2005年06月15日 |
個人所得課税改革の課題 ~子育て・就労・教育をサポートする税制改革を~ |
1.所得課税改革の背景 | |
(1) | 累次の減税による所得税収の大幅な減少 |
(2) | 経済社会の構造変化への対応 |
(3) | 三位一体改革の一環である国から地方への税源移譲 |
2.政府税制調査会報告書(6月21日公表予定)で示される方向性 | |
上記のような背景によって、具体的に示される項目案は次の通り。 (2005年6月21日公表予定の政府税制調査会の報告書案について報じた6月11日付各紙およびそれまでの報道 に基づく日本総合研究所の整理) | |
・給与所得控除の縮小。特定支出控除の対象拡大 ・配偶者控除の廃止を含めた見直し ・特定扶養控除の廃止・縮小 ・扶養控除の税額控除化 ・退職所得課税の強化 ・個人住民税の生命保険料控除・損害保険料控除廃止 ・税率ブラケットの見直し ・所得税の5%税率ブラケットの新設、最高税率の40%への引き上げ ・住民税率の10%フラット化 ・所得区分の見直し ・個人事業者の帳簿管理徹底などによる所得把握強化 | |
3.本稿の目的 | |
本稿は、今後の議論への寄与を目的とし、そのために次の2点を行う。 | |
(1) | 税額控除(Tax Credit)に関する米・英を中心とした事例分析(注1) 税額控除の既導入国であるOECD諸国なかんずく米・英に関し分析を行い、わが国への示唆を得る。ちなみに、米国は、古くより税額控除を導入している国であり、クリントン政権によって制度はさらに強化されている。また、英 国は近年、税と社会保障の一体改革を行うなかで、米国などの事例にならい税額控除を導入している。 |
(2) | 所得課税改革に関する試算(注2) 扶養控除等の廃止と税額控除導入をはじめとする所得課税改革に関する試算を行う。特に、還付方式を含めた 税額控除の特質を把握するためには、世帯形態別・収入階級別に試算を行うことが欠かせない。なお、税源移譲 に関しては、議論の本格化が今秋に予定されているため、稿を改める。 |
(注1)今般、税調が報告書案のなかで掲げる諸項目の大部分、すなわち給与所得控除の縮小、配偶者控除の見直しなどは繰り返し議論されてきたものであり、また、程度や実施タイミングの問題であるともいえる。これに対し、「所得控除から税額控除への切り替え」は、所得控除を税制上の控除の中心に据えてきたわが国においては、比較的新しいテーマであり、かつ、実現すれば所得課税に関する考え方の転換と呼びうるものとなる。そのためもあり、議論は緒に付いたばかりの感がある。例えば、伝統的な税額控除の概念である非還付方式だけでなく、還付方式についても一層の議論が積み重ねられていく必要がある。 (注2)政府税調の報告書案で示される各項目の方向性が税収増を色濃く志向していながらも、それらが、定量的には十分に明らかになっておらず、定量化が望まれるということである。所得課税改革が家計の日々の生活や将来設計・マクロ経済に及ぼす影響は当然のことながら大きく、結果として税収増が不可避であるとしても、不確実性を減じ、かつ、国民の理解を深めるという観点などから、極力定量的に議論が進められることが重要であろう。 |