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Business & Economic Review 2003年05月号

【STUDIES】
NPOの事業展開と活動環境の在り方-資金調達を中心に

2003年04月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 高坂晶子


要約

  1. 構造改革に取り組むわが国では、公共サービス提供体制の再構築が求められており、市民セクター、なかでもNPO法人の活動に期待がかかる。1998年末の認証開始以来、NPO法人は順調に増加しており、2003年には1万を突破した。従来のNPOのイメージは「無償篤志のボランティア団体」であるが、近年は社会サービスの担い手として、一過性の活動ではなく継続的、組織的な事業への志向を強め、政府、企業と並ぶ真の「サードセクター」へ近づきつつある。

  2. NPO法人の事業内容は、極めて多彩であるが、活動範囲や事業対象等からa.地域性の強いコミュニティ・ビジネス、b.国際協力を行うNGO が国内で行う事業、c.NPOのミッション(組織創設の基礎となる問題意識)に直結した事業、d.ミッションから派生する事業、に整理することが可能である。具体例としてはa.地域福祉や特産品の頒布、b.フェアトレードや海外の文物紹介、c.不登校児童の通所施設、d.医療施設へのコンサルテーション等である。伝統的なNPO事業は、地域社会の相互扶助的サービスや国際協力、個人の抱える問題解決支援であるが、近年は活動の過程で蓄積した経験・知見と社会のニーズを結びつけて事業化するケースが増えている。これらのサービスは、従来NPOと関係の薄い層にも提供されており、NPO 事業の広がりを示す事象である。

  3. NPOが幅広く事業活動を展開するアメリカでは、資金調達(fund raising)は活動の重要な柱である。NPOは組織の安定性と活動の独自性・自立性を保つため、寄付、補助金、助成金、融資など多様なソースからバランスよい資金調達に努める。寄付・助成が受けられそうな申請先の抽出と調査、効果的な申請方法、資金提供者の要求に応えた内部管理体制の強化等に取り組んでいる。

  4. NPO事業の信頼性を高めるうえで適切な資金調達が望ましいが、わが国のNPOの収入構造をみると事業収入と会費の比率が高く、外部資金の調達が不十分である。歴史の浅いわが国のNPOは、会員や地域住民など狭い存立基盤に依拠しがちである。しかし社会を構成する多様な階層・集団のニーズを知り、活動の公益性を維持するうえで、資金を仲立ちとするステイクホルダーとの関係は重要である。現時点では、NPOへの融資や寄付、助成に取り組む組織は限られているが、実績を積み重ね、わが国社会に制度が定着するよう促すことが望まれる。

  5. 外部から資金提供を受けるに当たり、運営管理体制の強化がNPOの課題となる。具体的には効率的・実務的な経営、透明で開かれた組織統治(ガバナンス)、積極的な情報公開、監査や評価等に取り組む必要がある。その一方、NPOの存在意義であるミッションの維持・発展にも努めることが重要である。効率性や有効性の追求は、時にミッションと相反するが、組織形態の柔軟な再編や執行体制の工夫を通じて、事業活動の公益性を追求することが望まれる。

  6. 行政によるNPOの活動環境の整備も重要な課題である。まず、行政と市民セクターの関係を幅広く見直し、NPOを公共サービスの担い手として社会に適切に位置付けることが重要である。そのうえで、事業委託や補助、政策提言等を通じた行政とNPOとの協働の促進、NPOの財政基盤の強化や資金調達環境の充実、NPO活動に対する市民参加支援等を進める必要がある。
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