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Business & Economic Review 2002年07月号

【STUDIES】
レーガン税制再考-日本の税制改革への示唆

2002年06月25日 調査部 経済研究センター 岩崎薫里


要約

  1. わが国の税制改革論議のなかでしばしば引き合いに出されるのが、1980年代にアメリカで実施された税制改革、いわゆる「レーガン税制」である。ところが、レーガン税制を巡っては、これを高く評価しわが国の税制改革でも見習うべきとの論者がいる一方で、その弊害を強調し同じ轍を踏むべきでないとの意見があるなど、評価がまちまちとなっている。さらに、レーガン政権は内容の異なる税制改革を複数実施していることから、レーガン税制を高く評価していても、評価の対象となっている改革が、議論により異なる場合も見受けられる。

  2. レーガン政権下で実施された税制改革は、a.景気浮揚のために大胆な減税を盛り込んだ「81年経済再建税法」、b.81年の改革を軌道修正し、増税を行った「82年公平税制・財政責任法」および「84年財政赤字削減法」、c.中長期的な経済効率の向上に向けた「86年税制改正法」、の三つのフェーズに分類できる。

  3. レーガン税制を巡っては、アメリカ国内でも評価が錯綜している。アカデミズムの実証研究を整理すると、効果は限定的であったとの結論が大勢を占める。まず、勤労意欲や貯蓄の促進に関しては、所得税の限界税率の引き下げにもかかわらず、ほとんど認められない。一方、設備投資の促進に関しては、81年改革の効果は認められたものの、他の要因に比べると決して大きくはなかったとの評価が一般的である。一方、86年改革は、設備投資が経済合理性に則って適切に実施されるという、中長期的な効果を狙っており、その意味で、90年代の経済体質の強化に一定の役割を担ったと評価できる。もっとも、アメリカ経済の活性化は、税制改革だけでなく、規制緩和をはじめ、市場原理の貫徹を目的として推進された各種の構造改革との複合作用によって可能となったとみるのが妥当であろう。

  4. レーガン税制の最大の副作用は財政収支赤字の膨張である。81年改革では、減税による税収減は、それによる景気押し上げ効果によって賄われることが期待されていた。ところが実際には、景気悪化もあって歳入は大幅に縮小し、歳出抑制が不十分であったことと相まって、財政収支赤字が拡大した。このため、アメリカではその後長期にわたり、財政赤字の削減に向けて膨大なエネルギーが費やされることになった。

  5. 以上を踏まえて、わが国の税制改革でレーガン税制から学ぶことのできる点は、以下の5点である。

    a.税制改革の理念を明確にすること。レーガン税制は一貫性に欠けていたものの、「市場原理を最大限に引き出すことによって、強いアメリカを実現する」という根幹部分での理念は不変であった。わが国でも、個別具体論に入る前に、首相が率先して、何のための税制改革であるのかを今一度はっきりと打ち出し、国民の間で広くコンセンサスを求めていく必要がある。

    b.減税は財政収支の悪化をもたらす。大規模減税を先行して行えば経済活性化と財政健全化が同時に達成されるとの主張もあるものの、アメリカの経験を踏まえると、実現性は小さい。

    c.所得税の一段のフラット化については、効果が得られるか疑問である。レーガン税制によってアメリカの所得税の累進構造はフラット化したものの、勤労意欲の向上などの効果は確認されず、その後、ブッシュ・シニアおよびクリントン両政権時には、再び累進構造が強まる方向に改正された。わが国で行うべきフラット化は最高税率の引き下げではなく、課税最低限の引き下げによって税負担感が強まる中堅・低所得者層の税率構造の緩和であろう。

    d.中長期的視野に立った改革の必要性である。目先の効果に力点を置きすぎると、結局はその弊害の後始末に追われることになる。また、役割を終えた後も優遇措置を存続させると、経済効率の阻害要因となる恐れがある。

    e.他の改革も並行して進めることが求められる。税制改革を過大評価すべきではなく、その他の構造改革との複合作用によって、はじめてわが国経済の活性化は実現可能となる。
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