コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2004年01月号

【STUDIES】
通信・放送融合の進展と変革を迫られる通信市場

2003年12月25日 調査部 IT政策研究センター  野村敦子


要約
  1. 情報通信分野における技術革新を背景として、通信と放送の融合が進展している。例えば、通信用の伝送路を利用した放送コンテンツの配信サービスやデジタル放送とインターネットを連携させたサービスなど、伝送路やコンテンツ・サービスの共用化が進んでいる。また、通信と放送の両方のサービスを提供する事業者、両方のサービスを利用可能な端末なども登場している。これらが、通信と放送の融合と呼ばれる現象である。通信と放送の融合の進展に伴い、ブロードバンド放送やプラットフォーム・ビジネスなど、従来の通信や放送の枠組みを超えてビジネスの領域が広がっており、新たな市場やビジネスモデルが創出されることが期待されている。通信と放送の融合が進展している技術的要因としては、a.伝送路・コンテンツ・端末等のデジタル化、b.伝送路のブロードバンド化、c.コンテンツ配信技術の開発と高度化(ストリーミング技術や圧縮技術、CDNなど)、などが挙げられる。

  2. 通信と放送の融合の進展は、通信市場に新たなビジネスチャンスをもたらすだけでなく、通信ビジネスの収益構造や競争環境に変化を生じさせている。
    第1に、ブロードバンドは、電子メールやIP 電話などコミュニケーション手段の多様化をもたらし、通信料金体系に定額制を導入する契機となっている。また、ブロードバンド市場では事業者間競争が激化しており、利用料金の低価格化も進行している。ユーザーのネットワーク利用は固定電話からブロードバンドへの移行が加速しており、これまでの通信ビジネスの柱であった固定電話市場は縮小している。固定電話に代わり、通信事業者の経営を支えてきた携帯電話市場も成熟化が進んでおり、これまでのような利用者の増加による市場の拡大は期待しにくい状況にある。
    第2に、ブロードバンド市場には、異業種から多くの事業者が参入し、プレーヤーの多様化が進んでいる。そのなかでもとくに、電力事業者は通信事業者の強力なライバルになるとみられている。
    このように、市場環境が厳しさを増すなか、経営破綻する企業も出てきている。

  3. 通信と放送の融合を背景に、通信ビジネスの領域の拡大や必要とされる機能、プレーヤーの多様化などが進み、従来の通信と放送という二つの枠組みに単純に当てはめることが出来なくなりつつある。欧米先進国では、情報通信分野を取り巻く環境の変化に応じて、これに関連する制度を見直し、技術革新の成果を新たな市場の育成につなげることが出来るように環境整備を図っている。アメリカでは、通信・放送ともに電気通信法において規律されている。1996年の電気通信法改正で大幅な規制緩和が実施されており、通信・ケーブルテレビの相互参入などが可能になっている。EU でも、2002年に情報通信分野の新たな規制の在り方を定めた電気通信規制パッケージが採択され、加盟各国は通信と放送の両分野を統合した新しい制度の構築に取り組んでいる。イギリスではこれを受けて、通信・放送両分野を規律する新通信法を制定するとともに、情報通信分野の規制監督機関であるOFCOM を創設している。

  4. わが国も、欧米先進国の取り組みに後れをとることなく、早急に制度の在り方を見直すべきである。具体的には、通信と放送の両分野で重なり合う部分が大きくなっている現状を踏まえ、両分野の制度を統合し、最低限の規制を課すことが必要なものを明確化し、それ以外は原則自由とするなど、競争メカニズムが有効に作用するように制度を抜本的に見直す必要がある。一方、行政組織については、産業振興と規制・監督の両機能を一省単独で担当する現在の形を見直すべきであろう。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ