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Business & Economic Review 2002年02月号

【REPORT】
経常収支黒字急減が意味するもの-高コスト体質を打破して「悪い黒字縮小」を阻止せよ

2002年01月25日 山田久、石川誠


要約

  1. わが国経常収支に大きな変調。すなわち、1998年度に15.2兆円あった黒字幅は、2001年度に10兆円を割り込む見込み。その主因は貿易黒字の急減。現下の経常・貿易黒字縮小は、海外景気低迷といった循環的な下押し圧力による部分もあるが、わが国の産業空洞化が深刻になってきたことの「シグナル」とみることが必要。

  2. 産業空洞化が進む結果、輸出が国際競争力の低下を伴って構造的に伸び悩む一方、輸入が国内生産を代替するという構図が定着し、経常・貿易黒字も「悪い」縮小へ。こうしたメカニズムの推進力の一つとして、中国はじめアジア諸国の技術水準向上を指摘できるが、これはいわば「先進国の宿命」。産業空洞化の真因はむしろ、a.高コスト体質や産業・雇用システムの硬直性を温存していること、b.新規事業開拓や産業高度化、IT導入への取り組みが遅れていること、といった国内事情に求めるべき。

  3. シミュレーションによれば、産業空洞化の進行を放置する場合、わが国経常黒字は標準ケースで7年後、最悪のケースで3年以内に消滅する可能性も。

  4. 90年代のアメリカと現在のわが国では、経常赤字化した場合の意味合いが大きく異なる。すなわち、金融市場が未成熟で、産業空洞化も放置される状況のもとで、わが国の経常黒字が消滅すれば、深刻なトリプル安(円・債券価格・株価の急落)などを通じて、産業活動・国民生活が大打撃を受けかねない。

  5. 危機的シナリオの回避には、産業空洞化にいち早くブレーキを掛けることが必要。それには、高コスト体質の是正、雇用・賃金システムの柔軟性強化、新産業基盤の整備、教育改革が焦眉の急。

  6. もっとも、こうした取り組みを通じて産業空洞化が阻止され、わが国経済が再生に向かうとしても、経常・貿易黒字の中長期的縮小は不可避。結局、目指すべき道は、内需の持続的拡大のもとで「輸入大国」となる一方、非価格競争力の強い製品の輸出を順調に伸ばすことで、「拡大均衡型」の緩やかな黒字縮小-「前川レポート」以来の宿願であった「良い黒字縮小」-を実現すること。
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