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Business & Economic Review 2002年05月号

【POLICY PROPOSALS】
アクセス改善が求められる小児医療体制

2002年04月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 志水武史


要約

  1. わが国の小児医療においては、a.病院小児科をはじめとする医療サービスの供給量の減少と、b.医療サービスへのアクセスの悪化という問題がある。現在、医療サービスの供給側や新聞報道等を通じて一般の人々に認識されている小児医療の主な問題は、サービス供給量の減少であり、一方のアクセス悪化はサービス供給量の減少に伴う付随的問題という位置付けがなされている。このため、診療報酬の引き上げなどの方法によって供給総量を増やせば、アクセスの改善が図られるとみられている。
    しかし、今日、少子化に伴い小児患者数が減少しており、小児医療サービスの需給バランスはマクロ的にはむしろ改善傾向にあることから、サービス供給量の減少はそれほど憂慮すべき問題ではない。「医師誘発需要」がみられない小児医療においては、全体の需給バランスを無視して政策的にサービス供給量を増やすことは、かえって小児科の経営を厳しいものにするおそれもある。小児医療において解決すべき大きな問題は、休日や夜間といった通常の診療の時間外において需給バランスが崩れ、子供が適切な小児医療サービスにアクセスできないという問題である。

  2. 通常の診療の時間外における小児医療のアクセス悪化の原因は、供給側と需要側の双方に存在する。需要側においては、共働き世帯や核家族世帯の増加に伴う時間外診療ニーズの高まりや、軽症段階での受診傾向などがある。一方、供給側においては、時間外診療ニーズの増大に対応できるサービス提供体制が整備されていないという問題がある。とくに供給側の問題は、a.時間外において小児科開業医を活用する仕組みの不足、b.病院小児科の減少と病院間の連携の不足などによって引き起こされている。

  3. 患者の費用負担を抑えつつ、時間外における小児医療のアクセスを早急に改善するには、医療サービスの供給総量を増やす方法ではなく、現時点で実際に利用可能な医療資源(とくに小児科開業医)の適切な運用を図り、地域における小児専門の初期救急医療体制(小児プライマリケア)を確立する方法が有効である。具体的なアクセス改善方法として、以下のような方法を提案したい。

    (1)小児専用の広域医療圏の構築による小児科開業医の不足問題の解消 小児科開業医が輪番当直を行うことで、時間外の初期救急医療サービス提供が可能になる。しかし、小児科開業医の地域偏在によって小児科開業医が不足し、輪番当直を組めない地域も多い。そうした地域では、小児科開業医不足の医療圏や自治体が互いに連携し、小児専用の広域医療圏を構築することにより、小児科開業医の不足問題を解消させる。

    (2)時間外診療に対する小児科開業医の回避傾向の解消 時間外診療に対する小児科開業医の回避傾向を解消し、広域医療圏内において確実に輪番当直体制を組むには、できるかぎり多くの小児科開業医が、時間外診療に対して積極的に取り組めるような環境を早急に整備する必要がある。そのためには、a.時間外診療に係る当直の報酬の引き上げ、b.時間外診療を行う小児科開業医に対する公的な助成措置の導入、などの経済的インセンティブを付与すると同時に、c.時間外診療を行う開業医に対する社会的評価を高める施策を早急に実施する必要がある。

    (3)自治体における財政問題の解消 時間外においても小児の初期救急医療に対応できる小児専門の急患センターや医療施設(小児プライマリケアセンター)の整備・運営を行う場合、自治体の財政支援が欠かせない。しかし、財政難の自治体においては十分な対応が行えない。 この問題を解決するには、国が小児に対する医療保険給付率を引き上げることにより、自治体における乳幼児医療費助成費用を軽減し、各自治体は軽減された費用の一部を小児プライマリケアセンターの整備・運営費に充てることが必要である。

    ちなみに、必要最小限の機能を持った小児プライマリケアセンターを、全国300程度に再構築した小児専用の広域医療圏に1 カ所ずつ設置した場合、全体で年間約99~114億円の運営費が必要になる。一方、2000年度における自治体の乳幼児医療費助成金額の合計は年間約1,106億円程度と推計される。3歳未満の乳幼児に対する医療保険給付率を現行の7割から8割に引き上げることにより、乳幼児医療費助成金総額のうち約235億円を軽減できる。各自治体は、軽減された費用の半額から全額を小児プライマリケアセンターの整備・運営費に充当することにより、財政問題を解決することができる。
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