コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2002年03月号

【STUDIES】
e-Japan戦略の実現に向けわが国が取り組むべき課題

2002年02月25日 調査部 メディア研究センター 野村敦子


要約

  1. 2001年1月に、日本のIT国家戦略としてe-Japan戦略が発表された。このe-Japan戦略は、IT革命の遂行によりわが国が目指すべき社会像を具体的に提示するとともに、5年以内に世界最先端のIT国家とするという意欲的な目標を掲げたものである。そして、重点的に取り組むべき分野として、a.超高速ネットワークインフラ整備および競争政策、b.電子商取引と新たな環境整備、c.電子政府の実現、d.人材育成の強化、が示されている(その後「ネットワークの安全性、信頼性の確保」が追加された)。

  2. わが国の高度情報通信社会構築への取り組みは、1995年2月に発表された「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」にさかのぼる。しかし、その後瞬く間にインターネットや電子メールが普及するなど、基本方針策定当時には想定していなかったスピードで、経済・社会の情報化・ネットワーク化が進展することとなった。そのようななか、アメリカを始めIT先進国と呼ばれる国々は、情報通信網の高度化や電子政府、教育の情報化への取り組みなど、着実にIT立国への歩みを進めており、わが国との格差を広げつつある。このことに対する危機感から、IT政策を立案・遂行する機関は高度情報通信社会推進本部から情報通信技術戦略本部(IT戦略本部)に改組された。また、民間の意見を政策に迅速に反映させるために、IT戦略会議が設置されることとなった。IT戦略本部とIT戦略会議は2000年11月に、IT基本法ならびにIT基本戦略を発表し、e-Japan戦略が正式に決定された。

  3. IT先進国と呼ばれる国々に追いつき追い越すために、わが国政府は、過去の失敗から得た教訓や海外の先進事例から学べる点は学び、改善すべき点は早急に改めていくべきである。アメリカは93年のNII構想発表以降現在に至るまで、情報社会の構築を国家の最重要課題として位置づけ、大統領の強力なリーダーシップのもと、IT産業の育成や教育の情報化、電子政府の構築、IT基盤技術の研究開発への集中投資などを行っている。当初、アメリカ政府は情報通信基盤の高度化を目標としていたが、現在は、インターネットの高度化やアプリケーションの開発により経済成長や社会福祉の増大を図ることに政策の重点を置いている。イギリスもブレア政権発足以降、「イギリスを世界で最も電子商取引に適した場にする」ことを目指し、「UKオンライン」として、行政・市民生活・ビジネス・教育の情報化への取り組みを進めている。

  4. とくに、教育の情報化や電子政府の基盤づくりで急速な追い上げを示している。一方、アジアに目を転じると、隣国の韓国は、IT立国への取り組みでわが国に先んじており、ブロードバンドの普及では世界のトップに位置している。アジア通貨危機による経済低迷が韓国の情報化への取り組みを加速させたものであり、現在は「サイバーコリア21」として、創造的知識基盤社会の構築を目指している。諸外国とわが国のこれまでの取り組みを比較すると、重点的に取り組むべき分野として掲げられている項目は総じて同じような内容である。しかし、その実行となるとわが国はなかなか進んでいない。その要因としては、政治のリーダーシップの欠如、曖昧な官民の役割分担、競争環境の整備の不徹底、公共・教育分野へのIT集中投資の遅れ、といった点が指摘できる。そのため、a.首相主導による政策の立案・遂行機能の拡充、b.「民間任せ」ではなく「民間主導」のための環境整備、c.明確な達成基準の設定と厳しいフォローアップの実施、d.箱もの行政からの脱却、e.民間の需要を喚起する公共分野や教育分野への重点的投資、が急務である。

  5. さらには、わが国の強みを生かせるような政策を立案することで、日本型IT革命の実現を目指すべきと考えられる。わが国は、「全ての国民がITの恩恵を享受できる社会」を実現するうえで不可欠なモバイル・マルチメディアやデジタル・ネットワーク家電、IPv6などの技術で、諸外国に先行している。政府は、こうした先端分野の研究開発の推進役になると同時に、実用化の障害となる規制の見直しや規格乱立の際の調整、国際標準活動の推進などに対応することが求められる。日本型IT革命を実現するに当たっては、従来型産業や中小企業にIT導入を促すことも急務である。これにより、「ものづくり大国」日本の競争力の源泉をさらに強化することも可能であると考えられる。e-Japan戦略の遂行によりIT革命が加速すれば、企業活動や産業構造が変革され、われわれのライフスタイルや社会のあり方も大きく変容することになる。IT革命後のデジタル・ネットワーク社会において生き残りつづけることのできる企業は、ITの活用により自己変革を成し遂げることができるものであろう。

  6. 政策のあり方も同様で、コンピューターやインターネットなどのIT基盤を家庭や企業、公共機関に導入すれば済むわけではなく、それらを利用することにより経済成長や社会福祉の増大を図ることこそが本来の目的のはずである。ITを活用することにより、地理的、身体的、経済的な制約などにかかわらず、誰もが、必要とする情報やサービスにいつでもアクセスでき、時間・空間にゆとりのある質的にも豊かな社会を実現する、これこそが、真の意味でのIT革命であり、e-Japan戦略の目指すべき社会像である。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ