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Business & Economic Review 2003年07月号

【STUDIES】
地域コミュニティの自立と活性化に向けた情報通信メディア活用の在り方

2003年06月25日 調査部 メディア研究センター 野村敦子


要約

  1. わが国では、1980年代より高度情報化社会の構築に向け様々な取り組みがなされており、そのなかでも「地域社会の情報化」は重要な政策課題の一つとして位置付けられている。国民の一人ひとりがIT 革命の恩恵を享受するためにも、地域社会の情報化は大前提となるからである。しかしながら、情報化の現状をみると、ブロードバンド・インフラの整備・普及状況や、インターネットの利用状況などにおいて地域間格差が生じており、地域情報化への取り組みは必ずしも順調に進んでいるとはいえない。その要因として、a.国の情報化施策が必ずしも各地域のニーズを反映しているとはいえないものであったこと、b.地方自治体においても情報化推進のための専門の人材が不足していたこと、c.当時の通信インフラの能力やサービス・コンテンツの内容、利用者のメディアリテラシーが不十分であったこと、などが挙げられる。

  2. しかし、近年の情報通信技術の発達やインターネットの普及、ブロードバンド環境の整備などを背景に、地域主導・住民主体による情報通信メディアを活用した地域活性化の好機が到来している。すでに、情報通信メディアを活用して、地域経済の活性化や住民の行政参加の促進に取り組んでいる自治体もある。例えば、東京都三鷹市は「情報都市三鷹」を目指し、市内に敷設された光ファイバー網を活用して、「SOHO CITYみたか構想」の実現に取り組んでいる。三鷹市は、インターネットを活用した市政への住民参加の促進にも積極的である。富山県八尾町は、国の補助金制度を活用して、ケーブルテレビ網の整備とこれを通じた公共サービスの提供に取り組んでいる。八尾町では、内外に向けた積極的な情報発信を通じ、人の還流を促そうとしているが、情報通信環境の整備により、過疎化に一定の歯止めがかかっているとの評価もある。

  3. 海外においても、情報通信メディアの活用を通じた地域コミュニティ活動の活性化や産業振興への取り組みが盛んになっている。アメリカ・バージニア州のブラックスバーグは「ブラックスバーグ電子村(BEV)」を構築し、住民間の年齢を超えたコミュニケーションの活発化や、産業振興などに成果を上げている。BEVでは、産官学民の役割分担が明確化されており、継続的な評価作業も行われている。近隣自治体へのノウハウ提供にも積極的である。フランスのイッシー・レ・ムリノ市は、行政主導の情報化ではあるが、市民への普及促進のために、アクセス環境の整備や先進的サービスの開発など様々な試みを行っている。同市では、情報化を通じて、住民の利便性や行政サービスの向上、産業振興など様々な行政課題を解決しようと取り組んでいる。こうした海外の取り組みには、わが国の参考になる点も多い。

    このように、内外において、情報通信メディアを活用して地域経済・社会を活性化させようとする動きが活発化している。
    情報通信メディア活用の効果としては、行政サイドにおいては、行政事務手続きの効率化、情報公開の促進、住民の意見やニーズの吸い上げ、地域の一体化の促進、地域外への情報発信といった点が考えられる。また、地域の競争力を高めるうえでも、情報通信メディアは重要な基盤であり、ツールとなる。住民にとっても、多様な公共サービスを手軽に受けることが出来るというメリットだけでなく、住民の行政や地域活動への参加機会の拡大がもたらされるという点も重要である。また、情報通信メディアは、地域社会や地域に住む個人の自立を支援するツールとしての役割も果たす。
    現在、地域社会の抱える問題は、財政面、運営面、人材面など、多岐にわたっており、地域経済・社会を活性化させ、経済的な自立と政策立案・運営面での自立を実現することが、わが国の最重要課題であるといってもよい。地域社会における情報通信基盤の整備や情報通信技術の導入は、地元産業の競争力強化や新産業育成のために不可欠である。地域に根ざす農業や中小企業の経営の高度化・効率化、産業集積といった点でも情報通信技術の活用は効果的である。
    また、情報通信技術は時間的・空間的な制約を軽減し、多様な就業形態を可能とすることから、個人の自立を支援するツールとなる。高齢者や身体の不自由な人、子育て中の主婦などにとっても就業や社会参加の機会、自分の能力を活用する機会が拡大することになる。住民参加のチャネルの多様化や住民による情報発信の活発化も促されることになり、住民の手による地域情報化の推進や地域社会の活性化に繋がるものと考えられる。

    ただし、現段階での地域社会における情報通信メディアの活用は、どちらかといえば、行政から住民に対する情報・サービス提供の一手段として行われているケースが多い。例えば、行政への住民参加を標榜して「電子会議室」を設置している自治体は数多くあるが、実際に市民の意見を政策に反映するようにルートを制度化している自治体はまだ限られている。そもそも、地域活性化にあたっては、行政のイコールパートナーとして、地域の住民や企業などとの連携や協働を推進することが不可欠である。官民のパートナーシップを実現するためには、a.行政と住民や企業のコラボレーション促進のための信頼関係の構築、すなわち官民間の情報公開・情報交流の積極的推進、b.住民が自主的に参加・活動するための基盤となるプラットフォームの構築、c.こうした活動が政策に反映されるようなルートの確立、などが必要である。
    国の役割についても、各地域がそれぞれの環境や事情に即した計画を立案・遂行出来るように、自主性を尊重し、自立を支援するものとすべきである。
    第1に、情報技術やメディアを利・活用するにあたって、障害となる規制を除去するとともに、地域の要望に対する柔軟な対応が求められる。
    第2に、従来のような国による全国一律の施策を講じるのではなく、各地方自治体が個々の地域の事情に応じて支援策を選択出来るような柔軟な対応が求められる。
    第3に、情報通信メディアを活用した市民参加にあたってはNPOを組織することが有効な手段となることから、NPO へのさらなる支援策の拡充と環境整備を行うべきである。
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