、政府税調が「税の空洞化」の是正に重点を置く一方で、経済財政諮問会議が経済活性化に重点を置いており、その方向性は定まっていない。しかしながら、いずれにせよ、現在の所得税・住民税改革論議は十分とは言い難い。今求められる所得税・住民税改革は、単なる財政バランスの改善のためでも、減税を通じた景気回復のためでもなく、国民のライフ・スタイルの変化や将来の高齢化にふさわしい新たな税体系の構築である。所得税・住民税改革は、大多数の国民が望ましいと考える経済社会の将来像を描いたうえで、その実現に向けた官民の努力と整合性の取れた制度設計を中長期的な視野から行うべきである。

  2. 望ましい経済社会の将来像として、大多数の国民のコンセンサスが得られると思われるものを挙げると、以下の3点。 (1)公正・透明な制度設計・政策運営に基づく信頼感のある社会(2)安心できる社会(3)努力した人が報われる社会

  3. 所得税・住民税改革のみで、望ましい社会が達成されるわけではない。産業構造改革、財政構造改革、社会保障制度改革に向けた官民の努力があってこそ、望ましい社会が実現可能であることを理解し、税制改革の効果に対して過度な期待を抱かないことも、所得税・住民税改革論議の前提の一つ。

  4. 所得税・住民税の空洞化是正の方向性として、非納税者割合の引き下げや課税最低限の引き下げ自体を目標とすることは的外れ。空洞化の是正は、あくまで個別の所得控除・税額控除ごとに整理・縮小の是非を吟味することによって行われるのが本来。もっとも、こうした各種控除の整理・縮小の結果として、非納税者割合や課税最低限が過度に低下する場合に、担税力の低い層に配慮するために、非納税者割合や課税最低限の低下幅に一定のめどを設けることは必要。

  5. 経済活性化を狙った最高税率の一段の引き下げは、経済理論的・実証的観点、現実的観点から不合理。最高税率引き下げは、経済活性化ではなく税負担の公平性の観点から論じられるべき。将来、最高税率の引き下げを目指す場合には、企業の役員など高額所得者に対する退職金課税の見直しやフリンジベネフィットへの課税が大前提。

  6. 国民一人一人の視点に立ったより現実的な観点からフラットな税体系の意味を問い直すと、フラットな税体系とは、平均的な所得水準の国民が一生涯に直面する税率に変化がない税体系。すなわち、大多数の国民に同じ税率が適用されていれば、フラットな税体系といえる。この意味で、イギリスの所得税と同様に、わが国の所得税もフラットな税体系。しかしながら、わが国では、住民税率の所得区分が所得税率の所得区分と異なっているため、所得税・住民税トータルでみると、所得税のみに比べてフラットでないことは事実。

  7. わが国の所得税・住民税の税率体系をイギリス型に再構成すると、年収200~600万円、年収1,200~1,400万円の所得層の限界税率が現行より上昇し、税負担が増加するという問題が発生。この問題点を回避しつつ、中間層にみられる小刻みな税率の上昇を簡素化する一方策として、住民税率の所得区分を所得税にそろえることが考えられる。しかしながら、この場合、住民税収の減収幅が1.2兆円に上ると試算され、実施には、国と地方の税・歳出構造の見直し等、幅広い観点からの検討も不可欠。

  8. イギリスでは、税負担を広く国民で分かち合う一方で、税負担を上回る手厚い社会保障を低所得層に施すことで、負担と給付のバランスを保つ体系。わが国でも所得税・住民税改革の方向性として、イギリス型のフラットな税負担構造を目指すのであれば、イギリスと同様に手厚い社会保障やタックス・クレジット制度(低所得層を対象とした税還付制度)を用意する必要。

  9. 2010年度までを念頭に、最低限行うべき所得税・住民税改革は、(1)チャレンジをサポートするための改革、(2 )高齢化を乗り切るための改革、(3)税制に対する信頼確保のための改革、を念頭に行う。改革によって得られる増収分は、税制の信頼確保に伴う増収分を除いて、(1)高齢化によって新たに発生する社会保障の財源、(2)少子・高齢化対策の財源とし、現状の財政赤字の解消には充当しないことが大前提。財政赤字の解消はあくまで歳出構造の見直しによって取り組むことが必要。
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