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Business & Economic Review 2003年04月号

【OPINION】
統一地方選挙に向けての課題

2003年03月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 高坂晶子


2003年は4年に一度の統一地方選挙の年である。第15回を数える今回は、1月から2月にかけて4県と2政令指定都市の首長選(プレ統一選)が行われ、4月13 日に都道府県と政令指定都市の首長・議員の選挙が、4月27日に市区町村の首長・議員の選挙が実施される。選挙の総数は2,361件、全地方選挙に占める割合は35.7%で、市町村合併に伴う時期の変更や任期途中での首長交代等が影響したため、前回に比べると70件余り減少した。とはいえ、沖縄(3件)を除く都道府県の平均実施数は約50件、愛知、岐阜、福岡県では90件前後、北海道では225件もの選挙が行われ、大多数の有権者は投票権を行使する機会を得る。

今回は2000年4月の地方分権一括法施行以来初めての統一地方選挙であり、地方自治の新たなステージにおける選挙となる。また、2005年3月末を期限とする市町村合併特例法の下で、自治の枠組みが問われる選挙でもある。

1995年以来、わが国は地方分権改革に取り組み、財源移譲はいまだ実現していないものの、機関委任事務の廃止や条例制定権の拡大、法定外税の導入等により、自治体の自由度はかなり高まった。この結果、中央省庁の画一的な指導よりも地域事情を重視した施策を行ったり、新行政経営(NPM:new public management )、業績評価と予算の連動、執行と企画の分離など民間の経営手法を採り入れた行革手法)を国に先駆けて採用する自治体が登場しつつある。ただし、先進事例は3,200余を数えるわが国自治体の一部に過ぎない。このような状況下、全国一斉に行われる統一選は、各地の多様な情報が飛び交うなかでわが国地方自治の抱える問題が浮き彫りとなる一方、地域住民がそれを克服する道筋や手法を探り、参考とする絶好の機会といえる。

第15回統一地方選挙を考える際のポイントとして、以下の3点を指摘出来よう。

第1に、今回の統一選を機に、「地方選挙=地域住民による自治体運営の業績評価」という意味合いが定着するであろう。分権改革以前、地方行政の4~7割程度は国の仕事を首長が代行する機関委任事務であり、中央省庁の指示・通達に縛られ全国一律の取り扱いを余儀なくされた。しかし、自治体の仕事の多くが自治事務となり、地方議会の関与も拡大するなか、行政や地域経営について首長や議会の「腕の振るいどころ」は広がった。当然、各自治体ごとに行政手腕や政策責任が問われることとなり、とりわけ地域経営の責任者である首長への審判は業績投票の色彩が濃くなろう。

投票に臨む有権者は、各地のメディアが伝えるユニークな取り組みや先進事例あるいは不祥事や紛糾を通して、選挙への関心を高めたり、比較考量の材料を集めることが可能となる。再選を求める現職首長については、将来に関する選挙公約に劣らず、任期中の言動が重要な判断材料である。有権者は類似の規模・条件の自治体とも比較しつつ、「今後何をするか」と「今まで何をしてきたか」を勘案のうえ、継続か刷新かについての主体的な判断を下すことが望まれる。具体的には、伝統的な公共事業の取り扱いや福祉サービスの内容等に加え、小学校の学級構成・校区の設定や都市計画など新たに地方に移譲された権限の活用状況、役場の定員管理や給与水準の取り扱い、自治体独自の税や条例制定等への取り組み、事業評価や住民参加への積極性等が評価の目安となろう。

第2に、地方分権改革の進展や住民の参加意識の高まりに伴い、地域のガバナンス(統治)の在り方について、従来の枠組みを見直す傾向が強まろう。地方分権改革によって、企画・政策立案=中央官庁、政策・事業の実施=地方自治体という図式が崩れ、自治体には国の指導や庇護に頼らない自立した振る舞いが求められている。従来、自治体は拡大基調の税収と中央からの財政補填のおかげで、公共事業の実施時期・順番や行政サービスの水準に悩むことはあっても、要望の取捨選択を迫られることは稀であった。しかし、深刻な財政制約により住民の多様な要望をすべて満たすことが不可能な現在、行政資源の選択と集中が求められ、住民の合意と納得を得てニーズを調整する、公正、迅速、的確な意思決定が必須である。

ところが実際は、地域の意思決定に携わる首長、議会(議員)、住民の三者の役割や関係が混沌としているため、大規模公共事業や市町村合併等地域の将来を左右する問題が浮上すると、事態の紛糾に歯止めがかからないケースが各地で生じている。本来、わが国地方自治は二元代表制(大統領制ともいい、首長と議会は共に住民から直接信任される)であり、議院内閣制である国のシステムとは異質の統治構造である。また、地方自治の導入当初から住民請求など直接民主主義の仕組みを一部採用し、最近では市町村合併に関する住民投票制度が新たに法定された。しかし、住民をはじめ首長や議会までも、議院内閣制を取る国政とのアナロジーで地方選挙や自治体運営を捉え、地方自治制度の独自性や意義を明確に認識してこなかった。例えば、県議会による知事不信任、知事の失職と再選挙という長野県の一連の出来事は、その端的な事例である。また住民の参加意識の高まりに鈍く、パブリック・コメントや住民投票条例等を「議会制民主主義の否定」と称して拒否反応を示す地方議員が後を絶たないことは、直接民主制を加味した制度への認識不足を示している。このように、わが国では統治の枠組みに対する理解が不十分なまま自治体運営がなされ、様々な問題を生じさせてきたが、今後は住民、首長、議会の三者が、相互の立場や権限を尊重してチェック・アンド・バランスを機能させることが重要である。地方自治制度の根幹に立ち返って関係者の任務や権限を明確に整理し、地域の適切なガバナンスを追求する時期にきている。

第3のポイントとして、今回の統一選では選挙と政党、候補者と政党の関係が問われる局面が増えよう。特定の支持政党を持たない無党派層は80年代末から目立ち始め、90年代半ば以降は最多の政党支持態度となり、今や有権者の過半数を超え(2002 年10 月の読売新聞の世論調査では53.1%)、わが国の選挙結果を左右する存在となっている。

地方選挙において無党派層の動向が鮮明になったのは、95年の東京・大阪知事選(青島・ノック現象)である。その後、東京や千葉、長野、栃木、徳島首長選で政党の推薦・支持を受けない候補が相次いで当選した。同様の傾向は地方の中核都市においても顕著であり、昨年市長選挙が実施された15 県庁所在地の場合、約半分の7 市(福井、横浜、鳥取、山口、高知、新潟、熊本)において、無党派候補が勝利し、うち5市では、政党の支持する現職あるいは後継候補を破って新人市長が誕生した。
無党派層が増加する背景には、政党に対する有権者の深刻な不信感がある。朝日新聞の世論調査(2002年12月)では、政治家を信用している人の比率は15%と過去25年間で最低を記録したという。不信感の原因として、公約の不履行や政治家の無節操な政党間の移動が後を絶たないほか、最近では、小泉内閣における首相と党内「抵抗勢力」の対立や民主党党首選をめぐる混乱など、政党が深刻な機能不全に陥り、自己統治すらおぼつかないことへの危惧や批判もある。さらに地方選挙に特有の要因として、中央政界では対峙する各党が、首長選挙では圧倒的に有利な現職やその後継候補をこぞって支持する、いわゆる「相乗り」候補が一般化していることも、有権者の不信感と無力感を増幅している。

地方選挙と政党の関係については、「生活に密着した問題に対処する地方自治に党派性は不要」という主張もある。確かにイデオロギー対立を軸とする55年体制下の政党は、地方自治になじまないところがあったし、地方自治法上、議員定数の上限が10 人台の市町村(人口1万人未満)に、中央政党と連動した党派性を求めるのは現実的でない。しかし、都道府県や中規模以上の都市においては、今後、政党の役割が拡大する可能性が高い。

地方分権に伴って事務事業の範囲が拡大する一方、深刻な財政状況下での自立を求められる自治体では、個々の事務事業単位の是非ではなく、地域経営全体からみた優先順位の設定や資源の投入方針をめぐり、体系的な議論が求められる。この複雑な作業において、有権者のニーズを吸い上げ、解決策を考えて体系化し、選挙の争点に据えることを本来的機能とする政党の存在は無視しえず、地方自治の場でも、政党の存在感は増すものと予想される。無党派層は政治に無関心というより既存の政治の在り方に失望しており、身近な問題で優れた政策体系を打ち出す政党に対しては支持態度を復活させよう。政党側からみても、地方組織は有権者の切実なニーズを知る窓口、あるいは支持や人材獲得の源泉として重要であり、地方自治とのかかわり方を見直す動きも出始めている。自由、民主両党は中央での与野党対立が激化するなか、一部地域で相乗り候補の見直しに着手している。このような動きが全国に広がり、今回の地方選挙において、政党と選挙、有権者の新たな関係が提示されることが望まれる。

このように、来る4月の統一選は、今後の地方自治の鍵を握る重要な選択の機会であるが、近年のわが国の選挙動向は低調を極めている。昨年10月に行われた衆参の統一補欠選挙では、すべての選挙区で投票率が前回を下回り、最低の参院千葉選挙区では24.1 %にとどまった。前回統一選では60%前後あった地方選挙の投票率も低下の一途をたどっており、2001年3月の千葉県知事選では36.9%、昨年の横浜(39.4%)、新潟(39.1%)、金沢(26.4%)と地方中核都市の市長選でも軒並み低投票率が続いている。地方選挙の場合、低投票率に加え無投票当選が多い点も問題である。前回の統一選では、44道府県議員選挙の総定数2,669のうち16.8%に当たる448人が無投票で当選し、最多の広島県議選の場合、議員定数70人中43%に当たる30人が無投票で選出された。多くの市町村では無投票と多選が同時並行的に生じており、2003年入り後に限っても、首長選では岩手県藤沢町(7選、91年を除き無投票)、富山県福岡町(5選、前町長時代から通算9回無投票)、岐阜県春日村(6選、95年を除き無投票)、長崎県琴海町(6選、連続無投票)など多数の事例がある。また高知県馬路村議会選挙では、10人の現職が無投票当選し、議会の顔ぶれは全く変わらなかった。無投票当選が続く結果、有権者の選ぶ権利が奪われるほか、公開の場で地域の問題を真剣に論じる機会が少なくなる、多選については、人事・組織や運営方針が固定化するため、執行機関の硬直化を招き環境変化に十分対応出来ない等の弊害が各地で指摘されている。

このような地方選挙の停滞を打破するため、今回の統一選を機に、選ぶ側、選ばれる側双方において、意識的な努力が必要である。

まず選ばれる側のうち、候補者については、現職・新人を問わず、日頃から自らの考えを可能な限り体系化し、人となりや所属政党等の情報と併せ、広く有権者に訴えることが重要である。地域の現状を踏まえた具体的で理解の容易な政策が好ましく、支持の拡大を狙った総花的なスローガンではなく、限られた行政資源をどの分野に割り振るか、施策の優先順位とスケジュール、財源の手当ては最低限示す必要がある。

選挙期間中は選挙公報や合同演説会などを通じ、より具体的な政策を有権者に伝えることが望まれるが、態勢が追いつかない自治体も多い。地方選での選挙公報の配布は知事選のみが義務となっている。都道府県議会選挙で公報を発行しているのは25都道府県、政令指定都市の広島市ですら今回の市長選が初の配布となり、多くの市町村は選挙公報を発行していない。住居の密集する都市部と異なり広域で集落が点在する地方部では、短い選挙期間中に配布を完了すること自体が困難なうえ、経費もネックとなる。しかし、複雑な政策を理解するには紙面が最適であるし、当選後に公約の遵守状況をチェックするにも有益であることから、自治体の積極的な取り組みが望まれる。
また、公職選挙法の改正(83年)により立ち会い演説会が禁止され、候補者の論戦の機会は激減したが、最近になってNPO等が調整・支援し、各候補共催の合同演説会が実現するケースがみられる。中立な立場の民間団体が各陣営と開催場所や日時、討論のテーマや形式(一回限りの演説か討論か、反論は認めるかなど)、時間等を決め、会場運営やメディア対応も担当する。当初は個人攻撃、やじ等による紛糾が懸念されたが、聴衆へあらかじめ整理券を配ったり、演説会の冒頭にルールを周知するなどして円滑に開催実績が積み重ねられてきた。今回の統一選を機に、各地で民間団体の取り組みが活発化し、候補者が一堂に会して討論する貴重な機会が提供されることが望まれる。なお、現職議員の場合、合同演説会に頼らなくとも議会の場で十分論戦が可能なはずだが、現実には地方議会の形骸化がいわれて久しい。年間を通じて一般質問が数回と不活発な本会議、政務調査費や委員会議事録等の公開に消極的な姿勢、議長人事等をめぐる内紛による審議の停滞などの事例が多くみられる。都道府県、市町村を問わず、議会運営の見直しと活動の充実が強く求められる。

候補者と政党の関係については、近年、無党派層の動向にとらわれて政党から公認・推薦を得ても曖昧にしたり、強固な支持層を固めれば当選が見込めるため、投票率の上昇は逆効果とばかり街頭での選挙活動を忌避する候補者が増えつつある。これらは、有権者に対する説明責任の点からみて問題である。また、政党の支持・推薦を受けながら、当該政党の政策体系から逸脱・矛盾する公約を掲げる例が後を絶たないが、今後は候補者と政党・政策体系の間に厳正な関係を保つことが求められる。
選ばれる側では政党の役割も非常に大きい。魅力的な候補者を擁立出来ない政党は無投票当選の最大の責任者であることを自覚のう、相乗りと併せて従来の姿勢を根本から見直す必要がある。基礎的自治体(市町村)レベルからの、意欲ある人材の発掘、トレーニング、擁立に一貫して取り組む姿勢が重要である。有権者の既成政党や政治に対する不信感は極めて深刻である一方、民間非営利セクターの台頭にみられるように、「官」が独占してきた公共性を市民の立場で再構築する動きも生じており、政治家や政策立案スタッフを目指す人材の発掘は十分可能である。政党はこれらの人材に対して、地方自治の仕組みなど基礎教育から政策・条例立案能力の向上、資金調達・管理や選挙運営など実務ノウハウの伝達、家族への説得や地盤の調整まで、すべての面で積極的にバックアップする姿勢が必要である。民間機関が政治志望者に研修機会を提供したり、議員や支援団体が体験談・ノウハウ集を出版する動きもあるなか、政治家のリクルートに真っ先に取り組むべき政党の動きが鈍い現状は問題である。

選ぶ側の有権者がなすべきことは、身近な選挙に興味を持ち、情報を集め、主体的に判断することにつきる。たとえ日頃は政治に関心が薄くとも、選挙戦の前に急増する報道を丁寧に追うことで十分な情報が得られる。地方のメディア、とくにローカル・ペーパーは、地方選挙の数カ月前から各自治体の現状や課題、現職の実績と候補者の抱負、政党・党派の動き、他の地域の先進事例などを織り込んだ企画・連載を積極的に展開するので、有権者はそれらの報道と生活実感や居住地域の実情を突き合わせ、自分なりの評価尺度を持つことが可能となる。また、高齢化により急増する介護・医療ニーズ、長年積み重ねてきた公共事業による莫大な地方債残高、税収不足に伴う財政赤字、景気悪化と雇用問題、2005年に期限が来る市町村合併など地方には問題山積であるが、有権者は関心のある分野を決めて候補者の実績や公約を比較し、投票の目安とすることも一案である。さらに、情報公開や住民参加など自治体運営の在り方、あるいは地方自治に特有な制度と首長・議会・住民の関係など、日常的な争点となりにくい問題についてもしっかり意識したうえで、主体的な判断を下すことが出来れば、極めて有意義な投票行動といえよう。また、政党との関係については、県(市町村)政の刷新を望む余り、無党派候補の新鮮さを好感する傾向がみられるが、有権者が政党の果たす役割を理解しつつ公約の実現可能性を吟味したうえで支持態度を決めることが、政党の活性化と政策本位の選挙戦を促すと思われる。

現在、わが国社会は、国政の閉塞感が強まる一方、現場に近い強みを生かして改革に取り組む先進的な首長の存在が注目を集め、「地方発の改革」に期待が持たれる状況にある。一般に任期が決まっている地方選挙は、政局によって突如解散・総選挙が行われる国政(衆議院選)とは異なり、選ぶ側、選ばれる側双方が相応の体制を整えて臨むことが出来るはずである。今回の統一選を機に、実質的で優れた政策論争が日本全国で展開され、住民自身が地域の運営方針を選び、当選者がこれを実行する構図が定着することが強く望まれる。
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