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Business & Economic Review 2002年05月号

【STUDIES】
地域社会における役割分担の再設計-求められる自治体内分権の確立-考

2002年04月25日 調査部 金融・財政研究センター 高坂晶子


要約

  1. 地方分権の進展に伴い、地方自治体は行政サービスの高度化・専門化を迫られている。一方、厳しい財政制約に直面している自治体にとって、業務範囲を根底から見直し、他の主体との適切な役割分担(自治体内分権)を行うことが必要となっている。そのカウンターパート(相手方)として、有力な候補に挙げられるのが「地縁に基づく組織(地縁組織)」と「NPO(非営利民間団体)」である。

  2. 地縁組織とは町内会、PTA、防災協会等の総称で、全国的に存在する。居住地によってメンバーや活動範囲を区切り、地域社会の運営・管理のため、細かな行政事務(街灯、ゴミ等の管理)や祭礼等の行事・親睦、防災・保安に至るまで包括的、網羅的に活動する。わが国の地縁組織は行政補完的な性格が強く、「行政機関の下請けに過ぎない」との批判も根強い。近年は、社会環境の変化に伴う担い手の不足や活動の空洞化といった問題が深刻化している。他方、阪神・淡路大震災を機に、地域のセーフティネットとして、地縁組織を再評価する機運もある。

  3. 他方、NPOは、一定の問題意識に基づいて非営利活動を行う民間組織である。1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)によって法人化の道が開かれたこともあり、新たな公益活動の担い手として、近年期待を集めている。発足以来日が浅く、活動基盤の脆弱な団体が多いため、行政による支援の必要性が指摘されるものの、行政からの事業委託や助成によってNPOの長所が損なわれるおそれも強く、行政・NPO双方の相互理解と適切な対応が必要である。また、自治体内分権のカウンターパートとしてNPOをみた場合、限られたニーズや問題意識に基づいて活動するNPOに対し、どこまで自由裁量を認めるかという代表性の問題が存在する。

  4. こうした地縁組織等と地方自治体との役割分担は、従来、自治体が企画・立案を行い、これら組織がその企画立案に従って忠実に業務を執行するという「下請け」型が中心であったが、今後は意思決定・執行面で、自治体から地縁組織、NPOへの広範な権限移譲が必要である。その理由は、a.第一次分権改革の結果、裁量範囲を広げた自治体の肥大化を防ぐため、住民自治の確立によってバランスを取る必要があること、b.自治体は厳しい財政制約の下で既存業務の絞り込みと広域行政を進める必要があり、自治体から地縁組織・NPOに企画・立案から執行に至る包括的なアウトソーシングを行うことによって、住民満足度の向上を図るといった自治体運営の効率化が求められること、の2点である。

  5. このような自治体内分権の必要性はすでに社会的合意を得つつある。ただし、両者の役割分担の手続き、自治体と民間主体、および民間主体同士の関係、責任体制の在り方、一般住民による統制等具体的な議論は、ほとんど行われていないのが実情である。

  6. 実効性ある自治体内分権の仕組みを構想するためには、海外の自治体内分権の事例が参考となる。海外においては、イギリスのパリッシュやドイツの都市末端代議機構、フランスのコミューンなどが代表的であるが、これらの地縁組織は、合併以前の旧市町村や教会の教区単位で設置される場合が多く、行政と住民の双方から地域を代表する組織として認知されている。主な役割は、地域社会の運営・管理、住民から提起された諸問題の解決、地域内の公共事業等について、討議と意見集約、自治体への提案・意思伝達を行うことである。アメリカやイギリスにおけるNPOは、一定の要件の下に法人格や免税資格を認められ、社会福祉やまちづくりの分野で事業活動を行い、行政機関と積極的に役割分担している。財政資金や免税等の便宜を得る関係上、NPOは社会に対して事業内容、財務状況について説明責任を負うほか、様々な主体による評価を通じて、より質の高い活動を展開するよう期待されている。

  7. 以上のような海外事例から導き出されるわが国の地縁組織・NPOにとっての課題は、住民自治の強化や自治体運営の効率化といった自治体自身の課題に沿った到達目標を設定し、その実現を図ることにある。具体的には、地縁組織は運営ルールの透明化、情報公開、政策決定過程への参加、地域に関する提案能力の向上、自己責任・自己決定の範囲の拡大等が求められる。地方、NPOは、説明責任の充足、評価システムの構築、行政依存の回避、行政では対応できない多彩なニーズの発掘と事業化等が必要である。

  8. わが国における自治体と地域住民との関係をみると、従来は既存の行政運営システムを所与としたうえで個々人が関与する「住民参加型」が中心であり、住民による「自己決定型」の段階には至っていない。しかし今後の分権型社会においては、住民自らの決定、実行が求められるし、地域住民に加え、地域の民間組織の意向を軽視することは許されない。住民自治の確立と効率的な自治体運営を実現させるためには、自治体が地域の様々な主体に対して権能付与(empower-ment)を行うことが必要であり、その有力なカウンターパートとしての地縁組織とNPOの存在は、今後、一段と重要性を増すものと思われる。
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