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Business & Economic Review 2004年03月号

【OPINION】
地方分権改革の原点に立ち戻った補助金改革を-2004年度補助金改革の評価と今後の課題

2004年02月25日 蜂屋勝弘


  1. 2004年度予算での地方向け補助金改革の概要
    国と地方の財政を一体で見直す、いわゆる「三位一体改革」の一環として、地方向け補助金の改革が具体的に進み始めた。2004年度予算では、2003年6月の「基本方針2003」および11月の小泉首相による地方向け補助金「1兆円」削減指示を受けて、総額1兆300億円の地方向け補助金が削減される。
    地方向け補助金削減の主な内容をみると、公共事業関連の補助金等が総額で4,527億円削減されることに加え、義務教育費国庫負担金のうち退職金および児童手当等(2,309億円)や、児童保護費等負担金のうち公立保育所運営費(1,661億円)といった義務的・経常的色彩の強いものも対象となっている。もっとも、こうした廃止・縮減される補助金のうち、引き続き地方自治体が主体となって実施する必要のあるものについては、一般財源化によって財源が確保される。一般財源化とは、使途に制限のある補助金を使途に制限のない他の財源に切り替えることで、今回は、先述の義務教育費国庫負担金、児童保護費等負担金を含め、総額4,749億円となっている。ただし、これまでの一般財源化の主な手法が、補助金から地方交付税への切り替えであったのに対し、今回は税源移譲をメインに一般財源化される点で大きく異なる。
    一般財源化の中身をみると、税源移譲の総額は4,249億円で、このうち2004年度の補助金削減に伴うものが、先述の児童保護費等負担金を含む2,198億円、残りは2003年度の補助金改革での一般財源化分となっている。地方には所得税が移譲され、2006年度までに個人住民税に切り替えられる予定である。もっとも、このような本格的な税源移譲には所得税と個人住民税の双方で大幅な税制改革が必要となることから、2004年度には本格的な税源移譲は行われず、暫定措置として所得譲与税が新設され、都道府県及び市町村に対して、所得税収の一部が人口を基準に譲与されることになっている。
    これに対し、義務教育費国庫負担金(うち退職手当および児童手当)等は新設の税源移譲予定交付金に切り替えられる。これらも、当初は税源移譲される予定となっていたものの、a.額の大きな変動が見込まれる、b.税源移譲したところで地方の裁量の拡大につながらない、といった理由から、2004年度での税源移譲が見送られ、将来の税源移譲を前提に、暫定措置として税源移譲予定交付金に切り替えられることとなった。

  2. 地方向け補助金改革の必要性
    2004年度予算での地方向け補助金削減の具体化にあたっては、取りまとめに多くのエネルギーが注がれた。しかしながら、権限や税源の移譲を巡る国と地方の対立が厳しくなるに伴い、議論自体が条件闘争と数字合わせに矮小化され、結局のところ、得られた結論(アウト・プット)は、地方分権改革の推進やプライマリー・バランスの均衡化といった、地方向け補助金改革(という政策)に求められる成果(アウト・カム)に照らして、不十分な内容と言わざるを得ない。
    そもそも、なぜ地方向け補助金を削減する必要があるかを改めて問うと、限られた財源を有効に活用出来る新たな財政システムの構築を目指して、以下のような効果を期待するからにほかならない。
    第1は、財政支出の効率性の向上である。わが国の補助金は、基本的に地方の提供する特定の行政サービスにかかる経費の一定割合を補助する特定定率補助金となっている。特定定率補助金の場合、補助対象となる事業を拡大するほど多くの補助金が得られることから、地方歳出の配分が地域住民の真のニーズとは乖離し、補助対象となる事業に偏る傾向にある。これに対し、地方の歳出額に依存しない特定定額補助金や、さらには使途も限定されない一般補助金や税源移譲の場合、地方歳出の配分に地方のニーズが反映されやすくなることから、特定定率補助金に比べて行政サービスに対する住民の満足度が高まるというのが、経済理論での帰結である。
    第2は、地域の個性に応じた行政サービスの拡大である。行政サービスに対するニーズが地域ごとに異なったり、地域のニーズに関する国と地方の認識に隔たりがある場合、国による画一的な行政サービスでは、住民のニーズを汲み取ることが出来ず、行政サービスに対する地域住民の不満が高まるといわれている。実際に、わが国では、補助金の交付にあたって、補助の対象となる行政サービスが国の規定する画一的な基準・規格に則っていることが求められているため、行政サービスに地域特有の事情が反映され難く、結果的に、行政サービスが過剰になったり、不適切になるという弊害が指摘されている。
    第3は、地方における受益と負担の関係の明確化である。現在のように、地方の提供する行政サービスの財源の多くが、国からの補助金や地方交付税で賄われる財政システムの場合、地域住民にとっては、自らの受け取る行政サービスが安価に感じられるため、行政サービスの提供に対するコスト意識が醸成されず、サービスの要不要や業務運営の非効率に対する地域住民の監視の目が甘くなりかねない。さらには、地域における追加的な負担を回避しつつ、より多くの行政サービスを受けるために、地域へ補助金を多く誘導する政治家が評価されるなど、政治、行政、経済など地域全体が補助金への依存体質を強める可能性が高い。
    第4は、プライマリー・バランスの黒字化である。以上のような効果によって、効率的な財政システムが構築された暁には、プライマリー・バランスの黒字化という目標達成にも資することになろう。もっとも、一国全体で25兆円を超える大幅なプライマリー赤字である現状を踏まえると、補助金の削減分の大半を税源移譲や地方交付税に切り替えるだけでは、プライマリー・バランスの黒字化には不十分であり、補助対象となっている行政サービスごとに継続の必要性をゼロベースで吟味したうえで、不要不急のサービスの廃止や、事業を継続する場合でも地方自治体による独自の増税や新規借り入れを辞さない覚悟も必要となろう。

  3. 2004年度の地方向け補助金改革の評価
    以上、地方向け補助金を削減することの必要性を踏まえると、補助金の削減にあたっては、単に補助金の規模を圧縮するだけでなく、a.地方分権改革の推進や、b.行政サービスの必要性の吟味を促すという視点が不可欠である。この点、今回の1兆円削減の内容は、十分とは言えない。
    第1に、地方の裁量拡大につながらない補助金が削減・税源移譲の対象となっている点である。今回、義務教育費国庫負担金等のうち退職手当について、将来の税源移譲を前提に暫定的に税源移譲予定交付金に切り替えられることになった。しかしながら、すでに確定している退職手当は事実上の政府債務であり、これに対する補助金を税源移譲したところで地方の裁量拡大には結び付かないだけでなく、税源の乏しい地域においては、他の行政サービスへの圧迫要因にもなりかねない。そもそも、地方による義務教育費国庫負担金の一般財源化(税源移譲)要望の真意が、教育内容の充実に向けて地域独自の施策が自由に行えるように、教職員の人数や給与水準に対する規制を外すことであることを忘れてはならない。すでに確定している退職手当に対する補助金を削減する場合には、税源移譲ではなく、地方交付税などによって財源の乏しい地域であっても最低限の財源が確保出来るよう配慮すべきであろう。もっとも、この点、今回の税源移譲予定交付金化は、地方の財政運営に配慮し、暫定的ながらも完全な税源移譲が回避された点で、一定の評価は出来よう。
    第2に、地方の裁量拡大につながる補助金の縮減が不十分である。地方分権改革の推進とそれに伴う地域間格差拡大の弊害を比較考量すると、補助金の削減は奨励的補助金や公共事業関連を中心に推進することが求められる。これは、奨励的事業や公共事業の場合、事業の実施にあたって、全国レベルでの公平性よりも事業自体の効率性が重視されるためである。この点、奨励的補助金については2,643億円の削減にとどまり、公共事業関連の補助金については、見かけ上4,527億円削減されるもの、「まちづくり交付金」の創設によって1,330 億円が新たに確保されることから、これを除いた実質的な削減額は3,200億円にとどまる。地域の負担と責任で行政サービスを提供するという地方分権の趣旨に照らすと、裁量的色彩の濃い奨励的補助金や公共事業に対する補助金については、全廃をも視野に入れた一段の見直しが不可欠である。
    第3に、プライマリー均衡の達成には不十分である。今回の改革では、2004年度分だけで4,507億円(2004年度分の税源移譲2,198億円+税源移譲予定交付金2,309億円)の財源が税源移譲されることになっており、プライマリー赤字の縮小に直接結びつくのは、これを除く5,800億円分である。仮に、今後もこの比率で税源移譲されるとすると、4兆円の補助金削減で見込まれるプライマリー赤字の縮小規模は4.2兆円程度と試算され、25兆円を超えるプライマリー赤字の均衡化には、依然として力不足といえよう。プライマリー均衡化の達成には、行政サービスの必要性の吟味を強力に促すことが重要であり、それには税源移譲等の代替財源を前提としない補助金削減の比率を高める必要がある。しかしながら、義務教育や社会保障・福祉といった事業に対する補助金を縮減する場合には、代替財源が不可欠であることを勘案すると、こうした補助金を中心にした補助金改革でのプライマリー均衡化目標の達成には明らかに無理がある。したがって、今後の補助金改革には、4兆円の補助金削減については、代替財源を要しない奨励的補助金や公共事業関連の補助金を中心に改革を行い、義務教育や社会保障・福祉向けの補助金は、別途、国と地方の役割分担見直しの観点から、税源移譲や地方交付税に置き換えるといった方向性が求められる。

  4. 原点に戻った補助金改革を
    このように、今回の補助金改革が不十分な内容となった背景には、利害関係者の対立に加えて、具体案の選定過程で示された削減対象の選定基準が、補助率の低いものや一定期間を経過したものといった外形的なものにとどまった点も挙げられよう。確かに、具体案選定のたたき台として、こうした基準に基づいて選定した補助金について、その必要性を吟味することは有効である。しかしながら、今回の補助金改革が、とくに「三位一体改革」の一環で行われているという経緯を踏まえると、今求められるのは、国と地方の関係に関する原点に立ち返った議論であり、具体案の選定にあたっては、以下の三つの視点を前面に押し出した吟味が求められる。
    第1は、事業の必要性の吟味である。まず、現在行っている行政サービスについて、そもそも継続する必要があるか否かを問うことが出発点となる。継続の必要性の乏しい事業に対する補助金は、代替財源の手当てなしに廃止することが本来の姿である。仮に、地方が事業の継続を望む場合には、地方分権の精神に則って、自らの裁量と責任で地方税の増税や地方債の発行(当然、元利償還財源は地方交付税に算入されない)で賄うことになる。
    第2は、事業内容への国の関与の必要性の吟味である。継続する必要がある事業について、国が関与すべき事業と関与すべきでない事業を峻別し、地方で出来る事業であっても、国が関与すべき事業については、引き続き国の責任で実施し、関与の度合いに応じた財源面のサポートも継続すべきである。もっとも、従来通りの補助金を継続するか否については、別途議論を要し、その際、地方の裁量拡大という観点からは、用途をある程度限定したうえで定額補助金化といった方法が考えられる。ちなみに、国が関与すべき事業としては、例えば、a.全国統一的な基準が求められる事業、b.国策として推進すべき事業、といった事業が考えられ、具体的には、生活保護、公立保育所、義務教育などが該当しよう。
    第3は、地方にゆだねることの弊害の吟味である。財源調達まで完全に地方にゆだねることが最善とは限らない。次のような事業については、国が財源面でのサポートを行う必要がある。
    まず、純粋公共財の性格が強い事業である。こうした事業について完全に地方に任せると、経済理論上は供給量が最適な量より少なくなる。こうした事態を回避し、国全体で望ましい行政サービスの水準を確保するための方策として、国による補助金は一定の有効性を持つ。
    次に、過度の地域間格差が望ましくない事業である。地方分権の結果として、地域間格差の拡大は不可避である。とくに、税源移譲を通じて補助金を地方税に切り替える場合には、大都市圏の税源はより豊かに、地方の税源はより乏しくなるため、これが、地域の裁量とは無関係に行政サービスの地域間格差に直結する事態も懸念される。例えば、都道府県向けの補助金について、地域偏在の小さい義務的経費向けの補助金を地域偏在の小さい地方消費税に切り替える場合でも、三大都市圏の都府県が増収になるのに対し、それ以外の地域の道県は減収となる。税源移譲は地方分権改革推進の大前提ながら、過度の地域間格差が望ましくない行政サービスについては、税源移譲ではなく、むしろ、一定の政策効果サービス水準の達成を義務付けたうえで、地方交付税に切り替えることが、多くの地域にとって望ましいように思われる。
    もっとも、その際、同時に現在の地方交付税制度の問題を解消する必要がある。地方交付税は、地方税と同様に使途に制限のない一般財源であることから、補助金に比べて弊害が少ないとされている。しかしながら、地方交付税の規模の肥大化に伴って、地方の受益と負担の関係が不明確となり、それが地方の歳出拡大を通じて地方交付税の規模の肥大化につながるという点では、補助金と同様の問題を抱えている。加えて、実際問題として、現在の地方交付税の財源をみると、本来の財源である国税収の一定割合以上の財源が、一般会計での臨時加算や特別会計での借入金によって追加されており、これが一国の財政状況の悪化の一因として問題視されている。こうした問題を解消し、地方交付税制度自体の持続可能性を高めるとともに、地方の受益と負担の明確化を通じた地方分権改革を一段と推進するには、地方交付税の規模を必要最小限にとどめる必要があり、そのためには地方交付税の財源保障機能としての役割を縮小し、地方交付税を地域間の財源格差の調整に徹する制度に改めることが求められる。
    地方交付税制度改革は、「三位一体改革」の「三位」の一つであり、本来、補助金改革と一体で実行されるべき改革である。今回の改革では、補助金改革のみが先行し、地方交付税制度改革が先送りされており、この点でも、今回の補助金改革は不十分である。

  5. 重要となる政治の役割
    従来のわが国の財政システムは、「地域間の均衡ある発展」に象徴されるように、地域間格差の是正と国家全体での生活水準の底上げを目指し、多くの行政サービスの財源を最終的に国が保障するシステムであった。しかしながら、a.生活水準の向上、b.地域行政に対するニーズの多様化、c.プライマリー赤字の深刻化、のもとで、従来のシステムによる弊害が無視出来ない状況になっており、補助金削減を通じた地方分権改革の推進は不可欠である。ただし、地方分権改革には必然的に地域間格差の拡大が伴うことも事実であり、地方分権改革の推進にあたっては、地域の多様性を生かすという方向性のもとで、どこまで地域間格差が容認出来るかといった視点が求められる。こうした視点で国と地方の役割を見直すことが、原点に立ち戻った議論であり、そこで問われるのは「地方で出来る事業は何か」に加えて、将来のわが国を展望したときに、「国が行うべき事業は何か」であろう。そうした国で行うべき事業について明確なビジョンを示すことが、今の政治に求められている。
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